喫茶チェーンといえば、立地、回転率、客数が勝負--そう思う人もいるかもしれない。限られたスペースにいかに多くのお客さまを入れ、いかに早く回転させるか。それが外食産業のセオリーとされている。

だが、名古屋発祥のコメダ珈琲店(以下、コメダ珈琲)は、むしろ逆を行く。ゆったり過ごせる場所として支持を広げ、いまや運営母体のコメダホールディングス(3543)グループ全体で1150店舗以上(2026年2月末時点)を展開する巨大チェーンへと成長した。

なぜ、この非効率にも思えるモデルで全国区になれたのか。

競合との決定的な違いや独特なフランチャイズ戦略、さらには株式投資の観点から見たコメダ珈琲の強みと注意点までを、名古屋出身の長期投資家・なごちょう氏に解説してもらった。

○コメダ珈琲のFC店は、なぜ儲かるのか?

コメダ珈琲の強さを語るうえで欠かせないのが、その独特なフランチャイズ(FC)戦略だ。全国に展開する店舗のうち大半がFC店であり、直営店はごくわずかしかない。

通常、FC比率が高まると店舗ごとのサービス品質にばらつきが出やすい。しかし、コメダは全国どこでもコメダらしさを保っているのだ。

「コメダのFCモデルは非常に特徴的です。一般的なチェーン店のように売上からロイヤリティを取るのではなく、本部は加盟店への食材の卸売りで収益を上げる仕組みになっています。だからオーナー側は利益を出しやすく、無理な運営を強いられません。この本部と加盟店の絶妙なバランスが、持続的な出店を可能にしているんです」(なごちょう氏、以下同)

加えて、コメダ最大の武器は“せかされなさ”にある。

「本部から、"退店を急かさない接客方針"を徹底されているんです。ゆったりしたふかふかのソファ、豊富な新聞や雑誌、さらに各席の電源。作業や商談、待ち合わせなど、長い時間滞在することを前提とした設計になっています。つまり、お客さんはコーヒー1杯の味ではなく、『安心して滞在できる時間』に対価を払っているわけです」

また、上場後にはメニューの拡充も進んだ。かつてはトーストやサンドイッチが中心だったが、現在はハンバーガーやスパゲッティ、ボリューム満点のプレートメニューなどが並ぶ。

これにより、朝のモーニングだけでなく、昼食や夕食としての利用シーンが増加して客単価の向上につながった。「実際、客単価は以前より一段階上がった印象ですが、それでも満足度が上回っているのが強みですね」と話すなごちょう氏。



○星乃珈琲、ドトールでは埋まらない“ある需要”

コメダ珈琲の快進撃が続く中、他社も黙って見ているわけではない。同じような「くつろぎ」をコンセプトに掲げる喫茶チェーンも増えてきた。その筆頭が、星乃珈琲店(3087)だ。

「業態としてもっともコメダに近いのは、日本レストランシステム(ドトール系列)が運営する星乃珈琲店です。明らかにコメダをベンチマークにして作られた業態ですが、店舗数には圧倒的な差があります。コメダ珈琲がグループ総店舗数で1050店を超えているのに対し、星乃珈琲店は280店舗前後にとどまっています」

これだけ似た業態があれば、激しいパイの奪い合いが起きているように思える。だが、実態は少し違うようだ。

「実際には『コメダが混んでいて入れないから、近くの星乃珈琲店に行く』といった使われ方がよく見られます。つまり、市場を食い合っているわけではなく、コメダが作り出した長くくつろげる需要の受け皿として、競合が機能している面があるんです」

ドトールや一般的なカフェと比べても、その立ち位置の違いは明確だ。ドトールは駅前などの好立地で短時間の利用に向いている。

一方のコメダ珈琲は、長時間の打ち合わせやパソコン作業、しっかりとした軽食までこなせる。コーヒー1杯の価格だけを見れば決して安くはないが、提供される「空間価値」まで含めれば、客は割高に感じない。

「昨今は他社の値上げが進んだ結果、相対的にコメダ珈琲のボリューム感ある食事が『コスパがよい』と再評価される現象も起きていますね」

○値上げすら「付加価値」に変える、ブランド力の正体

2025年4月に発表された2025年2月期の通期決算は、まさに盤石と言える内容だった。売上収益、営業利益、最終利益の主要3項目すべてで過去最高を更新。純利益は前の期比で約11%伸び、94億円という高い水準を叩き出している。

