「脂ののった大ぶりサンマ」が200円で買えるのは今のうち…「庶民の秋の味覚」に起きた"異変"の真相

■不漁続きだったサンマが今年は豊漁
この5年ほどサンマの不漁が続いていた。国内の水揚げ量は2014年までの約30年はおおむね20万トン以上で、2008年には35万トン近くに達するほど好調だったのだが、一気に激減。年間数万トンしか獲れなくなってしまったのだ。
ところが今年はようやく水揚げ量が増加。北海道や岩手、宮城県などの漁港から「豊漁」のニュースが届いた。昨年までのように紳士用ベルトくらい細いサンマではなく、大ぶりで脂ものっている。この10月までに間に秋の味覚を堪能した人も少なくないだろう。
ただ、サンマがにわかに獲れだし、今後もたくさん食べられると考えるのはまだ早い。水産資源の研究者によれば、「太平洋全体のサンマ資源量は昨年と大差ない」と、決して今も不漁期を脱してはいないと見られる。シーズン後半に入った今、急にパタッと獲れなくなり、再びほっそりしたパサパサのサンマしか味わえなくなる可能性もある。

■7月上旬には立派な初物が水揚げ
今シーズンのサンマ漁は、例年になくスタートが早かった。初水揚げは7月10日。昨年よりも1カ月以上早く、北海道の釧路港に小型船が漁獲した計175キロ(約1300匹)の初物がお目見えした。
7月の初物は3年ぶりで港は歓迎ムードとなったが、漁港関係者を驚かせたのはサンマの大きさであった。昨年までは大きくても1匹130〜140グラムだったのだが、今年は3割ほど重量が増し、180〜200グラムの特大型も多く揚がったのだ。「今年のサンマは大ぶりで豊漁」と、関係者も消費者も期待が高まるすべりだしを見せた。
7月中旬の水揚げからしばらくサンマ漁は滞っていたが、8月中旬には大型漁船が帰港し、次々に水揚げ。ここでも大型の魚体が多く、数年ぶりに東京など大都市のスーパーの店頭にも食べ甲斐のあるふっくらしたサンマが並ぶことになった。
なにしろ昨年までは1匹100グラムそこそこという、まさに紳士用ベルトほどのサイズのサンマが200円以上したのだ。鮮魚売り場で「今年もダメだ」と購入を見送った人も多かったことだろう。
それが今年の秋は、1匹130〜140グラムで値段は昨年と同レベルの200円程度。「ようやく“庶民の秋の味覚”が戻ってきたな」と久々に人気が回復し、大手スーパーのバイヤーも積極的な仕入れを行っていた。
総務省の家計調査報告によれば、8月の活発なサンマ漁獲・流通・消費の結果、同月の1世帯当たりの購入数量は75グラムで、前年同月比2.1倍増。支出金額は135円で2.3倍増。豊漁・大ぶりの「新サンマ」を例年よりも多くの人が実感したことが如実に表れている。

■豊洲の反応は「信じがたい状況」
小売りでの積極的な販売を受けて、流通の要である東京・豊洲市場(江東区)ではサンマの取り扱いを強化した。豊洲で魚を扱う卸会社はマグロやウニやイクラなどさまざまな高級魚介を扱うが、高単価な魚種だけではなく、量で多くを稼げる大衆魚の扱いも重視する必要がある。ベテランの競り人は「スルメもアキサケもダメだから、サンマ漁が上向いてほっとしているよ」と話す。
シーズン当初、豊洲など魚のプロたちの間では、サンマの豊漁ムードはにわかには信じがたい状況としてとらえられていた。このままの調子が続くかどうか懸念されていたが、漁港は活気付くばかり。9月上旬には、北海道から千葉県の銚子港まで1日で2000トンを超える水揚げがあった。
なかには、処理のキャパシティを超えてしまうほどの量が揚がる日もあった。漁港では、各漁船が陸揚げしたサンマをトラックなどの荷台に移して各地へ出荷するため、発泡スチロールや氷を用意しなければならない。想定をはるかに超える量の水揚げとなったため、そうした準備が間に合わなくなっていたのだ。
前出の競り人は9月中旬の時点で「すでにサンマだけで去年の2倍以上取引している。このまま順調な漁が続いてくれたらいいが……」と、期待半分、不安半分といった表情を浮かべていた。

