MLB各球団はキャンプを間近に控え、戦力を整え始めている。今オフ、サンディエゴ・パドレスは、ナショナル・リーグで最多勝に輝いたダルビッシュ有(前シカゴ・カブス)などのエース級投手を獲得。同地区の宿敵で昨季の覇者、ロサンゼルス・ドジャースに匹敵する大幅な補強に成功したことが話題になった。

 だが、パドレスのようにスムーズに戦力が整った球団は多くない。昨年から続く新型コロナウイルスの影響で、各球団は大幅な赤字に苦しみ、オフのFA市場も停滞した。1月下旬になっても所属球団が決まらない選手や未契約の選手もいる。それぞれの選手は、さぞ落ちつかない気持ちで過ごしていることだろう。

 ロサンゼルス・エンゼルスに所属する大谷翔平もそのひとりだ。


昨季は投手、打者の双方で不本意な結果に終わった大谷

 今オフ、大谷は年俸調停権を初めて取得した。エンゼルス入団時に23歳だった大谷は、労使規定により年俸調停権を得られる3年目まで、最低保証年俸(54万5千ドル:約5700万円)に近い金額でプレーした。

 今オフ、晴れて大型契約を結ぶことが可能になり、"二刀流"の年俸調停に米メディアは注目した。今季からエンゼルスのGMとなったペリー・ミナシアン氏も「大谷が増額に値する選手であることに同意する」と発言していたことから、大谷の大型契約は早々に決まるとメディアは予想していた。

 しかし、年俸調停権を持つ選手が球団と希望額を交換する期限の1月15日(現地時間)、球団から発表された契約締結選手に大谷の名前はなかった。エンゼルスは期限までに大谷と契約の合意を得られなかった。

 現地の報道によれば、大谷の希望額が330万ドル(約3億4200万円)だったのに対し、エンゼルスの希望額は250万ドル(約2億6000万円)で、両者の間には80万ドルの開きがあるという。二刀流の成績を打者基準で測るか、投手基準で測るか、過去に例のない交渉が難航したことが伺える。

 期限日以降も交渉を続けることは可能だが、それでも契約がまとまらない場合は2月に行なわれる年俸調停委員会の聴聞会で裁定される。エンゼルスは伝統的に聴聞会で決着をつけることを選択する球団なため、大谷の契約もそこで決まるだろうと米メディアは予想している。

 地元紙でエンゼルスの番記者を務めるジェフ・フレッチャー記者は、「大谷の交渉が聴聞会に持ち越されるとは驚きました」と言い、「聴聞会までいくのは毎年150人中10〜15人程度。大谷がそのうちのひとりになるとは......」と、予想外の出来事だったことを明かした。

 1月15日以降、米メディアは大谷の特集記事を組んだ。

 スポーツメディアの『ジ・アスレチック』は、大谷の年俸査定を詳しく取り上げた。エンゼルスの提示額は昨季の年俸70万ドル(約7240万円)を基準にした額だという。二刀流での貢献度が期待されていたが、昨季の成績(打者:44試合出場して打率.190、7本塁打。投手:2試合に先発して0勝1敗、防御率37.80)は2018年に新人王を獲得した選手に相応しくないことや、投手として全休したトミー・ジョン手術明けの2019年を差し引いても、3年で53回1/3の登板結果は期待外れだったため、この金額になったのではないかと分析している。

 さらに同記事では、年俸予測のエキスパート、マット・スワーツ氏が過去の成績を基に大谷の適正年俸を独自に算出。それによると適正年俸は210万〜300万ドル(約2億1700万〜約3億1000万円)。エンゼルスの提示額はこの予想のほぼ中間だ。

 エンゼルスの主張に同意する米メディアは少なくない。昨季の成績の低迷やこれまでの負傷歴を考えると、二刀流継続には米メディアからも疑問の声が上がっている。

 一方、大谷の代理人CAA(クリエーティブ・アーティスツ・エージェンシー)による「二刀流で、他のDH選手とは本質的に違う価値を球団に提供できる」という主張に賛同するファンも多い。「決して高額を希望しているわけではない」、「長期的に必要な存在」、「彼の希望に合わせるべきだ」という声もあり、現地でも意見は割れている。

 もし、聴聞会で双方の議論がヒートアップすれば、球団と大谷との間に溝ができる、という懸念の声も上がっている。だが、フレッチャー記者は「聴聞会でこじれ、大谷がエンゼルスを去るといったことはないです」と、キッパリ否定。同記者によれば、「エンゼルスは過去に、聴聞会まで持ち越された投手と後に複数年の契約延長を結んでいる」と言い、「あくまでMLBシステムの一環にすぎないのは双方とも理解しています」と説明。また、「年俸は290万ドル(約3億円)前後で落ちつくのでは」と見解を述べた。

 今季の年俸は2月の年俸調停委員会で決まるだろうが、大谷の年俸調停権はFA権取得まで続くため、毎年のように議論を巻き起こす可能性もある。その前に長期契約が結べれば今回だけで済むのだが、大谷がエンゼルスと長期契約を結べるかはまた別の話だ。

 フレッチャー記者も「彼が再びハイレベルなプレーをみせてすばらしい成績を残さない限り、球団は複数年契約を提示しないでしょう」と指摘。「もちろん、今季の成績がよければ、球団も複数年契約を検討することもありえる」とフォローを入れるが、その時、大谷が二刀流の選手のままでいられるかはわからない。

「大谷にとって今季は、二刀流としては最後のチャンスになるのではないでしょうか。うまくいかなかった場合、球団は大谷を野手に転向させ、打者一本に専念させると思います」という同記者の証言から、大谷が厳しい立場に置かれている様子が伺える。2021年は大谷の挑戦の答えが出る年になるかもしれない。