「何より注目すべきは、原材料やエネルギーコストの激しい上昇を、経営の巧みな舵取りで完全に吸収しきった点です。2024年に価格改定に踏み切りましたが、普通なら客離れが起きてもおかしくない局面。ところが、既存店売上高は前年比104.9%と、むしろ伸びているんです。

これは単に『コーヒーを売っている』のではなく、『コメダという居場所』が生活に不可欠なインフラとして定着している証拠。値上げを受け入れてもらえるだけの“価格決定権”を持っていることが、数字として証明されましたね」

この勢いを背景に、今期(2026年2月期)も13期連続となる増益を見込むなど、成長のブレーキを踏む様子はない。さらに株主への還元姿勢も手厚く、年間配当は前期から増配となる56円を予定だ。

本業でしっかりと現金を稼ぎ、それを株主に分配するという好循環が、長期投資家にとっての「安心感」という名のプレミアムを生んでいる。

2024年の価格改定後も既存店売上は堅調に推移している※2026年2月期通期決算説明資料より引用

○優良企業でも、“買いやすい株”ではない

独自の強みを持ち、全国的な知名度を誇るコメダ珈琲。業績も底堅く、一見すると株式投資の対象としても死角がないように見える。ところが、投資家の目線で見ると、手放しで買える銘柄とは言い切れない事情が存在するとか。

「もちろん、事業としては非常に魅力的です。国内でも1000店舗(コメダ珈琲単体)という大台を突破しましたが、都心部や駅周辺にはまだ出店余地があります。モーニングを目当てにする高齢者層の需要や、ビジネスパーソンの居場所としての需要は、景気の波が悪化しても完全には消えにくい強さを持っています」

事業の成長性やブランド力は申し分ない。だが、投資判断において見落としてはならないのが「財務面」の論点だ。

「コメダは上場前に何度かファンド間で買収が繰り返された経緯があり、国際会計基準を採用しています。そのため、貸借対照表を見ると、2025年2月末時点でも約400億円規模の『のれん』(※会社の買収額から純資産を差し引いた金額)が計上されているんです。

のれんは将来的に減損リスクをはらんでおり、実質的な資産価値を重視し、PBR(株価純資産倍率)を基準に銘柄を選ぶタイプの投資家にとっては、かなり手を出しづらい要因になっています。資産の大部分がブランド価値ともいえる『のれん』で構成されている点は、頭に入れておく必要があるでしょう」

○成長余地は、国内より海外にある

では、コメダ珈琲の成長はこの先も続くのだろうか。将来的な展望を考えるうえで、焦点となるのは「国内の深掘り」と「海外展開の成否」だ。

「国内に関しては、実はまだ需要を取り切れていないエリアがあります。例えば名古屋の金山駅周辺など、乗降客数が多く喫茶店へのニーズが高い都心部では、いつ行っても満席状態です。地方のロードサイドから始まったコメダ珈琲ですが、都市部の人たちのスキマ時間を埋める受け皿としての余地はまだ十分にあります」

次なる一手として期待されるのが、海外市場だ。現在、台湾、上海、香港、インドネシアなどに進出しているが、海外店舗数はグループ全体で80店舗を超えた。とくに注目すべきは台湾である。

「台湾は日本の喫茶文化との親和性が非常に高く、ほぼローカライズなしでも日本の店舗と同じスタイルが受け入れられる素地があります。今後、国内の人口減少が本格的な逆風となる前に、いかに海外、とくにアジア圏でこの『コメダモデル』を定着させられるかがカギになるでしょう」

コメダ珈琲の強さは、コーヒーの味やフードのボリュームそのものだけではない。

「せかされない」「長くいられる」「食事も作業もできる」--こうした他社が簡単に再現しにくい“居場所の価値”を全国でブランド化した点にある。競合と比べても、その優位性はなお大きい。

したがって、今後の注目点は国内店舗の純増ペース、海外での定着度、既存店の客数動向、加えて「のれん」を含めた財務の安定性となる。

コメダ珈琲は間違いなく“強い企業”である一方で、投資家としては「株価がブランド価値を適正に織り込んでいるか」を慎重に見極めたい企業でもあるのだ。

国内1067店舗、海外83店舗を展開するコメダグループ。台湾やシンガポールなど海外展開も拡大している※2026年2月期通期決算説明資料より引用