物価高で値上げラッシュが続いている。さらに重くのしかかるのが、消費税などの税金だ。日本女子大学家政学部の細川幸一教授は「ガソリン税、酒税、たばこ税には消費税がかかる。税金税金を課すことになるこうした個別消費税は『二重課税』と映り、重税感を高めるもので見直すべきだ」という――。
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■値段が上がり、消費税の負担も重くなる

モノの値上がりが毎日のようにニュースになっている。現在の物価高はロシアによるウクライナ侵攻に伴う原油や天然ガスなどのエネルギー価格の高騰が大きく関係していることから、日々の生活に欠かせない電気代、ガス代やガソリン代の値上げが続いている。

さらに最近では円安も続いており、円安は輸入品の価格を押し上げる。とくに海外からの輸入に頼っている食品などはたびたび値上げが行われている。

日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」(2022年6月調査)では、物価に対する実感が1年前と比べて「上がった」と回答した人は全体の89%にも及ぶ。また、1年後の物価が「上がる」と回答した人も87.1%となっており、今後も物価高が続くと考えている生活者は多い。

OECD加盟諸国に比べて極端に日本において給与が上がっていなことが指摘されており、今後、政府の対策が十分に行われず、さらに給与も上がらなければ、物価の上昇によって経済的なゆとりがなくなる家庭は急激に増えていくだろう。

1989年に税率3%ではじまった消費税は、5%、8%となり、現在10%となっている(8%の軽減税率は導入)。多くの消費者がモノを購入するたびに消費税に対して重税感を持っているのではないだろうか。モノの価格が上がれば、その分、消費税として支払う額も大きくなる。そこで消費者の関心は減税の可能性に向いてくる。

ガソリン税、酒税、たばこ税の重税感

こうした状況もあり、今年7月10日に投開票が行われた参議院議員選挙では、消費税の減税・廃止が争点の1つになった。7野党がそろって「減免税」の主張を掲げたが、与党は現状維持を主張した。

自民党は同党HP(8月4日掲載)で、「物価高を抑制するために消費税を一時的に減税することは、有効に感じられるかもしれませんが、消費税率を見直すには法改正が必要であり、直ちに実施できる政策ではありません。また、税率を引き下げると一時的な買い控えが起こることも予想され、実体経済が混乱することは明白。物価高騰対策には現実的な政策を進めることが最も効果があります」とし、「ガソリン等の激変緩和事業や電気代の燃料費調整制度、小麦の国内価格上昇を抑制する措置等を実施」としている。

消費税以外にも国民はいろいろな税金を支払っているが、モノを購入するときに負担する税金でやはり重税感がたびたび指摘されるのは、ガソリン税、酒税、たばこ税だろう。

ガソリンは1リットルあたり53.8円、お酒は、ビールの場合350ミリリットル缶で70円、1箱(20本)580円の紙たばこで304.88円だ。

これだけ税額が大きいとおかしなことに気付く人も多いはずだ。ガソリン、酒、たばこの販売価格にはこれらの税金が含まれている。それに対して現行10%の消費税を払っているということは税金税金が課されているということだ。これは「二重課税(Tax on Tax)」であり、課税権の乱用ではないのかという疑問だ。

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■物価高で問われる「二重課税」

ガソリン税を例に考えてみよう。レギュラーガソリン1リットル160円(ガソリン税を含む)だとすると、ガソリンを満タン50リットル入れると代金は8000円になり、それに消費税10%の800円が加算され、8800円を支払うことになる。

すなわち、ガソリン税にも消費税が課されていることになる。もし160円のうちのガソリン税53.8円が課される前の価格106.2円に消費税を課し、それにガソリン税を加えたら、支払い金額は8531円(消費税は531円)ほどになる。その差は269円だ。

毎月50リッターを利用する人はこの12倍の年間3228円、毎週使う人は48週とすると1万2912円を税金に対する税金として支払っていることになる。たばこもお酒も同様であり、たばこも酒もドライブも好きな人は一生でいくら払っているのだろうか。

