器物損壊罪のほうが刑が重い…「国旗損壊罪」がツッコミどころ満載で自民党内からも反対の声

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衆議院で始まった国旗損壊処罰法の審議に対し、自民党内からも疑問や慎重論が相次いでいる。石破茂前首相が「法理論的に正しくない」と指摘したほか、岩屋毅前外務大臣は「必要性がない」と主張。さらに右派として知られる西田昌司参院議員も「立法事実に疑問がある」と語るなど、党内でも波紋が広がっている。

まるで成立しない論理

そもそもの発端は、自民党と日本維新の会が交わした連立合意書に、国旗損壊罪を制定すると盛り込まれたことだった。そこにはこう記されている。

「令和八年通常国会において、『日本国国章損壊罪』を制定し、『外国国章損壊罪』のみ存在する矛盾を是正する」

6月24日衆議院内閣委員会で始まった審議において、法案の提出者を代表して主旨説明を行った松野博一衆院議員はこう述べた。

「国旗を大切に思う気持ちは万国共通と思われますが、我が国ではG7で唯一、外国国旗の損壊等に関する罪の規定はあるものの、自国国旗の損壊については同様の規定がないという状況です。国旗を大切に思う国民感情を保護するため、日本国旗を損壊等する行為についての処罰規定を設ける本法案を取りまとめました」

だが、この前提そのものが誤りであると鋭く指摘するのが、前総務大臣の自民党・村上誠一郎衆院議員だ。

「『外国国章損壊罪』が内包しているのは『国際関係の平穏』という国家的安全保障上の法益、つまり外交上不利益にならないように罰則を定めて抑止しているのです。これと自国内における自国旗の損壊という文脈を同列に扱う論理はまるで成立し得ません」

また、「G7で唯一、自国国旗の損壊についての規定がない」という説明も正確とは言えない。

何が罪に問われるのか…極めて曖昧な判断基準

確かにアメリカでは多くの州で国旗損壊罪があるが、1989年に最高裁で違憲判決が出たことで実質的に効力を失っている。これは、1984年に活動家のグレゴリー・リー・ジョンソンがレーガン政権の政策に抗議するデモで国旗を損壊したという罪に問われた裁判だ。

一審のテキサス州では有罪となったものの、同州の上訴審で逆転無罪となり、連邦最高裁もこれを支持した。「表現の自由」を認めた判決であり、裏を返せば、この種の法制化には表現の自由を脅かすリスクが潜んでいることを示している。

そもそも、この法律が成立した場合、どのような行為が罪に問われ、いかなる処罰を受けるのだろうか。法案の第2条には以下のように規定されている。

「人に著しく不快又は嫌悪の情を催されるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する」(第二条)

しかし、実際にその罪に該当するかどうかの判断は、「行為の形や周囲の状況、その他客観的な事情を総合的に考慮して判断する」と極めて曖昧である。

村上氏はその点にも警鐘を鳴らす。

「『不快だ』などという個人の主観的な感情をどうやって判断するのか。これでは運用する側の胸三寸で、どうにでもなってしまうのではないか。刑事罰を科す対象を、誰かに具体的な実害を与えたかどうかではなく、『著しい不快や嫌悪』といった主観的・感情的な受け止め方に委ねることは、刑法の『明確性の原則』に反している。立法府のメンバーである国会議員があれをおかしいと思わないのが不思議だ」

器物損壊罪のほうが刑が重い

内閣委員会の審議では、まず中道改革連合の階猛議員が、被害者の告訴がなくても起訴できる「非親告罪」とされている点に疑問を投げかけた。

「人に著しく不快または嫌悪の情を催させる方法を客観的に判断するというのなら、その行為の一番の当事者である国旗の所有者がどう感じるかを重視すべきだ。その人が被害者として告訴するかどうかを待ってから処罰すべきではないか」

