記事のポイントマーク・ジェイコブスはTikTokで大胆なコンテンツ戦略を展開し、Z世代にリーチしている。ヴィーナス・エ・フルールはインフルエンサーキャンペーンを刷新し、エンゲージメントと売上を向上させた。 インフルエンサーマーケティングは飽和状態にあり、創造性の維持が課題となっている。

ソーシャルコンテンツのKPIに新たな焦点を当てるマーク・ジェイコブス

2023年8月にTikTokに参入して以来、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)はこのプラットフォームで「爆発的な成長」を遂げてきた。そう語るのは、5月から同社のCMOを務めているクリスティン・パトリック氏だ。同ブランドのアカウントには約38万人のフォロワーがおり、そのオーガニック投稿は定期的に数百万ビューを記録している。もっとも記憶に残るものとしては、2024年7月に投稿された「トラッドワイフ」インフルエンサーのナラ・スミスによるゼロから作る「美味しそうなマーク・ジェイコブスの赤いトートバッグ」の動画(1700万ビュー)や、2024年1月に投稿されたシャドリンスキーとして知られる二人組による、ブランドの創立40周年記念ケーキの燃え上がる炎をマーク・ジェイコブス氏本人が吹き消そうとする動画(190万ビュー)などがある。「我々がTikTokを気に入っているのは、TikTokには多くのZ世代のフォロワーがいるからだ」とパトリック氏は米Glossyに語った。

インフルエンサーのナラ・スミスがマーク・ジェイコブスの赤いバッグを料理のように作りあげていく動画が話題に

同ブランドのTikTok戦略は、1230万人のフォロワーを抱えるインスタグラムでのアプローチとは大きく異なっている。「TikTokではもっと破天荒で奇抜なことができる。これは我々の『クレイジーなことにトライしてみよう』というチャネルだ」とパトリック氏は言う。「それがうまくいっている。マーク・ジェイコブスはつねにちょっと変わった型破りな態度をとってきたからだ」。さらに同氏によれば、ブランドのTikTokコンテンツは、ほかのプラットフォームでのコンテンツにくらベてあまり作り込まれておらず、また異なるインフルエンサーを起用している。とはいえ、複数のソーシャルチャネルで個性的なバイラルコンテンツを定期的に生み出すには、多くの労力が必要だ。マーク・ジェイコブスの場合、エージェンシーとは仕事をしていない。すべてのコンテンツはインハウスで制作するか、起用されたインフルエンサーによって作成されている。「ブランドはコンテンツのパブリッシャーにならなければならなくなった」とパトリック氏は述べた。「現在機能しているのは、AレベルのタレントやBレベルのタレント、プラットフォームに特化したクリエイターやインフルエンサーといったタレント戦略であり、5つか6つのプラットフォームでの存在感だ」。それは持続可能ではなく、ソーシャルメディアにおいて今年はマーク・ジェイコブスが「不安定な状況」になると覚悟しているとパトリック氏が語った理由のひとつでもある。「こうしたすべてのプラットフォームで存在感を示すために、膨大な量のコンテンツを作成する必要があると感じている(というプレッシャーを抱えつつ)、ブランドや企業は、TikTokに関する今後の米国の新たな政策やポップカルチャーの変化、アルゴリズムの変化に対応しなくてはならない」とパトリック氏は話す。今後についてパトリック氏は、ブランドが「さらに」KPI主導になることで、オーガニックなソーシャルコンテンツへの投資を合理化するだろうと予測した。そこにはマーク・ジェイコブスも含まれている。「どのプラットフォームに注力するかを考えたとき、私は誰にリーチするのかを考えている。そして、それがはたして売上につながるのかと考える」とパトリック氏は述べた。「我々はいくつかのプラットフォームに多額の資金を費やしているが、見返りを得られていない」。またマーク・ジェイコブスでは、これらのプラットフォームで発信するコンテンツの種類をアップデートする予定だ。「我々はクリエイティブで過剰なコンテンツの方向に偏りすぎた。自分たちの商品について語り、販売することも大切にしなくてはならない」。多様で重層的なソーシャル戦略がマーク・ジェイコブスの進むべき道であり、ブランドやブランド認知を高めるコンテンツや、ブランドのeコマースホームページやソーシャルメディアプラットフォーム上の「ショップ」へと誘導する「クリックして購入する」行動を促進するコンテンツなどが含まれることになるだろう。パトリック氏いわく、現在、TikTokはブランド構築の役割を果たしている。ソーシャルメディアを基盤とした機会を活用するという点で、マーク・ジェイコブスは競合のラグジュアリーブランドの中でも動きが迅速だという評判があるにもかかわらず、同社はまだTikTokショップでの販売を模索していない。「我々は誰よりも2歩先をいくことに注力している。つまりトレンドを先取りすることが重要なのだ」と同氏は言う。「だから、あらゆるチャネルで優れたクリエイティブを探し続け、新たなチャンスを発見して真っ先に飛びつくようにしている」。だがパトリック氏は、そのトレンドはイノベーションや創造性、不遜な態度で知られる同ブランドと明確にフィットするものでなければならないと明言した。当時話題を集めていたナラ・スミス氏は、ブランドのコラボレーターとしてすばらしい働きをしたと同時に、「控えめなイメージ」がブランドの投稿に現れることは決してなかったと同氏は述べた。TikTokショップについて、パトリック氏は次のように語った。「我々の商品を消費者が手に取りやすいものにしたいと思っているが、当社はラグジュアリーブランドでもあるので、あまり入手しやすいものにはできない。そこで消費者がどのように買い物をし、(TikTokショップへと)移行するのか様子を伺っている。だが、消費者はTikTokやAmazonなど、どこにでも存在している。そしてラグジュアリーでも(もっと手に取りやすいものへの)シフトが起きていると感じている」。現在、マーク・ジェイコブスは直営店、直営eコマース、卸売パートナーを通じて販売している。オーガニックなソーシャルコンテンツに加え、デジタル広告にも投資を行っている。パトリック氏はまた「デジタルエコシステム」が消費者のショッピング行動を再構築していることも認めた。たとえば多くの消費者は、Googleで検索してブランドのホームページを訪れるのではなく、ソーシャルメディアのリンクを経由してブランドの商品ページにたどり着いている。マーク・ジェイコブスがZ世代にリーチする方法はTikTokだけではないし、パトリック氏によれば、同ブランドはTikTokにかなり依存しているわけでもない。TikTokが禁止されれば、同ブランドはインスタグラムのリール、YouTubeショート、スナップ(Snap)、ピンタレスト(Pinterest)に重点を移すだろうとパトリック氏は言う。「Z世代とアルファ世代はピンタレストを気に入っている。クリエイティブでインタラクティブだからだ。注目すべきプラットフォームだ」。マーク・ジェイコブスの今年の他のマーケティングの焦点には、プラットフォームの多様化の継続や、顧客が時間を費やしている音楽やゲームに焦点を当てたものなど、新たなライフスタイルのバーティカルの開拓が含まれている。「気を引き締めておくべきだ。マーケティングの観点からは多くの変化が待ち受けているし、そのすべてを理解するということになれば、多くのビジネス上の混乱が生じるからだ」とパトリック氏は述べている。

