名波体制2年目のカギは原点回帰とカメレオン戦法。松本山雅、開幕戦ミラクル逆転劇はJ2復帰への光明となるのか?
クラブは2021年6月から指揮を執っていた名波浩監督の続投をいち早く決定。佐藤和弘や前貴之ら昨季主力の流出を阻止したうえで、復帰組のパウリーニョや小松蓮、新戦力のビクトルら新たなメンバーを補強。コーチングスタッフも複数の入れ替えを行なった。
さらに、強化体制も変わった。まず昨年末に加藤善之副社長兼GMが退任。クラブOB・鐵戸裕史部長をトップとする編成部にTD職を新設し、横浜F・マリノスや名古屋グランパスで長年強化に携わった松本出身の下條佳明氏を抜擢。豊富な経験やネットワークを生かしながら鐵戸部長をサポートする形へとシフトしたのだ。
こうした改革に現場も呼応。指揮官は1月下旬からの和歌山での1次合宿で凄まじい走り込みを実施。シーズンを通して走り抜ける体力強化を行なったという。2月中旬からの鹿児島2次合宿では実戦形式に取り組んだが、コロナ陽性者が複数人出て、練習試合が中止になるなど、アクシデントに見舞われた。
「今回のスタメンで開幕前に90分こなしているのは常田(克人)、佐藤、米原(秀亮)、横山(歩夢)の4人だけ。ゲームコンディションが整わない中、難しい入りになった」と名波監督も苦しい台所事情を口にしていた。
実際、この日の序盤は讃岐に主導権を握られた。昨年9月26日のギラヴァンツ北九州戦を最後に11試合も公式戦勝利から遠ざかっている山雅は自信を持った入りができず、相手の迫力に押され、不用意なミスが目立つ。28分には米原のパスをカットされ、鋭いカウンターからまさかの失点。昨季J2で71失点という悪夢を想起させた。
それでも、キャプテンマークを巻いた攻守の要・パウリーニョを中心に立て直し、徐々にペースを引き戻す。プロ2年目の横山も持ち前のスピードと推進力で引っ張り、チームに活力を与えた。その19歳FWが前半終了間際に佐藤の右CKから見事なヘッドで同点に追いつき、なんとか1-1で折り返せたのは、大きな朗報と言っていい。
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流通経済大出身の新人・菊井悠介が登場した後半は、攻撃のギアが一段とアップ。数多くのチャンスを作った。讃岐の西村俊寛監督も「後半は相手の個のところにひるんでいた。相手の15番(菊井)もいいポジションを取ったので、マークが捉えきれなかった。選手に疲れも出て、相手に上回られた」と渋い表情で話したが、山雅の走力や推進力が敵を凌駕したということだろう。
それは合宿のひとつの成果。名波監督も「和歌山で走った分、最後まで持った」とコメントしたが、走力と強度のベースを養ったのは大きい。「原点回帰」を今季スローガンに据える松本山雅にとって、最後まで諦めずに走ってボールを追うことはまさに根本的な部分。反町監督が去った後はその強みが失われつつあっただけに、ようやく希望が見えてきた印象だ。
後半途中から榎本樹、小松、稲福卓ら若い面々が出てきて躍動感をもたらしたのも特筆すべき点。この2年間、若返りを重要テーマに据えながら、実行しきれないまま来ていたが、今季はカテゴリーが下がり、名波監督も大胆起用がしやすくなったのだろう。フレッシュな人材が存在感を示せば、チーム内競争も激化する。全員がギラギラと野心を押し出す集団になってこそ、1年でのJ2復帰への道が開ける。その一端が見えたのは収穫だ。
こうしたポジティブな面はいくつかあったが、決定力不足という課題は相変わらずだ。後半アディショナルタイムに菊井の右CKから途中出場の外山凌が2点目を叩き出し、なんとか勝ち切ったものの、決め切る迫力が足りないし、流れの中からの得点は取れていない。
デザインされたセットプレーが増えたのは前向きな要素だが、やはり1年での昇格を手にしようと思うなら、傑出した得点源が必要不可欠だ。昨季1年間をケガでほぼ棒に振ったルカオ、東京ヴェルディからレンタルバックした戸島章、山雅育ちの小松、プロ初ゴールを奪った横山らFW陣の中から二ケタという数字を残せる人間が出てこないと厳しい。率直に言えば、開幕戦の内容では確実に昇格争いができるとは言い切れない部分もあるだけに、攻撃陣にはさらなる奮起を求めたい。
「我々はつねに挑戦者ですし、圧倒的に力のあるクラブではないんで、カメレオン戦法じゃないですけど、いろいろ駆使して、いろんな選手の特徴を出しながら、今後もやっていきたい」と名波監督はあくまで下から這い上がる覚悟だ。
「資金力や規模ではJ1のようなクラブもJ3に参戦してきて、その中で上位2つを狙っていくのは相当難しい」と讃岐の西村監督も話したが、その資金力や規模がある分、松本山雅は徹底的に研究され、対策される。今回の後半のように圧倒的に支配していても、決めきれずに勝てないといった苦境に陥る可能性もある。その壁を破るためにも、指揮官の言う「カメレオン戦法」が重要になってくるのではないか。多様な戦い方を見出し、失点を減らし、得点力をアップする。それができれば自ずから明るい未来が見えてくるはずだ。
讃岐まで訪れた400人のサポーター、そして地元で応援する人々を再び裏切るようなことのない結果を残すこと。それが今季の名波監督とクラブに課される最重要タスクだ。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