■十数年ぶりに「獲りすぎ」防ぐ休漁措置
予想を超えるサンマの水揚げラッシュを受け、全国さんま棒受網漁業協同組合(全さんま)は、サンマ漁獲枠(全さんま所属船の漁獲枠は合計約8万6000トン)の平準化を目的に、9月4日から各漁船が帰港後24時間あるいは48時間休漁する措置を同月末まで導入した。
帰港してまたすぐに出港すれば、早期に漁獲枠を消化してしまうだけでなく、サンマが漁港にあふれかえってしまう。近年は不漁続きだったため、こうした漁獲量調整のための休漁措置は十数年ぶりとなった。
休漁は実施したものの、好調なスタートダッシュとなったことで、8〜9月の水揚げ量は合計約2万8500トンで、前年同期比2.4倍増(漁業情報サービスセンター調べ)。このまま順調に水揚げが進めば、「豊漁」への兆しというサンマ資源の回復傾向が証明される。

■資源量は回復していないのに豊漁の謎
しかし、水産資源の研究者らが、春先の調査船によるデータや水温、潮流など、さまざまな要素から導き出した太平洋全体の今シーズンのサンマの資源量は「昨年並みの低水準」(国立研究法人水産研究教育機構)。つまり、不漁継続の予報である。
それではなぜ、前半は大ぶりなサンマが、漁港にあふれるほど漁獲されたのか。その理由は、一部のサンマの居場所(回遊する海域)が同機構の予想と違っていたことにあるようだ。
同機構の研究者は「道東沖では引き続き温かい海水に覆われると思っていたが、多少水温が下がっているためなのか、岸寄りに漁場ができたようだ。これは昨年までは見られなかった」と説明する。
近年、サンマは遠い公海にしか漁場ができなかったため、漁船がサンマを獲って帰港するまで1週間かかることもあった。しかし今年は漁開始時から岸寄りに漁場が形成されており、数日で帰港することができた。こうした操業効率の良さが、好調な水揚げにつながったものとみられる。
■マイワシが今年は少なかった影響も
魚体が大ぶりな点についても、沿岸にサンマが寄っていたことと関係がありそうだ。餌となるプランクトンは、沖合に比べて沿岸に豊富にあると言われる。
さらに、「ここ数年、道東でよく獲れたマイワシが今年は少なく、餌の競合も避けられた可能性がある」と漁業情報サービスセンターの研究者はいう。
複雑な海洋環境の中で、今年は大ぶりなサンマがなぜたくさん獲れているのか、はっきりとした理由はわからない。しかし、資源自体は昨年並みに低水準だとしても、漁業にとっては効率が良く、サンマにとっては成長を促す環境であったことは間違いなさそうだ。
■揚がるサンマがだんだん小さくなってきた
サンマの漁期は最長12月までだが、今後の漁の良し悪しについては未知数だ。前出の通り、研究においては「資源が少ない」という結論が出ていることに加え、「去年がそうだったが、サンマは急に獲れなくなることがある」と全さんま幹部は語る。さらに、10月上旬に入って「水揚げされるサンマが少しずつ小さくなってきた」と北海道や三陸の漁港関係者は口をそろえる。
つまりここからぱったりと不漁モードになり、また紳士用ベルト並みのサンマしか獲れなくなる可能性もあるわけだ。したがって、サンマを食べるなら早いほうがいい。ちなみに、いいサンマを見分けるポイントは、「頭の後ろがふっくらしていること」「目が赤くないこと」「くちばしの先と尻尾が黄色っぽいこと」だ。そうした魚体を選べばきっと、鮮度良くジューシーな秋の味覚を味わえるであろう。
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川本 大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長
1967年、東京都生まれ。専修大学経済学部を卒業後、1991年に時事通信社に入社。水産部に配属後、東京・築地市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当。2006〜07年には『水産週報』編集長。2010〜11年、水産庁の漁業多角化検討会委員。2014年7月に水産部長に就任した。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)など。
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(時事通信社水産部長 川本 大吾)
