【増田 剛】W杯の裏でプーチンが”かつてない大激怒”…ウクライナ戦争を激変させる「対ロシア特化型」戦闘機の正体
“対ロシア特化型”の戦闘機が始動
2026年5月28日、ウクライナ情勢、ひいては世界の航空軍事バランスを大きく揺るがす歴史的な発表が行われた。北欧のスウェーデン政府が、ウクライナに戦闘機「JAS 39」ーー通称、「グリペン」戦闘機の正式な供与および売却を決定したのである。
ロシアによる侵攻が始まって以降、ウクライナ空軍は旧ソ連製のミグやスホイといった旧式機での防戦を強いられてきた。その後、西側諸国から米国製F16やフランス製ミラージュ2000などの戦闘機が提供され、混成航空戦力の構築が進められているが、依然として空軍力においてロシアに対して劣勢にある事実は否めない。
しかし、今回正式発表された「グリペン・パッケージ(枠組み)」は、これまでの西側兵器支援とは一線を画す、大きな戦略的意味を持っている。なぜなら、グリペンこそは冷戦時代から「ロシア(旧ソ連)の脅威」を想定し、その侵攻を無力化するために設計された“対ロシア特化型”の戦闘機だからだ。
これまで高性能を謳われながらも、大規模な高強度戦闘でその真価を証明する機会がなかった「翼ある獅子(=グリペン)」が、ついに実戦の舞台に解き放たれる。本稿では、ウクライナに配備されるグリペンの真の実力と、今やウクライナのみならず南米、アジア、そして欧米の先進国にまで広がる「グリペン旋風」の深層の理由を、地政学と軍事ビジネスの視点から徹底解説する。
ロシア凍結資産で購入される「グリペン」の全貌
スウェーデンの首都ストックホルムの北約70キロに位置するウプサラ空軍基地。5月28日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とスウェーデンのウルフ・クリステション首相は共同記者会見に臨み、グリペン戦闘機の迅速な導入に向けた最終合意の締結を目指すと発表した。
今回発表された合意の核心は、即戦力となる旧型機の「無償供与」と、将来の中核を担う最新鋭機の「売却」を組み合わせた、二段構えの包括的パッケージである。その内訳は以下の通りだ。
・旧型「グリペンC/D」16機の無償供与(2027年初頭までに引き渡し予定)
・最新型「グリペンE/F」20機の売却(2030年からの引き渡しを目指す)
・パイロットおよび整備員の訓練プログラム、高度な電子戦支援
・長距離空対空ミサイルの供与
ウクライナ側が最新型グリペンE/Fの20機購入に投じる資金は、約25億ユーロ(約4630億円)。注目すべきは、この莫大な資金の財源だ。ウクライナ自身の国家予算ではなく、EU(欧州連合)が承認した総額900億ユーロ規模の「ウクライナ支援貸付」プログラムが利用される。そしてこの貸付の原資となっているのが、西側諸国によって凍結されたロシアの国家資産なのである。
「ロシアから没収した資産で、ロシア軍を駆逐するための最新鋭戦闘機を購入する」というこの構図に対し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「明白な窃盗行為だ」と猛反発してきた。しかし、ゼレンスキー大統領は「我々はこの戦闘機が必要だ。ウクライナの新たな時代を切り開くことになる」と語り、将来的には2025年に締結された航空戦力協力覚書に基づき、最大150機規模までグリペンの導入を拡大する意向を示している。
「基地が破壊されても戦える」
現在、ウクライナへの配備が進んでいる米国製F16は、世界中でベストセラーとなった傑作戦闘機であり、その戦闘能力は折り紙付きだ。しかし、ウクライナの過酷な環境においては、F16特有の「弱点」が懸念されてきた。
F16の運用には、綺麗に清掃され、十分に整備された長い滑走路と、強固な兵站・インフラが不可欠だ。だが、現在のウクライナは、ロシア軍による巡航ミサイルや弾道ミサイル、自爆ドローンによる攻撃を日常的に受けており、固定された大規模な空軍基地は格好の標的となる。
