最初に結論:

海外では苦戦が続くスターバックスだが、日本ではサードプレイス需要の根強さや、一度定着したブランドが支持されやすい消費傾向を背景に、引き続き強い競争力を維持している。

記事の重要ポイント:

1:アメリカではモバイルオーダー拡大による店舗体験の変化、中国では効率特化型チェーンの台頭、ヨーロッパでは伝統的なカフェ文化との違いなどがスターバックスの課題となっている。

2:一方日本では、「一度居心地のいいと感じたものを長く使い続ける文化」があることに加え、駅前や商業施設における「落ち着いて過ごせる場所」のニーズの高さから、好調を維持している。

3:韓国発のマンモスコーヒーは大容量・低価格を武器にするが、空間体験を提供するスターバックスとは利用目的が異なり、日本では直接的な競争になりにくい。

コーヒーチェーン大手スターバックスが、「日本事業の売却」を検討しているという衝撃的なニュースが飛び込んできた。売却額は4000億〜5000億円規模になる可能性があり、すでに投資銀行との協議が始まったと報じられている。これほどの巨額売却に踏み切る背景にあるのが、アメリカ本国だけでなく中国やヨーロッパを含めた海外での経営不振だ。

一方で、日本のスタバは今も変わらず、仕事や読書の場として愛され続けており、業績も好調だ。それにもかかわらず、なぜアメリカ本社は「優等生」である日本事業を手放そうとしているのか。

「日本のスタバが強い理由は、単にブランド力があるからではありません。そして今回の売却検討も、日本の業績不振ではなく、むしろグローバルでの苦境を補うための『優良資産の切り売り』と見るべきでしょう」

そう語るのは、経済やビジネスの最前線を分析する佐野 Mykey 義仁氏(以下、マイキー佐野氏)だ。好調な日本市場でスターバックスの強さが保たれている背景には、日本人特有の消費行動、都市部の移動スタイル、そして“外で落ち着ける場所”への根強いニーズがあるという。日本上陸で話題の韓国発大容量チェーン「マンモスコーヒー」など新興勢力との比較も交えながら、スターバックスが直面する“世界的な苦境”と“日本特有の強さ”のギャップに迫る。

モバイルオーダー化が変えた店舗体験

スターバックスは世界約90市場に展開し、週に1億人が利用するとされる巨大コーヒーチェーン。総売上の約7割を北米市場が占めているが、コロナ禍以降、各国で消費者行動が変化し、さまざまな摩擦が生じている。

「もともとのコンセプトは、家でも職場でもない『第3の場所(サードプレイス)』でした。ところが今は、インフレや労働運動の活発化など、売上減少とは別の次元で構造的な問題が各所で噴出しているんです」(マイキー佐野氏、以下同)

北米市場における大きな課題は、皮肉にもデジタル化の成功によって生まれた。MOP(モバイルオーダー&ペイ)の導入により注文のハードルが下がり、店舗にオーダーが集中するようになったのだ。

「アメリカでは、モバイル注文が約30%を占めています。ピーク時には店舗の処理能力を超え、完成したドリンクがピックアップ棚にあふれ返る事態になりました。結果として、サードプレイスが『効率的な物流センター』のように変質してしまったわけです」

本来なら、ゆっくりコーヒーを楽しむための空間だったはずが、混雑と混乱に支配されてしまう。そうなれば、ブランドロイヤリティの低下は避けられない。

こうした事態を受け、スターバックス本社は改革に乗り出している。店内注文を優先するアルゴリズムへの変更や、店舗の処理能力に応じたモバイル注文の調整、さらにアメリカではメニューを30%削減してオペレーションを軽くするなど、大きな見直しを進めている。



中国は効率、欧州は文化がスタバを阻む

一方で、地域ごとに直面している課題の性質はまったく異なり、巨大市場である中国では現地の新興勢力が急速に存在感を強めている。「ラッキンコーヒー」は中国で急拡大し、店舗数ではスターバックスを上回る規模になっている。「コッティコーヒー」も低価格・高効率型のチェーンとして存在感を強めている。

2017年に中国で創業したラッキンコーヒー

「彼らは、そもそもスターバックスとはコンセプトが違います。店舗の8〜9割が『受け取り専門店』に近い作りになっていて、座席は最小限。モバイルオーダーとデリバリーをスムーズに流すための動線設計が、非常にうまくできているんです」

アメリカで起きたカウンターの混乱を、中国勢はテクノロジーで解決している。保温・保冷機能付きの無人スマートロッカーを活用し、AIが現場の稼働状況をリアルタイムで監視。待ち時間が長くなれば自動で注文を止めたり、別の店舗へ誘導したりする仕組みもある。

