会社の規模が大きくなると、ルールや序列ばかりが重視される「官僚的文化」が蔓延しがちだ。そんな職場が変わるには、どんな「突破口」があるだろうか。MIMIGURI代表Co-CEOの安斎勇樹さんは、「軍事的文化でも家族的文化でもない、『第3の道』を模索することが必要です」という――。

※本稿は、安斎勇樹『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』(テオリア)の一部を再編集したものです。

■「官僚化した会社」が変わるには「3つの道」がある

統率性の強い企業が肥大化していくと、組織内ルールや社内評価、職位や序列に重きを置く、「官僚的文化」が支配的になっていきます。

いわゆる「大企業病」などは、その典型でしょう。

ここから抜け出すためには、「3つの道」が残されています。

1つ目は、心を鬼にして「軍事的文化」を取り戻すという道、もう1つは、統率性を緩めて、個人の感情に寄り添った安心感のある組織に生まれ変わる方向、いわば「家族的文化」への道です。

しかし残念ながら、どちらの道もうまくいきません。

拙著『冒険する組織のつくり方』で目指したのが、上記のどれとも異なる「第3の道」です。

出典=『冒険する組織のつくりかた』Cameron, K. S. (1985); Quinn, R. E., & Rohrbaugh, J. (1983). 〈8〉などを参考に著者作成。

心を鬼にして”強い組織”へ回帰するのでもなく、とにかく居心地のいい”安心・安全な職場”を目指すのでもない方向性――それが「冒険的文化」です。

■「冒険的」=「積極的にリスクをとる」という意味ではない

なぜこの道が「冒険的」なのかについては、説明が必要でしょう。

通常、ビジネスの世界で私たちが「冒険しよう」と言うとき、そこには「リスクをとる」「賭けに出る」「あえて危ない橋を渡る」といった意味合いを込めがちです。

しかし、私がこの言葉に込めているのは、もう少し違ったニュアンスです。

冒険的文化は、軍事的文化のように新たな価値を探し求める「外部志向性」と、家族的文化のように個人の思いに寄り添う「柔軟性」とを併せ持っています。

これは言い換えれば、組織による「社会的ミッションの探究」と、個人による「自己実現の探究」とを両立させようとする考え方です。

もちろん、この2つの探究を同時に成り立たせるのは、決して容易ではありません。

だからこそ、軍事的な組織のように「個性を放棄する」か、家族的な組織のように「外的価値を犠牲にする」かのどちらかしかないと思われてきたのです。

しかし、この第3の道においては、どちらか一方を断念したりせず、この2つの探究の両立をあきらめません。

■『ONE PIECE』大ヒットの背景にあると考えられる「渇望」

冒険的な組織づくりの最重要キーワードは「探究(Quest)」です。

探究とは、「まだわかっていないこと」について深く考え、納得のいく「よりよい答え」を見つけようとする活動のことです。

一方で、Questには「冒険」という訳語があることからもわかるように、「冒険する組織」とは、やみくもに危険を冒す組織のことではなく、一人ひとりのメンバーが好奇心や関心に基づいて自己実現を探究し、同時に集団としての社会的ミッションを追い求める組織のことなのです。

出典=『冒険する組織のつくりかた』

「これだけではなかなかピンと来ない……」という人のために、ここで『ONE PIECE』に登場する「麦わらの一味」を参照しておきましょう。

尾田栄一郎さんの『ONE PIECE』は、「最も多く発行された単一作者によるコミックシリーズ」としてギネス世界記録にも認定されている超・人気マンガ作品で、全世界発行部数はなんと5億部を超えています(私自身、以前から『ONE PIECE』の熱烈なファンです)。