なぜ税金税金を課すことが許さるのであろうか。国税庁は以下のように説明している(一部抜粋、揮発油税は本稿でのガソリン税を指す)。

消費税の課税標準である課税資産の譲渡等の対価の額には、酒税、たばこ税、揮発油税、石油石炭税、石油ガス税などが含まれます。これは、酒税やたばこ税などの個別消費税は、メーカーなどが納税義務者となって負担する税金であり、その販売価額の一部を構成しているので、課税標準に含まれるとされているものです。

これに対して、入湯税、ゴルフ場利用税、軽油引取税などは、利用者などが納税義務者となっているものですから、その税額に相当する金額を請求書や領収証等で相手方に明らかにし、預り金又は立替金等の科目で経理するなど明確に区分している場合には、課税資産の譲渡等の対価の額には含まれないことになります(国税庁HP上のタックスアンサーNo.6313「たばこ税、酒税などの個別消費税の取扱い」)

税金税金が課されている

すなわち、ガソリン税はメーカーなどが納税義務者であるから販売価格の一部であり、軽油引取税は利用者が納税義務者となっているから軽油販売価格の一部を構成していない。それゆえに違いが出るという見解だ。ガソリンと同様にお酒やたばこも消費者から見ると税金税金が課されていることになる。

この説明にある軽油引取税はディーゼル車に乗っている人が購入する軽油に課されるものだ。軽油にはガソリンのような二重課税は起きないのだ。

軽油には軽油引取税が1リットルあたり32.1円課されるが、軽油の場合は軽油引取税を含めた軽油の価格に消費税を課すことはせず、軽油引取税を課す前の軽油価格に10%の消費税を課し、それと軽油引取税を加える仕組みになっている。

(注:この他、ガソリン、軽油とも1リットルあたり2.8円の石油石炭税等が課されているがここでは省略して説明している)

そもそも企業は固定資産税や法人税など多くの税金を払っている。それらはその企業が販売するモノの価格にコストとして転嫁されている訳だから、ガソリン税、酒税、たばこ税に消費税がかけられるのも当然であるという理屈なのだ。

しかしながらこれらの税金は消費者が購入するモノにかけられているものであり、税額も高額であるから消費者からみると納得できない二重課税という印象が強い。そもそもガソリン税、酒税、たばこ税などは個別消費税とされている。個別の消費税なのだから、消費税(10%)の課税対象に含めないのが筋ではないのか。

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■いつまでも続く「臨時の税金

ガソリン税については、その税率が高すぎるという声が大きくなり、トリガー条項の発動が議論となっている。トリガー条項は2010年度税制改正で導入されたが、東日本大震災の復興財源確保のため2011年に凍結されたまま現在に至っている。

ガソリン税は本来1リットルあたり28.7円だったのでだが、道路財源の不足を理由に臨時の税金(暫定税率)25.1円が加算されて、現在の53.8円になっている。

ガソリンの平均小売価格が3カ月連続で1リットルあたり160円を超えると、「トリガー(引き金)」を引くように発動され、ガソリン税53.8円のうち、上乗せされている分の25.1円の課税を停止し、また3カ月連続で130円を下回ると元に戻る仕組みだ。

現在のガソリン価格はこれを超えているので、トリガー条項の凍結解除(発動)が主張されているのだが、政府・与党は見送っている。買い控えや駆け込み購入といった流通の混乱、ガソリンスタンドの事務負担増など課題が多く、発動は現実的ではないとの判断による。

代わりに石油元売り各社へ支給する補助金制度を導入している。現在は1リットル当たりの補助金上限は35円だ。政府は、補助の上限について、段階的に縮小する方向で調整していたが、最近の円安ドル高などを背景に据え置きを決めたと報じられている。