アフィリエイトコマースと「壮大な」インフルエンサーキャンペーンを取り入れるヴィーナス・エ・フルール

長持ちするフラワーアレンジメントで知られるラグジュアリーブランド、ヴィーナス・エ・フルール(Venus et Fleur)もまた、ホリデーシーズンのインフルエンサーマーケティングキャンペーンの成功を踏まえ、2025年にソーシャルメディア戦略を刷新する計画だ。「インフルエンサーマーケティングはあまりにも飽和状態となっているので、雑音を断ち切ることが最重要課題だった」と、同ブランドのCMO、シルベット・セイン氏は言う。2024年の第4四半期、ヴィーナス・エ・フルールは、ブランドとパフォーマンスマーケティングのバランスを重視するインフルエンサーエージェンシー、ダイアローグ・ニューヨーク(Dialogue New York)を起用した。その結果、インフルエンサーのスタイルに合わせて花束を贈るという既存のインフルエンサー戦略を見直すことになった。ソーシャルメディア上にひとつの静的な投稿を行うのが一般的だったそれまでの戦略をやめて、たとえばリースやガーランドのホリデーコレクションを宣伝するために、ブランドを愛していて関連するコンテンツを投稿してくれるインフルエンサー20名をキュレーションした。そして、セイン氏いわく、スーツに身を包んだオペレーションチームが「白い手袋をはめて配達」する形で、1日で20人全員に全コレクションをプレゼントした。コレクションは推定5000ドル(約77万円)相当だ。セイン氏によると、この取り組みの結果、予想を上回るフォロワーやエンゲージメント、売上の増加がみられたという。その翌週には、TikTokとリール全体で動画が7万7000ビュー以上を獲得した。さらにブランドのTikTokプロフィールの閲覧数は1500%増加し、インスタグラムのエンゲージメントは570%増となった。また、ヴィーナス・エ・フルールのホリデーリースは完売した。この成功に基づき、ブランドはさらに10人のインフルエンサーと同じプロセスを繰り返し、同等の結果をもたらした。「インフルエンサーからこれほど多くのエンゲージメントを得たことはなかった」とセイン氏は言う。「インフルエンサーたちは無報酬で複数の動画を投稿した」。このような「華々しく壮大なキャンペーン」が、今後のヴィーナス・エ・フルールのインフルエンサーマーケティング戦術を定義することになるだろう、とセイン氏は語る。ホリデーキャンペーンで証明されたように、インフルエンサーは結果を出すために大規模なフォロワーやエンゲージメントを必要としないと、同氏は指摘した。ヴィーナス・エ・フルールでは、新たに採用したそのほかのソーシャル戦略として、今期からYouTubeショッピングのアフィリエイトプログラムとTikTokショップをテストしている。「(TikTokショップでは)何がうまく当たるのか、まだわかっていない」とセイン氏は言う。「ラグジュアリーにとっては厳しい」。もっと一般的なTikTokのコンテンツという点で同ブランドにとって効果的だったのは、バイラルになったAR動画だ。また、ラグジュアリーブランドとして「インフルエンサーと提携することで、多少はオーガニックになれる柔軟性を持つことができた」とセイン氏は述べた。TikTokが禁止された場合、ヴィーナス・エ・フルールは広告が成功しているスナップチャット(Snapchat)に目を向ける可能性が高い。「ラグジュアリーブランドは、新しい戦略となると、当社はそんなことはしないという姿勢になりがちだ。だがその後、自分たちの声やブランドガイドラインに乗る機会を見出すようになると、よし、それほど悪くないかもしれないと気づく。我々は皆、メタ(Meta)やGoogleから多角化しようとしているため、とにかくすぐにノーと言うのではなく、自分たちの意思で物事を行うことに寛容になっている」。

