なぜMrs. GREEN APPLEは日本を代表する大ヒットアーティストとなれたのか。音楽評論家の柴那典さんは「ミセスの人気拡大において特徴的なのは『バズる』という偶発的な力学があまり寄与していない、ということだ」という――。

※本稿は、柴那典『ヒットの復権』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

写真=時事通信フォト
国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」で最優秀アーティスト賞を受賞後、撮影に応じる3人組ロックバンド「Mrs. GREEN APPLE」=2025年5月22日、京都市左京区のロームシアター京都 - 写真=時事通信フォト

■2025年は「ミセスの年」だった

そして、2025年のMAJ(MUSIC AWARDS JAPAN)で初代「最優秀ジャパニーズソングアーティスト賞」に輝いたのが、Mrs. GREEN APPLEだ。

2025年はミセスの年だった。デビュー10周年を迎え、記録ずくめの活躍を見せる一年となった。ビルボードジャパンの総合ソングチャート「Hot 100」の2025年の年間TOP10は以下のような並び。ミセスが上位を占拠している。

1位 Mrs. GREEN APPLE「ライラック」
2位 Mrs. GREEN APPLE「ダーリン」
3位 ロゼ&ブルーノ・マーズ「APT.」
4位 米津玄師「IRIS OUT」
5位 Mrs. GREEN APPLE「クスシキ」
6位 HANA「ROSE」
7位 サカナクション「怪獣」
8位 Mrs. GREEN APPLE「ケセラセラ」
9位 Mrs. GREEN APPLE「ビターバカンス」
10位 米津玄師「Plazma」

1位の「ライラック」を筆頭に、2位の「ダーリン」などTOP10に計5曲がランクイン。ヒットチャートでは「一人勝ち」とも言える圧倒的な存在感を見せた。

数字も破格だ。ビルボードジャパンの集計では7月に全楽曲の国内累計ストリーミング数が100億回を突破。国内アーティストとしては史上初の快挙となった。7月にリリースしたベストアルバム『10』の売上は100万枚を超え、配信もCDも驚異的なセールスとなった。

■ファン層が老若男女に広がった

ライブも記録的な動員を樹立した。7月26日・27日に横浜・山下ふ頭の特設会場にて開催した野外ライブ「MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE〜FJORD〜」は2日間で10万人、オンライン配信やライブビューイングを含めて計35万人以上を動員した。10月から12月にかけて行った5大ドームツアー「BABEL no TOH」では全5都市12公演を開催し、合計で55万人を動員した。

ミセスのメガヒットの大きな特徴は、それが1曲だけのバズにとどまらないものだったということだ。彼らのファン層は老若男女に広がった。バンドを率いるボーカル・ギターの大森元貴を筆頭に、メンバー3人のキャラクターが浸透した。それが社会現象的なヒットに結びついた。

様々な偉業を成し遂げたアニバーサリーイヤーの終盤に、彼らに会うことができた。大森は一年を振り返ってこう語っている。

「おかげさまで充実した日々で、制作へのモチベーションも高い一年でした。25年はデビュー10周年ということで、年初から応援してくださっている方々に感謝の気持ちを届けようという話をメンバーともしていて。そういった思いを噛みしめながら駆け抜けた一年でしたし、実際に一つ一つのことを丁寧に皆様へ届けられたという自負もあります」(『日経トレンディ』2025年12月号)

なぜミセスは、ここまで「勝った」のか? 日本を代表するアーティストにまで駆け上がったのか?

■明確な「成功のビジョン」

筆者がMrs. GREEN APPLEの3人に初めて会ったのは2023年のこと。「ダンスホール」や「ケセラセラ」といった楽曲がヒットし、初のドームライブを成功させるなど「国民的バンド」として本格的なブレイクを果たそうとしていたタイミングでの取材だ。

驚いたのは、大森の視座の高さだった。メジャーデビューは2015年。その頃から、単に「売れたい」とか「人気者になりたい」ではなく、明確な成功のビジョンを思い描いていた。バンドの結成当初から「大衆に届ける」という理想を掲げていた。小さなライブハウスのステージに立っていた10代の頃から、アリーナやドームのライブを想定して練習やリハーサルを重ねてきた。将来を見据え、高い理想を形にしてきた。大森はこう語っている。

「ポップな方面に間口を広げて全力でやりたいという思いは常に変わらないですね。バラエティ番組に出たい、自分たちの番組を持ちたいという話も結成当時からしていました」(GQ JAPAN「Mrs. GREEN APPLE メン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・アーティスト賞――“若者に人気”を払拭した、全世代バンドの新境地」2023年12月8日掲載)

写真=iStock.com/disqis
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/disqis

■フェーズ2でリスナー層が広がった

ただ、バンドは決して順風満帆なキャリアを進んできたわけではない。メジャーデビュー5周年である2020年7月には「フェーズ1完結」を宣言して活動休止期間に入る。2021年12月にはオリジナルメンバー2人の脱退が発表され、5人組から3人組へと編成も変わった。