これに対して、グリペンが持つ最大の特徴は「基地や滑走路が先制攻撃で破壊された後での運用」を大前提とする特異な設計思想にある。
冷戦時代、ソ連の脅威に単独で直面していた中立国スウェーデンは、ソ連軍による大規模な先制空爆を想定し、国内の高速道路の一部や簡易滑走路から戦闘機を分散して運用する「BAS90」と呼ばれる独自の防衛構構想を発展させた。この過酷な要求を満たすために開発されたのがグリペンなのだ。
グリペンは、以下のような極めて高いサバイバビリティ(生存性)重視の特性を備えている。
・高速道路からの発進能力: わずか800メートルの直線道路があれば離着陸が可能
・卓越した短距離離着陸(STOL)性能: 特徴的なカナード(前翼)とデルタ翼の組み合わせにより、狭い場所でも安全に運用できる
・少人数での迅速な整備と再出撃: 特別な設備のない野外であっても、5人の召集兵(専門の整備兵ではない一般兵)と1人の技術者だけで、わずか10〜20分で燃料補給と兵装の再武装を完了し、再出撃させることができる
・優れた隠蔽性と分散配置: 機体が小型かつ軽量(F16よりも一回り小さい)に設計されており、燃料消費も比較的少ないため、森の中や即席の格納庫に隠しやすく、ロシア軍の索敵網をすり抜けることができる
ミサイル攻撃によって滑走路がクレーターだらけになっても、近くの公道に機体を分散させ、ゲリラ的に飛び立って戦うことができる――。この「基地が破壊されても戦える戦闘機」というキャラクターこそが、現在のウクライナが最も必要としている性能そのものなのだ。
「スホイ・キラー」の真骨頂とは
グリペンが「スホイ・キラー」と呼ばれる最大の理由は、その空戦能力、とりわけ欧州製の長距離空対空ミサイル「Meteor(ミーティア)」との組み合わせにある。
現在、ロシア空軍の主要な戦術は、ウクライナ側の防空ミサイルの射程外(前線から数十キロ後方)の安全圏から、強力な「滑空爆弾」や巡航ミサイルを放ち、ウクライナの都市や防衛線を一方的に破壊するというものだ。ウクライナが保有する旧ソ連製のミグやスホイでは、ロシアの主力戦闘機(Su35など)のレーダーと長距離ミサイルの前に近づくことすら難しかった。
しかし、グリペンにMeteorが搭載されれば、この戦況は一変する。
Meteorはラムジェット推進を採用したBVRAAM(視程外射程空対空ミサイル)で、最大射程は180kmに達する。従来の固形燃料ロケットミサイルは、発射直後に加速した後は慣性で飛行するため、射程の末端では速度が落ちて敵機に回避されやすい。これに対し、ラムジェット推進のMeteorは、標的に命中する終末段階までエンジンが燃焼し続け、高い速度と運動性を維持する。これにより、敵機が回避不可能な「ノー・エスケープ・ゾーン」は従来のミサイルの数倍に達するとされる。
このMeteorを搭載したグリペンがウクライナの空を飛び回れば、ロシア軍機はこれまでのように「安全圏」から容易に滑空爆弾を落とすことができなくなる。近づけば、見えない場所から超高速のMeteorが飛んでくるからだ。
さらに、グリペンは小型な機体からは想像できないほどの高度な電子戦能力とデータリンク性能を誇る。スウェーデンはすでにウクライナへ「サーブ340早期警戒管制機」の供与を開始しており、この早期警戒機が捉えたロシア軍機の位置情報を、グリペンは自身のレーダーを発信することなく(自らの位置を敵にさらすことなく)データリンク経由で受け取り、不意打ちでMeteorを発射することが可能になる。
世界を席捲する「グリペン旋風」の秘密
ウクライナでの実戦投入に大きな注目が集まるグリペン。実は今、世界の防衛市場において、絶対王者である米国のステルス戦闘機F35の牙城を崩しつつある。
直近の動きを見るだけでも、その勢いは凄まじい。
1.南米で相次ぐ採用と「ブラジル・ルート」の確立
2025年4月、スウェーデン政府は、ペルーへのグリペンE/Fの販売を承認し、同月、コロンビアも次期戦闘機として同機の採用を発表した。なぜ南米でこれほどグリペンが選ばれるのか。