■過熱式たばこは物価高でも増税値上げ

たばこについても増税による値上げが進行中だ。

2018年の税制改正で決定した毎年の値上げが進行中ですでに4回目の2021年10月の値上げまで行われている。紙巻きタバコだけではなく、IQOS(アイコス)やglo(グロー)、Ploom TECH(プルーム・テック)といった加熱式タバコも対象となっており、この10月からは加熱式タバコが再び値上げされる。

ただ、紙たばこ1箱(20本)が500円のワンコインでは買えなくなったと一時話題になったが、まだ禁煙先進国から比べると安く(オーストラリアでは1箱2000円位、イギリスは1700円位)、さらなる増税も予想されている。

■旅行客を狙い打つ熱海市のもくろみ

熱海市は住民登録をしていない別荘所有者には固定資産税に加え、別荘税(別荘等所有税)を全国で唯一課している。税率は延べ床面積1平方メートルにつき年額650円だ。これは納税義務者が同じであり、不当な二重課税ではないのか?

熱海市の見解はこうだ(熱海市HPの別荘等所有Q&A質問6より)。

固定資産税は家屋の価格(評価額)、別荘等所有税は述べ床面積をそれぞれ課税標準として課税されており、課税標準が異なっていますので二重課税とはなりません。

また、同市は入湯税を徴取している。地方税法に定められている温泉などで徴収される市町村の税金だ。課税されるのは鉱泉施設があるホテル、旅館、スーパー銭湯、健康センターなどで税額は1人1日当たり150円(標準税率)だ。現在1000ほどの自治体が徴収している。

入湯税に加えて、宿泊税を徴取することを熱海市は検討している。

2022年3月時点で宿泊税をすでに導入している地方自治体は、東京都、大阪府、福岡県(福岡市、北九州市は独自税率)、京都市、金沢市、倶知安町だ。例えば、東京都の場合、宿泊料金が1人1泊1万円未満の宿泊には課税されず、1人1泊1万円以上1万5000円未満は100円、1万5000円以上は200円となっている。

■国民の負担はかなり重くなっている

入湯税に加え、宿泊税を課税するとなると、温泉施設のある宿に宿泊する者にとっては二重課税と映る。同市の宿泊客は温泉に入ることを目的に宿泊施設を利用しており、宿泊と入湯は一体の行為だろう。

齋藤栄・熱海市長は、「熱海に泊まり、温泉に入ることが目的の客からすると、一連の行為の中で2回課税されることとなることから、二重取りではないかといった指摘はもっとも」とした上で「地方税法上の整理では、宿泊税と入湯税は納税義務者(宿泊者と入湯客)、課税客体(宿泊行為と入湯行為)、課税標準、宿泊日数と入湯日数が異なるものであり、問題は生じないと考えている」(筆者要約)とした(熱海市議会2018年9月定例会10月10日)。

財務省が発表した令和4年度の租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率の見通し推計によると、国民負担率は46.5%となっている。これは国民所得に占める税金+社会保障費の負担割合を示したものである。

その内訳は、租税が27.8%、社会保障費が18.7%である。社会保障費は第二の税金とも言われる。サラリーマンにとって、源泉徴収や社会保障費はかなり大きく、「天引き」額の大きさに嘆いている人も多いであろう。ここで述べたような課税側の「屁理屈」にもみえる二重課税問題についての関心も今後高まってくるに違いない。

写真=iStock.com/hirohito takada
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細川 幸一(ほそかわ・こういち)
日本女子大学家政学部 教授
独立行政法人国民生活センター調査室長補佐、米国ワイオミング州立大学ロースクール客員研究員等を経て、現職。一橋大学法学博士。消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。立教大学法学部講師、お茶の水女子大学生活科学部講師を兼務。専門:消費者政策・消費者法・消費者教育。著書に『新版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』『大学生が知っておきたい消費生活と法律』(いずれも慶應義塾大学出版会)などがある。
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(日本女子大学家政学部 教授 細川 幸一)