しかし、こうした雌伏の時があったからこそ、表現の幅は大きく広がった。活動休止期間中に3人はあえて楽器に触らず、厳しいダンスレッスンを受けていたという。2022年3月には「フェーズ2」として活動を再開。バンド編成にこだわらなくなったことによってサウンドや曲調はより多彩になり、ビジュアルイメージもそれまでの固定観念に縛られなくなった。

フェーズ1ではファン層も10代が中心だったが、フェーズ2以降は明るくカラフルな「ダンスホール」や深遠なテーマを歌うバラードの「Soranji」など様々なタイプの楽曲のヒットを経て、より幅広い世代にリスナーが広がっていった。

「フェーズ2の認識として『全ての人を置いていかない音楽をやろう』というのを最初から掲げていたんです。フェーズ1の時の僕らにはどうしても『若者に人気』という枕言葉が先行していたので、どうしたらそれを払拭できるかというのは、休止中にもかなり考えていました。そうした中で『Soranji』という曲を書いて。僕らが根源だと思っていた死生観、自分の中の寂しさ、明日への力強さみたいなものを純度100%の形で出すことができた。それがより幅広い年齢層の方に届くきっかけになったのは大きかったかもしれないですね」(大森)

■彼ら自身のパワーがヒットの起爆剤

2024年にも彼らに取材する機会があった。

4月に「ライラック」のリリースを控えたタイミングだった。テレビアニメ『忘却バッテリー』のオープニング主題歌として書き下ろされたこの曲。ただ、ヒットの起爆剤となったのはアニメの人気や話題性よりも、むしろ彼ら自身のパワーだった。大森が様々な職業に扮したMVが注目を集め、アニメの視聴者層を超えて楽曲が広まった。2024年の年末には紅白歌合戦など様々な大型音楽番組でこの曲を披露し、それが2025年のロングヒットにつながった。

「ライラック」は青春をテーマにした一曲だ。フェーズ1の彼らの代表曲「青と夏」へのアンサーソング的な意識があったと、大森は語っている。

「ちょっぴり大人になった今の僕たちが歌う青春ソングを書いてみようというのが取っ掛かりです。以前にも『青と夏』という楽曲をリリースしたんですけれど、そこでは青春の爽快さや憂いや甘酸っぱさを『青』と形容していた。もう一度『青』を歌うってなった時に、ちょっとかすみがかって色あせた、でもすごく上品なライラックカラーが頭の中に浮かんだんです」(Yahoo! ニュースオリジナル特集「高校時代から意識した大衆性、かつ深化もさせたい――Mrs. GREEN APPLEが向かう『ふたつの軸の理想像』」2024年5月3日掲載)

写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA
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■「バズる」に頼らないヒットの形

彼らはなぜヒットを掴んだのか。その理由はいろいろあるが、ミセスの人気拡大において特徴的なのは「バズる」という偶発的な力学があまり寄与していない、ということだ。曲に合わせて踊ったダンスがブームになったり、楽曲がミーム化したり、そうしたバイラルが社会現象化することはなかった。むしろ、リスナー一人ひとりの胸のうちに寄り添う楽曲を続けざまにリリースしてきた、その活動の積み重ねを経て人気を広げてきたのである。

「『バズる』という言い方は、ミセスのチームではあまり使わないかもしれないです。大衆という生き物なんて、別にいないので。そこじゃなくて、その人の人生の1ページになれたらいいなということを思っている」(大森)

■「間口の広さ」と「奥行きの深さ」

ミセスのヒットソングには、明るく華やかなものが少なくない。バンド自体のキャラクターにもキラキラとした爽やかなイメージを持つ人は多いだろう。しかしその一方で、大森の持つ深い孤独、繊細な感性がクリエイティビティの大きな源泉になっている。

柴那典『ヒットの復権』(中公新書ラクレ)

ミセスの音楽は「間口の広さ」と「奥行きの深さ」を併せ持つものとして作られてきた。だからこそ、これだけ多くの人に届いたのだろう。

「“大衆性”とか“ビジョン”という話をすると、最初からすべてを仕組んだ、ものすごい志を持った少年の話みたいに聞こえるかもしれないんですけど、決してそれだけではなくて。同時に、葛藤して、挫折して、孤独と闘ってきた側面も僕の中にはある気がします。ミセスの楽曲を聴いていただくと、歌詞がほぼネガティブなんです。結局『こうありたい』という話しかしていない。みんなでワイワイ楽しめる楽曲ももちろんいいですし、僕らもそういうものを目指してるんですけど。ただ、それだけではない。頑張りたい時とか、心が折れそうな時に、一役買えるような存在であれたら本望だな、理想だな、うれしいなと思っているので。そう心掛けてはいるつもりです」(大森)

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柴 那典(しば・とものり)
音楽評論家
1976年神奈川県生まれ。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーや社会批評の分野にて執筆やインタビューを手がけ、テレビやラジオ出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)など。ブログ「日々の音色とことば」Twitter:@shiba710
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(音楽評論家 柴 那典)