ミスした時にこれほど効く言葉はない…劣勢に立たされた大谷翔平選手の「かけ声」に脳神経外科医が感心したワケ
※本稿は、菅原道仁『あの人を、脳から消す技術』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

■頭のモヤモヤを紙に出して「処理済み」にする技術
?書き出しテクニック
その出来事が頭の中でぐるぐると渦巻いているとき、それを「書き出してみる」というテクニックがあります。思い浮かぶことを、箇条書きでも、文章でも図でもいいので書き出してみます。紙のノートやスマートフォンのメモ機能など、自分が使いやすいものを選んでください。
大切なのは、頭の中にあるモヤモヤを、目に見える形で「外に出す」ということです。
友人に仕事の悩みを相談したり、日記に書いたりしたあと、不思議と気持ちが軽くなった経験はありませんか。実は、頭の中から外に出して「形にする」という行為そのものに、脳を落ち着かせる効果があるのです。
これは、頭の中でぐるぐる回っている考えに形を与えることで、脳がその情報を「処理済み」として認識するためです。
最近の脳科学研究から、不快な記憶に対処するための新しい方法がわかってきています。不快な記憶は、そのままにしておくと扁桃体に強く残りやすいのですが、意識して「その記憶を整理する時間」を作ると、過剰な反応を抑えやすくなります。
実際に、記憶や思考を紙に「書き出す」ことは記憶を整理する効果があります。頭の中で混乱している情報を視覚的に整理しやすくなり、感情も落ち着きやすくなるのです。
これは、散らかった部屋を片付けると気持ちがすっきりするのと似た効果です。
■「会議」「課長の表情」と単語を並べてみる
実践のコツは以下の3点です。
1、書く場所と時間を決める
静かな場所で、少しの時間を確保しましょう。通勤電車の中でも、オフィスの自席でも、自宅の机でも構いません。山田さんは、会社の近くのカフェで、始業前の15分を使って書き出すことにしました。大切なのは、定期的に書ける環境を作ることです。
2、形式にとらわれない
箇条書きでも、文章でも、図や絵でも構いません。「今の気持ち」をそのまま書いてみましょう。山田さんは最初、単語を思いつくままに並べていきました。「会議」「説明」「課長の表情」「声のトーン」「自分の話し方」──。そこから少しずつ、文章として整理していきました。
3、書いたあとの扱いを決めておく
書いたものは保管しておいても、破棄しても構いません。むしろ、「この紙はあとでシュレッダーにかける」と決めておくと、より正直な気持ちを書き出せることもあります。大切なのは書き出す行為そのものであって、書いた内容を残しておくことではありません。
この書き出しテクニックは、特に夜、考え事で眠れないときに効果を発揮します。寝る前に10分でもいいので、その日のモヤモヤを書き出してみましょう。
きっと、より穏やかな気持ちで眠りにつけるはずです。
■「厳しい上司」とは、つまり「仕事に真摯な人」
?リフレーミング・テクニック
物事の見方を変えると、その受け止め方も変わる──。このシンプルな事実には、深い科学的な意味があります。
心理学では、物事の「枠組み(フレーム)」を変えることを「リフレーミング」と呼びます。1970年代に心理学者のポール・ワツラウィックや同僚たちが、アメリカ・カリフォルニア州パロアルトのメンタルリサーチ研究所でこの手法を体系化しました。
その後、認知行動療法の分野でアーロン・ベックやアルバート・エリスによって、人々の思考パターンを変える技法として効果的に活用されてきました。
たとえば、「厳しい上司」を「仕事に真摯な人」と捉え直したり、「面倒な作業」を「新しい学びの機会」と考え直したりすること。これは単なる気休めではなく、実際に脳の反応を変える大きな効果があります。
なぜなら、私たちが物事をどのように解釈するかによって、扁桃体の反応が大きく変わるからです。同じ状況でも、それを「脅威」と捉えるか「機会」と捉えるかで、扁桃体の活性化の度合いが異なってくることがわかっています。

■「10年後の自分だったら」と問いかけてみる
実践のコツは以下の3点です。
1、まったく別の立場から見る
その状況を、まったく違う立場から眺めてみましょう。たとえば、「10年後の自分だったら、この出来事をどのように見るだろうか」。あるいは「自分が尊敬する人なら、どのように考えるだろうか」。「ベテラン社員になった自分が、新人時代のこの経験を振り返ったら、何を学びとして見出(みいだ)すだろうか」と考えてみると、新しい気づきが生まれるかもしれません。
2、良い側面に注目する
一見ネガティブな状況にも、必ず何かしらのポジティブな要素が含まれています。「説明がわかりにくかった」という指摘は、「よりわかりやすい説明を工夫するチャンス」でもあります。その状況から「得られるもの」を意識的に探してみましょう。
3、ドラマの主人公だと思う
目の前の出来事を、人生という大きな物語の中に位置づけてみましょう。その際、自分をドラマの主人公として捉えてみるのです。
■まさに体現している「大谷翔平選手の言葉」
ドラマの主人公はつねに、試練を経験しながら成長していくものです。つらい経験も、主人公であるあなたの成長のための重要なワンシーンかもしれません。山田さんのように完璧な説明ができなかった経験も、より良いプレゼンターになるための欠かせない一歩として捉えることができます。
ときには、自分の人生をドラマのように考えてみるのが効果的です。「この場面は、主人公である私の成長を描く重要なシーンだ」と考えられるようになると、起こった出来事をポジティブに捉えられるようになるでしょう。

ちなみに、メジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手は、2023年のWBC(ワールドベースボールクラシック)に日本代表として参加した際、3点ビハインドの劣勢になったチームのメンバーを鼓舞しようと、こう言ったそうです。
「こんな簡単に世界一になったら面白くないよね。こういうのがあるから世界一は価値がある。さあ行こうぜ!」
なんというドラマの主人公……。
大谷翔平選手の真似はなかなかできませんが、劣勢になったときこそ「自分は主人公である」ことを意識すると、その状況を楽しめるようになることは確かです。
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菅原 道仁(すがわら・みちひと)
日本脳神経外科専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター
脳神経外科医。菅原脳神経外科クリニック(東京都八王子市)、菅原クリニック東京脳ドック(港区赤坂)院長。杏林大学医学部卒業。「人生目標から考える医療」のスタイルを確立し、心や生き方までをサポートする医療を行う。著書に『すぐやる脳』(サンマーク出版)など。
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(日本脳神経外科専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター 菅原 道仁)