この作品が世界中の人々を惹きつけてやまない理由の1つには、物語に通底している「冒険的世界観」があるのではないか――私は以前からそう考えています。

「麦わらの一味」とは、主人公のモンキー・D・ルフィという少年(麦わら帽子がトレードマーク)が結成した海賊団の名称です。

ルフィは「海賊王になる」という野望に突き動かされながら、正体不明の財宝「ワンピース」を求めて危険な冒険の旅を続けています。

旅の途中では、ゾロ、サンジ、ナミといった仲間が加わっていき、麦わらの一味が形成されていきます。

■「麦わらの一味」における組織マネジメント

重要なのは、この仲間たちが「ルフィの野望を叶える手下」として一味に所属しているわけではないという点です。

メンバーたちにはそれぞれ自分の夢や好奇心に基づく自己実現のテーマがあり、それを叶えるためにルフィと同じ船に乗っているにすぎません。

出典=『冒険する組織のつくりかた』

彼らは自らを「麦わらの一味のメンバー」という役割に押し込めることはしませんし、ルフィも自分の夢を彼らに押しつけたりはしないのです。

他方、麦わらの一味は、バラバラな方向を向いた雑多なメンバーの寄せ集めかというと、じつはそんなこともありません。

この海賊団のユニークさは、各メンバーの自己実現の物語を尊重するからこそ、多少回り道になったとしても、ときには仲間の探究を助け合い、互いの絆を深めながら航海を続けているという点にあります。

バラバラな夢とバラバラな能力を持った異能の集団がコラボレーションすることで、不確実な世界を乗り越えるための圧倒的な推進力が生まれる――これが麦わらの一味のストーリーに見られる基本的なモチーフなのです。

■「世界観」を切り替えるだけで、日々の仕事の「意味」が変わる

一方、それとは対照的なのが、彼らが対峙することになる「世界政府」です。

安斎勇樹『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』(テオリア)

とくに、世界政府が束ねている「海軍」は、典型的な軍事的世界観の下で動いています(一部、志や人情を優先するチームもありますが)。

トップの権力が絶対視される海軍では、上からの指令を遂行し、成果を出すことだけが求められています。

当然、そこにいる個人の自己実現や内面的葛藤が顧みられることはありません。

『ONE PIECE』に見られる軍事的世界観と冒険的世界観のコントラストを下敷きにしてみると、組織内のあらゆる要素の「意味合い」がみごとに変わります。

たとえば、軍事的な世界観の下では「採用」という活動は、「兵力の増強」以外のなにものでもありません。

軍事的組織の採用担当者は、自分の仕事を「実現すべき目的のために必要な人的リソースを徴集し、審査し、登用すること」だと認識しています。

他方で、麦わらの一味のような冒険的世界観を持った組織にとって、採用活動はまったく違う意味を持ちます。

あえて言えば、探究の旅路を共にする「仲間との出会い」といったところでしょうか。

図表=筆者作成

■必要なのは「組織のOS」を入れ替える発想

重要なのは、組織の根底にある「世界観」を変えることです。

パーパスや傾聴、1on1、心理的安全性といった各論の施策は、いわば「組織のアプリケーション」にすぎません。

当然ながら、それらを動かすための「組織のOS」が古いままでは、「アプリ」はまともに機能しないでしょう。

組織の根底にある「ものの見方」、すなわち「世界観」を変革するところから、本当の意味での「組織づくり」がはじまるのです。

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安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)
MIMIGURI 代表取締役Co-CEO
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。組織づくりを得意領域とする経営コンサルティングファーム「MIMIGURI(ミミグリ)」を創業。資生堂、シチズン、京セラ、三菱電機、キッコーマン、竹中工務店、東急などの大企業から、マネーフォワード、SmartHR、LayerX、ANYCOLORなどのベンチャー企業に至るまで、計350社以上の組織づくりを支援してきた。また、文部科学省認定の研究機関として、学術的知見と現場の実践を架橋させながら、人と組織の創造性を高める「知の開発」にも力を入れている。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。東京大学大学院 情報学環 客員研究員。主な著書に『冒険する組織のつくりかた』『問いかけの作法』、共著に『問いのデザイン』などがある。
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(MIMIGURI 代表取締役Co-CEO 安斎 勇樹)