階氏はその上で、憲法31条の罪刑法定主義に反すると指摘する。

「『人に著しく不快または嫌悪の情を催させる』に当たるかどうかは通常の判断能力を有する一般人の理解において判断できない。明確性の原則に反し、違憲立法の疑いがある」

また、この法案の最大の問題として指摘されているのが「立法事実(法案を必要とする客観的な根拠)がない」ということだ。

「既存の器物損壊罪や窃盗罪、威力業務妨害罪等の法令で、実害への対処はすでに完全に網羅されている。だから、新たに立法するための客観的根拠はない」(前出・村上議員)

中道改革連合の後藤祐一議員が、これまでに国旗が傷つけられ、それによって国民感情が傷つけられたという具体的な「立法事実」があるのかを質すと、答弁に立った自民党の高木啓議員は、過去の事例として以下の4件を提示した。

「一概にお答えできないが、実際に国旗の損壊が行われた事例として、昭和62年に競技会場に掲揚されていた日の丸を引きずり下ろし、ライターで火をつけて掲げたのち、その場で投げ捨て半分ほど消失させた事例。二つ目は平成3年に大学生4人が大学の正門に掲揚されていた日の丸を引きずり下ろした事例。3つ目は平成8年に旧日本海軍殉職者記念碑近くのポールに掲揚されていた日の丸を焼いた事例。4つ目には、平成20年に神社の境内で参拝客が所持していた日の丸を奪い、足で踏みつけた上、竿を折った事例」

これに対して後藤氏は「その4つの事例はすべて器物損壊罪の対象だ。器物損壊罪の方が(国旗損壊罪よりも)刑が重いので、そっちが適用される」として立法事実とは言えないと指摘した。

実は、この法案を提出した当事者たちの間からも「立法事実はない」と公言する声が上がっている。

共同提出に加わった野党の思惑

今回の法案は自民党と日本維新の会だけでなく、参政党と国民民主党も共同提出者に名を連ねているが、その国民民主党の玉木雄一郎代表さえも、6月16日の記者会見で「立法事実はない」と明言していたのだ。

この矛盾について後藤氏が追及すると、国民民主党の提出者である飯泉嘉門衆院議員は次のように釈明した。

「与党との協議の過程で、なかなか現実にそうした(立法事実となる)事例が少ないと申し上げた。問題となる事案の発生を将来に向けて抑止をしていく予防的な立法も必要だと与党側から説明があり、それを受け入れた。つまり、予防的立法事実ということだ。これを踏まえ、我が党でも具体的な立法事実があることを確認し、共同提出会派の一つとなった」

何を言っているのかわからない、全く説明になっていない答弁である。一体、この「予防的立法事実」とは何なのか。

そこで、同日昼に行われた玉木代表の記者会見で「予防的立法事実とは何か」と尋ねると、玉木氏は「立法事実はない」と認めた上で、次のように答えた。

「過去に逮捕されたケースは器物損壊罪や偽計業務妨害、暴行罪で逮捕されているので現行法でも対応できる。ただ、松野(博一)議員が説明に来られたときに聞いたら、『予防的な法案なんだ、それが立法事実なんだ。例えばストーカー防止法なんかも同様のものだ』という説明があった」

玉木氏はこう語るが、飯泉氏の説明と同様にこれでは結局のところ何を予防したいのかがわからないままだ。そもそも人の命がかかっているストーカー規制法と今回の法案を同列に扱うこと自体、明らかな無理がある。これでは、国民民主党が共同提出に加わったのは、純粋な法理的必要性ではなく、政治的・政局的な思惑によるものだと見なされても文句は言えないだろう。

また、この法案では「ライブによる動画配信での国旗損壊は処罰対象となるが、収録動画の場合では対象外」としているなど、構成要件は曖昧で、疑問点は尽きない。

それでもなお、法案は4党が共同提出していることから参議院でも過半数を押さえており、今国会での成立は確実な情勢だ。

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