背景には、南米の大国ブラジルの存在がある。ブラジルは2014年にグリペンを採用し、自国の航空機大手「エンブラエル」の工場内にグリペンのライセンス生産ラインを構築、2023年から本格的な国内製造を行っている。スウェーデンのサーブ社の拠点で長年教育を受けてきた熟練のブラジル人エンジニアが多くいるため、ペルーやコロンビアにとっては「地理的に近い場所に、信頼できる製造・整備体制が確立されている」という大きなメリットがあるのだ。
2.アジア市場でF16を撃破した「圧倒的コスパ」
2024年8月、タイ空軍は次期戦闘機選定において、米国のF16を退けてグリペンE/Fの採用を決めた。タイは以前から旧型のグリペンC/Dを運用しており、その信頼性もあったが、最大の決め手は「運用コストの安さ」だった。グリペンは、燃料費、消耗品費、定期修理費といったライフサイクルコストがF16やF35に比べて格段に安価であり、国防予算に限りのある中進国にとって「持続可能な戦闘機」として最適な選択肢となっている。
背景にある「トランプ・ファクター」とアメリカ不信
さらに驚くべきは、これまで「F35一択」とみられていた欧米諸国の間でも、グリペンへの“鞍替え”や導入見直しの動きが起きていることだ。
海外メディアの報道によると、ポルトガル政府は、新戦闘機としてF35Aを導入せず、代替案としてグリペンE/Fを最有力候補に挙げている。また、カナダ政府は導入予定の新戦闘機88機のうち、契約済みの16機のF35Aを除いた残り72機について、選定コンペで次点だったグリペンへの切り替えを検討中とされる。さらに、2022年にF35Aの導入を決めたスイスでも、世論調査で「F-35Aを導入して欲しくない」という回答が66%に達し、政府が導入計画の見直しを迫られているという。
この急激な「F35離れ」と「グリペンへの風向きの変化」の背景には、強烈な「トランプ・ファクター(トランプ大統領の存在)」とアメリカへの不信感がある。
トランプ大統領は、ウクライナ戦争でロシア寄りと受け取れる政治姿勢を示したり、デンマーク領グリーンランドの領有権に言及したりするなど、「アメリカ・ファースト」に基づく一方的なディール外交を展開している。
欧州やカナダの指導者にとって、兵器のソフトウェアや部品の供給をアメリカに依存するF35を導入することは、「自国の安全保障の生殺与奪の権をトランプ政権に握られる」ことを意味する。トランプ氏への反感とアメリカへの不信感が、非アメリカ製であっても高性能の兵器への需要を生み出し、それがスウェーデン製のグリペンへの追い風となっているのだ。
ウクライナの空を超え、新しい安全保障のシンボルへ
長年、非同盟・中立政策を維持してきたスウェーデンだが、ロシアのウクライナ侵攻を機に安全保障政策を大転換し、2024年にNATO(北大西洋条約機構)に正式加盟した。この歴史的決断こそが、今回のウクライナへのグリペン供与を可能にした最大の引き金であることは間違いない。
ウクライナ空軍は今後、F16、ミラージュ2000、そしてグリペンという多国籍の西側戦闘機による混成部隊を運用していくことになる。その中で、過酷な前線環境に耐え、民間の道路からでも迎撃に飛び立てるグリペンは、単なる「数合わせの援助兵器」ではなく、ロシアの航空優勢を真に突き崩す「防空の切り札」として機能するはずだ。
ゼレンスキー大統領が切望する「150機体制」が将来的に実現すれば、それはウクライナ空軍が旧ソ連体制から脱却し、完全に「欧州型空軍」へと変貌を遂げる戦略的転換点となる。
ロシアの脅威を懸念する世界の防衛関係者は、今、ウクライナの空を凝視している。もしグリペンが、実戦においてロシアの「スホイ」戦闘機を圧倒し、ウクライナの都市を守り抜くことができれば、「北欧の翼ある獅子」の市場価値は不動のものとなるだろう。コスト、実戦能力、そして政治的リスクの低さ−そのすべてを兼ね備えたグリペンが世界の空を席捲する日は、すぐそこまで来ている。
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