チリ戦でボールを持って突破する具智元。強敵イングランド戦ではFW陣の奮闘が勝利の鍵を握る【写真:Getty Images】

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W杯フランス2023コラム、7大会連続取材「ラグビーライターの視点」

 ラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会で前回大会のベスト8超えを目指す日本代表は、17日(日本時間18日4時)にニースで行われるイングランド戦へ準備を進めている。10日の初戦でチリを42-12で下して白星スタートを切ったが、イングランドも強豪アルゼンチンに27-10と快勝。プールD唯一の全勝を懸けた決戦で、昨年11月のテストマッチでスクラム戦の末に完敗(13-52)した相手への雪辱を誓う。スクラム担当の長谷川慎アシスタントコーチ(AC)は「殴られる前に殴れ」と選手の闘争心を煽る。勝てばプールD首位通過、負ければ決勝トーナメント進出に黄信号が灯る注目の一戦。スクラムを制する者が、D組を制する様相だ。(取材・文=吉田 宏)

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 ラグビーの母国イングランドとの対戦へ向けた初めての公開練習が行われたのは13日。対面での会見では、“スクラムマスター”長谷川ACが吠えた。

「やられる前にやるというところがすごく大事かなと思います。そういうメンタリティーを持って練習して、試合で一発目(のスクラムから)から(自分たちのスクラムを)出せるようにする。殴られる前に殴るというイメージをしっかり全員で共有している段階です」

 時に冗談で報道陣を笑わせながらも、言葉の端々に秘めた闘争心が火花を放つ。取材に応じた選手も、右PR具智元(コベルコ神戸スティーラーズ)とHO堀江翔太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)とFW第1列。長谷川ACの現役時代のポジション(左PR)を並べると、背番号で1、2、3とスクラムの最前線トリオで固めてきたことに、チームの意気込みが読み取れる。

 鼻息の荒さの理由は、10か月前に遡る。

 すでにW杯での対戦が確定していたイングランドとの敵地トゥイッケナムでの前哨戦。本番を占う注目カードだったが、開始から立て続けにスクラムで反則を犯し、相手に主導権を握られた。終わってみれば13-52の完敗。反則をとられた具も、その後、長谷川ACと何度も話し合い、W杯でいかにイングランドスクラムに対抗するかを模索してきた。

「去年は、バインドの掛け合いからヒットのところで、ちょっと受けただけで、スクラムを落としたと判断されて反則をとられた。でも、今は修正できているので、やり返せる自信もあるから楽しみです」

 韓国出身ながら日本代表のジャージーを選んで、今や押しの強さで日本スクラムの欠かせない存在に成長する。昨秋にイングランドに粉砕されてから、悔しさの中で師匠・長谷川ACと取り組んできたスクラムを爆発させる時が近づいている。

「自分は(次戦に出れば)イングランドと3回目ですけど1回も勝てていない。去年はすごく悔しい思いをしながら負けてしまったので、W杯の中で一番の目標、自分の中で見せたいなという試合です」

2019年W杯アイルランド戦のスクラムで奪った反則

 チリとの初戦では、パスをした後に背後からレイトタックルを受けて膝を痛めた。この日の練習は、公開された15分ほどの時間はプレーをせずに、チームの練習を見守り続けた。

「今、膝の状態は結構、一日一日早く良くなっていて、自分的には試合に出られるつもりでいます。後はチームの判断でいくかなと思います」

 回復具合が危惧されるが、チームと一緒にピッチに立ち続けたのは控え目な具の出場志願のように見えた。

 では、長谷川ACが思い描き、具たち桜の戦士たちに落とし込んできた日本流のスクラムとはどんなものか。

 長谷川ACも指導者として初めて挑んだ2019年日本大会。世界では“弱小“と見られていたスクラムで、チームは奇跡を起こした。伝統的にスクラムへの拘りを持っていた優勝候補アイルランドとの一戦で、日本は勝負どころの組み合いで、相手から反則を奪い獲った。スクラムに拘る男たちにとって、「崩した」と判定されるのは「負け」と宣告されたようなもの。そんな屈辱をスクラム強国に味わわせ、ゲームでも“静岡の奇跡”と呼ばれる金星を掴んだ。

 海外選手ほどのサイズも体の厚みもない日本の選手が、パワーと重さがものを言うスクラムで互角以上に戦えたのは、組織力と低さを武器にしたからだ。低さは日本の伝統でもあるが、相手よりも低く組むことで、下から上へと押し上げるようなスクラムを組めるのがメリットになる。対戦相手が押し込んでくるパワーを真っ向から受けないのが特徴だ。

 その低さに加えて、FW8人全員が、より一体となって相手の最も弱い部分に全員のパワーを結集させる。巨大なダムが1ミリの穴から崩壊するようなイメージで押し込む。一体感を高めるために、8人が円陣で深呼吸をして息継ぎまで合わせるのは、今や日本のスクラムの常識だ。その詳細の突き詰め方が、長谷川ACの指導の下で他国に類を見ないほどのマニアックな領域に達している。8人で組むスクラムが、強固なバインドとコミュニケーションで、まるで1つの生き物のように一体化することが求められる。

 イングランドは昨秋にアルゼンチン、南アフリカらに敗れて、日本戦以外は未勝利。19年W杯では決勝戦まで勝ち上がったチームの低迷を受けて、同協会はエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC/現・オーストラリア代表HC)を解任。代わりに、エディー時代の日本代表でもACを務めたスティーブ・ボーズウィックに指揮が託されたが、今年の6か国対抗でも2勝3敗の4位。夏のW杯プレマッチでもフィジーに22-30と史上初めて敗れて、今大会に臨むことになった。

守りのスクラムではなく「喧嘩しにいってほしい」

 辛辣な英国メディアを筆頭に、海外でも「低迷」と書かれるイングランド代表だが、長谷川ACは会見で「最近はイングランドらしさがない」と聞かれると、迷わず言い切った。

「僕の中では印象は変わっていないですね。イングランドはたぶん100年同じラグビーをしているので。強いFW、そこからモールを組んで、フィジカルにくる。イングランドは別に弱くもなっていないし、リスペクトを持って試合をしたいと思っています」

 アルゼンチンを倒した前週の試合でも、スクラムを左右にコントロールして優位に立った。相手のスクラムを右サイドから押し込むことで、右展開で相手防御が1歩出遅れてしまう。こんなコントロールを阻止することが、日本のスクラムの使命になる。苦闘を強いられていても、相手は最古の代表チーム。しかも、骨太で筋肉質のアングロサクソン系の大男が、小細工なしにシンプルに重圧をかけてくる伝統のスタイルを取り戻しつつある。

 具も語ったように、昨秋の敗戦では積極的なスクラムは組めなかった。日本が目指すのは、強気のスクラムで自分たちの組み方を貫くこと。

「ディフェンシブなスクラムではなく、しっかり喧嘩しにいってほしい」

 長谷川ACの求めるものは、8人のむくつけき男たちも同じ。警戒と尊敬の念を込めて、“母国”のスクラムを押し込んでみせる。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。