「消しゴムの使い方」で成績伸びるかわかる根拠
(漫画:©︎三田紀房/コルク)
記憶力や論理的思考力・説明力、抽象的な思考能力など、「頭がいい」といわれる人の特徴になるような能力というのは、先天的に決められている部分があり、後天的に獲得している能力は少ないと考える人が多いのではないでしょうか。
その考えを否定するのが、偏差値35から東大合格を果たした西岡壱誠氏です。漫画『ドラゴン桜2』(講談社)編集担当の西岡氏は、小学校、中学校では成績が振るわず、高校入学時に東大に合格するなんて誰も思っていなかったような人が、一念発起して勉強し、偏差値を一気に上げて合格するという「リアルドラゴン桜」な実例を集めて全国いろんな学校に教育実践を行う「チームドラゴン桜」を作っています。
そこで集まった知見を基に、後天的に身につけられる「東大に合格できるくらい頭をよくするテクニック」を伝授するこの連載(毎週火曜日配信)。連載を再構成し、加筆修正を加えた新刊『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』が、発売後すぐに3万部のベストセラーとなっています。第86回は消しゴムの使い方をみると、成績が伸びるかどうかわかる、その理由をご紹介します。
消しゴムの使い方はミスとの向き合い方
私が塾講師として働きはじめた頃、ある先輩のベテラン講師から面白い話を聞きました。
「消しゴムの使い方を見れば、その子が伸びるかどうかがわかる」と言うのです。
どういうことか聞いてみると、「計算ミスをしたときに、間違えたところをいちいち消しゴムで消している子は伸び悩む」のだとか。
「理由は自分で考えてみろ」とだけ言われ、その会話は終わりました。当時の私は「間違えたなら、消しゴムで消すのは当たり前だよな?」と意味がわからなかったのですが、経験を重ねるうちにだんだん理由がわかってきました。
消しゴムを使うかどうかというのは、ミスとの向き合い方の違いだったのです。先輩講師の言っていたのと同じことが、『ドラゴン桜』のマンガにも描かれていました。東大受験生の矢島くんが試験中に、計算用紙に間違った式を書いて消しゴムを使おうとする場面です。
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(漫画:©︎三田紀房/コルク)
(漫画:©︎三田紀房/コルク)
間違えたところを消しゴムで消すと、ミスの原因がわからなくなってしまうということでした。原因がわからないままだと、また同じミスを繰り返す恐れがあります。私の先輩講師が言っていたのはこれだったのです。
よくよく観察してみると、計算用紙や演習ノートなどで消しゴムを使っている子は、確かに伸び悩んでいるケースがほとんどでした。ミスした箇所を消してしまうと、見た目上はミスが「なかったこと」になります。
ノートとしては見栄えはするかもしれませんが、自分が何のせいでどう間違えたのか、後から見てもわからなくなってしまいます。そのため、ミスが自分の記憶に残りにくく、また同じことを繰り返してしまうのです。
私も受験勉強を始めた頃は、間違いを消して書き直したのに、さっきと同じ間違いをまた書いてしまうなんてことが何度もありました。似たような経験がある人もいるのではないでしょうか?
間違ったら消すのが当たり前という思い込み
間違ったら消すのが当たり前、という思い込みがあるので、たいていの子は消しゴムを無意識に使います。ただ、気をつけたいのは変なプライドが邪魔して消しゴムを使うパターンです。
自分がミスしたことを認めたくないとか、間違えることが恥ずかしいという気持ちから消してしまうケースですね。このタイプの子はきちんとミスと向き合うことを嫌がって、「なかったこと」にしようとします。
「ちょっとくらいのミスならどうってことない」とか「次気をつければいいだろう」という甘い考えなので、結局また同じことを繰り返してしまいます。
『ドラゴン桜』の別のシーンでも、矢島くんがミスに対する意識を咎められていました。
(漫画:©︎三田紀房/コルク)
(漫画:©︎三田紀房/コルク)
「ちょっとくらいいいだろうと妥協して自分を甘やかすな!」とは耳が痛い話ですね。矢島くんも思わずヒートアップしてしまっています。
ただ、東大生を見ていると、やはりこれは的を射た指摘だなと思わずにはいられません。合格するのは、自分のミスに非常に厳しい人たちばかりだからです。
東大生が受験勉強で使っていた演習ノートを見ると、ミスがあればそのまま残しておき、大きな印などで一目でわかるようにしているケースが非常に多いです。
「ここでミス!正しくは〇〇!」とか「□と△を混同している!」など、原因がはっきりわかるようにして、同じミスを防ぐ工夫をしているのです。「二度とするな!」、「集中!」など、自分を戒める言葉を横に添えている人もよく見かけます。
ミスを防ぐための対策も質が高い
また、ミスを防ぐための対策も質が高いです。例えば、計算で符号ミスをしたとしましょう。普通なら「符号に気をつける!」とノートに書きたくなりますよね? ですが、「気をつける」というのはただの精神論であり、実際に何をすればいいのかわかりません。
こういう場合、東大生の人たちは決して「頑張る」とか「気をつける」といったあいまいな言葉を使いません。
対策として「まず計算式の中にあるマイナスの数を数える。次に、答えの符号を決めてから数字の計算に取りかかる」といった具体的な手順を考えます。「こうすればミスしない」というポイントが明確になっていれば、落ち着いて集中できますよね。何をすればいいのかわからないままでは、「また失敗したらどうしよう」という不安から逃れることはできません。
頭のいい人は要領がいいとか成長が早いといったイメージがあると思いますが、それは1つの失敗から確実に学びを得て課題を克服するからこそではないでしょうか。人と同じ経験をしても、そこから得るものの量が違うと言ってもいいかもしれません。
このような学びは、ミスを消しゴムで「なかったこと」にしてしまうとできないことです。ミスを可視化して向き合うことは時につらくもありますが、成長には欠かせない姿勢であることは間違いないでしょう。つい同じ失敗を繰り返してしまうという人は、ぜひ参考にしてみてください。
(青戸 一之 : 東大卒講師・ドラゴン桜noteマガジン編集長)