「我々はクリエイティビティの危機にある」:2025年、インフルエンサーマーケティングはどう進化するか

インフルエンサーマーケティングエージェンシー、ダイアローグ・ニューヨーク(Dialogue New York)の創業者兼CEOであるジュリアン・フレイザー氏が、ラグジュアリーブランドをはじめとするインフルエンサーマーケティングの現状と方向性を分析する。現状のTikTokのパワーと影響力をどのように表現するか?「TikTokは力を持っており、特にラグジュアリーブランドがZ世代に浸透し、オーディエンスとの信頼性を築く方法に注力する中で、その重要性が全般的に引き続き高まっている。ここ数年のTikTokの出現によって、より無防備でリアルなナラティブや、洗練されていないコンテンツへとシフトしている。消費者はTikTokが提供するリアルなストーリーテリングや生々しさを求めている」。ラグジュアリーブランドとインフルエンサーの現在の力関係はどうか?「長い間、ラグジュアリーブランドはブランド(の威信)を維持するために、インフルエンサーのコミュニティに関与することに神経質になっていた。ブランドは、『特定のクリエイターと一緒に仕事するのは、ブランドには合わない』と感じていた。ラグジュアリーブランドの多くは、コントロールを解放することに抵抗を感じるが、それはリターンを促進する上で必要なことなのだ。また、シャネルビューティ(Chanel Beauty)を含む多くのブランドが、理にかなった形で効果的にインフルエンサーと仕事をする方法を見出している」。現在、インフルエンサーマーケティング業界が直面している最大の課題とは何か? 「我々はクリエイティビティの危機にある。インフルエンサーマーケティングに注ぎ込まれる資金は年々増えている。その業界が膨れ上がっているため、クリエイターやブランドのマーケターは現状に満足して怠惰になり、クリエイティブで思慮深いナラティブを推進できなくなっている。また、エージェントも自己満足と怠慢に陥り、適切なブランド提携の交渉をしなくなった。こうしたことが重なって、消費者は感覚が麻痺し、同じようなハッシュタグ広告や真偽不明の広告を目にすることにうんざりしている。誰もが同じようなメイクをして、同じようなインテリアの部屋に住み、ヘアスタイルも服装もみんな同じように見える。なぜなら、我々全員が独自のアルゴリズムのエコーチェンバーの中にいて、同じコンテンツを繰り返し提供されているからだ。(ソーシャル)トレンドに飛びついて、それが正しいときに活用するよう、私はブランドにアドバイスするが、このようなコピー&ペーストのアプローチに依存するだけではだめだ」。2025年に予想されるマーケティングのトレンドは何か?「メタ広告のパフォーマンスは芳しくなく、2025年には全体的に悪化するだけだろう。メタ広告で何らかのリターンを得るのは、はるかに難しくなってきている。そのためさらに多くのブランドがソーシャル広告の予算をインフルエンサーマーケティングにシフトしていくと予想している。また、ブランドマーケティングへのシフトもみられ、ブランドはトップオブファネルマーケティングへの投資の重要性を認識している。ユーザー生成コンテンツは、ブランドが必要とする大量のアセットを維持するのが困難なため、今後も人気が継続するだろう。そしてオフラインでの影響力や小規模なニッチコミュニティの価値もさらに明白になっていくだろう」。[原文:Luxury Briefing: Luxury brands are evolving their social media strategies in preparation for a ‘bumpy ride’]JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida、編集:戸田美子)