さらに、オフピーク時にクーポンを配布して注文を分散させるなど、徹底した効率化を実現しているのだ。

他方、ヨーロッパや中東が抱える課題は、アメリカや中国とは少し異なる。直営店中心のアメリカに対し、ヨーロッパではフランチャイズ(FC)比率が高く、例えばイギリスでは直営とライセンス契約の割合が3対7となっている。

「FC展開の最大の弱点は、ブランド体験の一貫性を保つのが難しいことです。地域ごとに管理体制が分かれてしまうため、店舗ごとの体験にばらつきが出やすいんです」

さらに、文化的な壁もある。持ち帰りが主流のアメリカに対し、ヨーロッパには時間をかけてゆっくり過ごす伝統的なカフェ文化が根付く。加えて、環境意識の高い消費者も多く、サプライチェーンの透明性も強く求められている。

「このように地元の独立系カフェが持つ職人気質を好む層も厚く、スターバックスは地域ごとの価値観への適応に苦戦しているのが実情ですね」

日本のスタバは、なぜ満席が続くのか

では、日本市場はどうか。

日本のスターバックスは全国に約2,000店舗を展開し、今なお根強い支持を集めている。抹茶やほうじ茶を取り入れた和のメニュー、桜や月見といった季節感のある商品展開など、日本独自の嗜好に合わせたローカライズも成功してきた。

2025年2月のスターバックス季節限定フラペチーノ「白桃と桜わらびもち フラペチーノ」(マイナビニュース編集部撮影)

「日本人は流行に敏感な一方で、一度“自分の生活に合う”と感じたブランドを長く使い続ける傾向があります。単に新しいものに飛びつくというより、実際に試してみて、居心地のよさや使いやすさを感じると、そのまま生活の中に定着していくんです。

そのため、中国やアメリカ、ヨーロッパのように消費のサイクルが早い市場と比べると、日本では一度根づいたブランドが簡単には崩れにくいといえます」

実際、日本ではモバイル注文が広がっても、「席に座って少し休みたい」「仕事の合間に作業したい」という需要は根強く残っている。都心部のスターバックスでは、時間帯によって満席状態が続くことも珍しくない。

いわゆる「カフェ難民」という言葉があるように、日本では外出先で落ち着いて過ごせる場所へのニーズが高く、スターバックスはそうした休憩所や作業場としての役割を担ってきた。

また、自動車移動を前提にドライブスルーを広げてきたアメリカと異なり、日本の都市部では徒歩や公共交通機関での移動が中心だ。それゆえに駅前や商業施設の中にあり、気軽に立ち寄れて一定時間を過ごせるスターバックスのような空間が求められやすい。

渋谷駅の目の前、スクランブル交差点を見下ろせる、スターバックス SHIBUYA TSUTAYA 2F店

「マンモスコーヒー」の大容量・低価格でも勝てない理由

日本のスターバックスが好調を維持する一方で、新たな動きも出てきている。SNSを中心に注目を集めている、韓国発の大容量コーヒーチェーン「マンモスコーヒー」の日本上陸だ。

「スターバックスの牙城を崩すのは、かなりハードルが高いと思います。というのも、両者は根本的に運営スタイルが異なるからです」

マンモスコーヒーの強みが「大容量・コスパ」であるのに対し、スターバックスが提供しているのは「サードプレイスとしての空間体験」だ。ブランドロイヤリティが高く、慣れ親しんだ場所を使い続ける傾向が強い日本市場では、真正面から客を奪い合う展開にはなりにくいという。

【図解】海外で苦戦するスターバックスが日本で強い理由(筆者作成)

パンデミックを経て、世界中で消費者の行動パターンや嗜好は大きく変わった。もはや、過去の成功モデルをそのまま続けるだけでは通用しない。スターバックス本社が掲げる「原点回帰」の戦略は、今後の成長を左右する重要なテーマになる。

「原点に帰ることは、たしかに重要です。とはいえ、すべてを昔の姿に戻せばいいわけではありません。どこを効率化し、どこに従来のよさを残すのか。その見極めをしたうえで、プラスαとして何を加えるかが最適解になるはずです」

徹底した効率化を追求する中国モデルとは異なり、かといって空間価値だけに頼るだけでも限界がある。これからのスターバックスには、効率性とブランド哲学をどう両立させるかが問われているのかもしれない。

少なくとも日本市場においては、独自の消費文化と根強いサードプレイス需要が大きな防波堤になっており、ビジネスモデル自体は盤石だ。だからこそ、米本社にとっても「高く売れる優良資産」として、今回の5,000億円規模の売却候補に挙がったと言えるだろう。この“日本のスタバならではの強み”が維持されるのか。新たなフェーズを迎えるスターバックスの動向から、しばらく目が離せない。

西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら