クアラルンプール市内の大型ショッピングモール内にあるユビソオの店舗(写真:筆者提供)

MINISO(メイソウ)、ユビソオ、ヨヨソウ、XIMISO――。ユニクロと無印良品、ダイソーを足して3で割ったような雑貨店がアジアを中心に世界的に急増している。中には、日本発をうたい、日本ブランドを前面に押し出している企業もあり、日本人としては落ち着かない。

激化する競争の中で“パクリのパクリ”も登場。マレーシアでは、中国の雑貨チェーン「名創優品」(メイソウ)を模倣したとみられる「ユビソオ」が急拡大している。同社は中東のバーレーンにも進出、近くアラブ首長国連邦(UAE)の金満都市ドバイにも店舗をオープンさせるという。その実態に迫った。

ユニクロに無印良品、ダイソーを模倣?

真っ赤な背景に白字でユビソオと書かれた看板は、ユニクロの店舗と勘違いしかねない。店内は、整然と商品が陳列された無印良品のような印象。商品は、ユニクロのような衣服のほか、無印良品やダイソーを模倣したとみられる雑貨の数々。低価格路線を踏襲するものの、数百円程度の商品も多くて「100均」よりは高い。ある程度の品質でそれなりの価格という点が消費者に受けているようだ。


文房具の陳列もどことなく無印を感じさせる(写真:筆者提供)

ユビソオの公式ホームページで紹介されている新店舗オープンのプロモーション動画は、日本風の演出だ。着物姿で白粉を顔に塗った舞妓さん風の女性たちが経営陣とみられる男性らとポーズを取り、日本の太鼓芸能集団「鼓動」を彷彿とさせるグループが日本的な雰囲気を作り出す一方、獅子舞が乱舞する中華的な要素も加えられている。

公式ホームページも日本語をメインに使い、日本的なイメージを演出している。ところが、その日本語が怪しく突っ込みどころが満載だ。

「ュビンオいっも私の親友」「私達は雇っていま」といった具合。前者はカタカナの小文字と大文字や、ソとンを誤った表記らしく、「ユビソオはいつも私の親友」と言いたいようだ。後者は単純な字抜け。「商品のパッケージに記載されている日本語もかなり怪しいが、徐々に改善されている」と、クアラルンプール在住者は話す。


ユビソオのホームページ

同社のウェブサイトでは当初、ドメインに「jp」を使用したり、創業者として「佐藤久」という謎の日本人の写真を掲載したりして、日本発の企業として消費者に売り込んでいた。今でもネット上には、「ユビソオ・ジャパン」や「東京拠点のユビソオ」といった表現が残っている。ただ、最近では、ホームページや宣伝で日本を示すような表現を外すなどの対策を取っているようだ。

「2013年に短期滞在目的のビザ免除措置が取られ、マレーシア人の訪日旅行客は増えており、日本のイメージは極めて高い。日本語、とくにひらがなが商品に記載されているとイメージがよくなり、購買行動につながる可能性がある」と、マレーシアのビジネス事情に詳しいジェトロ・クアラルンプール事務所の担当者は話す。

ユビソオに電話してみた!

ユビソオとはどんな企業なのか。公式ホームページには、本社所在地や経営陣についての情報は記載されていない。「事務所兼倉庫」とされる電話番号に何度かかけたところ、通じないことがほとんどだったが、あるとき、従業員とみられる女性が応答した。

ユビソオは日本の企業なのかと質問したところ、「デザインは日本で行い、生産は中国で行っている」と回答した。経営者はマレーシア人なのかとの問いには、「ここは倉庫なので詳細はわからない。詳しいことは電子メールで照会してください」とのこと。メールで同社の日本との関係や経営者について問い合わせたが、回答はなかった。

ユビソオで購入した商品のパッケージに記載されている東京港区六本木の住所を調べると、司法書士・行政書士事務所であることが判明。電話したところ、応対した職員は「以前にも(ユビソオの関連で)電話が掛かってきたため、(ユビソオ側に)変えるよう依頼したのだが。最近のことですか」と困惑していた。

クアラルンプール在住の消息筋は「経営者は中華系マレーシア人のようだが、具体的な氏名は確認できていない。ユビソオとは別名で企業の登記がされている可能性もある。彼ら自身がコピー企業ということを十分認識しているので、正面から実態を把握するのは難しいだろう」と解説する。

マレーシアで少なくとも61店舗を展開

現地では、世界的に急成長するメイソウを模倣した「パクリのパクリ」であるユビソオが先駆けてマレーシア国内に広がったものとみられている。2015年ごろに1号店を開店させ、マレーシア国内で少なくとも61店舗を展開しており、海外進出にも意欲的だ。


商品の裏面には東京・六本木の本社所在地が記載されている(写真:筆者提供)

ユビソオはマレーシアの大手不動産会社の複合施設にテナントとして入居しているほか、巨大流通企業のイオンの子会社イオンマレーシアの商業施設にも入っている。中にはダイソーが入っている商業施設に入居しているケースもある。ユビソオと契約関係にあるイオンにユビソオの経営実態について問い合わせたが、「顧客の個別の情報については答えられない」としている。

現地在住の日本人がユビソオをユニクロやダイソー、無印良品と誤認することはないとみられるが、ある在住者は「ユニクロのロゴとあまりにも似ているのでびっくりした」と話す。

ただ、前出のジェトロの担当者は「ユビソオは衣類の専門店ではないので消費者がユニクロと勘違いすることはないだろう。利用者も明らかに違う店として認識しているのではないか」と指摘する。あるマレーシア人は「大半の人はユビソオが日本をイメージしたコピーブランドということを知っているようだ」と話す。


「レゴ」に酷似したブロック玩具も売られていた(写真:筆者提供)

だとすれば、目くじらをたてるような問題ではないのだろうか。

前出のクアラルンプール在住の消息筋は語る。「ユビソオは、当初はダイソーを模倣した品ぞろえとなっていたようだ。ダイソーのマレーシア法人は、ユビソオの模倣を問題視していて、裁判を起こすときのための証拠集めとして、こまめにユビソオ各店舗の品ぞろえをチェックしていたという話もある。ただ、ユビソオ側でも対策を取っていて、最近はダイソーに置いてある商品をあえて外すなど、独自のラインナップを作ろうとしているようだ」。

ダイソーを運営する大創産業本社の法務担当者は「ユビソオは、無印良品とユニクロ、ダイソーを足して3で割ったような、3つを融合したようなコンセプトであって、直ちに商標権を侵害しているとは言えない。ダイソーという商品名を使っているわけでもない。売り場が似たような形態になっているものの、日本人から見れば、ダイソーとは違うことがわかる」と話す。

ただ、「ダイソーを知らないマレーシア人が誤認したり、誤解を招いたりする恐れがある。もし商品に問題があった場合、われわれの商品のブランド価値が低下する懸念がある」と述べ、ユビソオの動向を注視していることを明らかにした。

「グレーゾーン」で勝負しており訴訟は困難

そのうえで、「シンプルさや品ぞろえの豊富さといったユニクロや無印良品、ダイソーの3社のいいところを取った、こうした形態の店舗が今後も増殖していく可能性がある。ユビソオはうまく隙間を突いており、グレー、微妙なところで勝負している。われわれ日本企業としては、(問題があった場合)消費者に申し訳ない。ただ、われわれが製品を作っているわけではないので、それについて、どうこう言いにくい」と対応の難しさを訴える。

この担当者は、ユニクロと無印良品、ダイソーの3社連合で裁判をするのがベストだと言いつつも、今のところは訴訟に向けた具体的な動きはないと語った。
 
一方、無印良品を運営する良品計画は「ユビソオについてはコメントさせていただくことはとくにない」としながらも、「商標権侵害やコピー商品など知的財産権への侵害が認められる場合、国内外の法律事務所などと連携しながら厳しく対応する」としている。ユニクロを運営するファーストリテイリングも「とくにコメントすることはない」と回答した。

ダイソーの法務担当者が言うように、こうした企業はグレーゾーンで勝負しており、訴訟に持ち込むことは容易でない。ユビソオは、日本的なイメージを前面に押し出しているものの、中国製なのに日本製と虚偽の記載を行っているわけではない。商標権や知的財産権に詳しい弁護士は「明確な商標権の侵害などがない限り、(ダイソーなどを)模倣した経営形態の企業を訴えるのは難しい」と指摘する。

韓国のイメージを前面に出した雑貨小売りチェーン「MUMUSO(ムムソウ)」は昨年、ベトナムで消費者に韓国製と誤解される不正確で誤った商品情報を提供する違法行為を働いたとして、ベトナム産業貿易省から罰金を科された。

同省がムムソウの扱う2732点の商品を調べたところ、99.3%が中国製だったことが判明。ムムソウは、韓国製と消費者が誤認するような広告などを出していたという。ただ、このケースも韓国の企業イメージや文化をコピーしたことを問われたものではない。「文化の剽窃」への対応の難しさを改めて示した形だ。

日本の自動車産業のようにいいものをまねることは創造の一つと言えなくもない。日本のラーメンの世界にも、「インスパイア系」というジャンルがある。例えば、その量や盛り付けで固定ファンが少なくない「ラーメン二郎」に影響を受け、それを模倣したり、一部の要素を取り入れたりした「二郎インスパイア系」と呼ばれる店がある。日本はフランスパンやカレー、パスタを取り入れ、すし文化は世界に広まった。

トルコでも「アジア系ブランド」が台頭

だが、粗悪な商品で日本のイメージを傷つけられてはたまらない。日本ブランドを積極的に発信している内閣府知的財産戦略推進事務局のクールジャパンの担当者は「模倣品対策として関係省庁と連携して個別に対応していく。食品や商品などがパクられて事故が起きた場合、日本のブランド価値が毀損することにもなるので問題だ」と説明する。

世界でこうした形態の店舗は増えており、筆者もアジア各国の旅行先や中東のエジプトなどで目にしている。香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト電子版によると、業界大手のメイソウは、2017年時点で60カ国以上に2600を超す店舗を展開している。インドや東欧などの新興市場を重視し、2020年までに1万店、1000億元(約1兆5790億円)の売上高の達成を目指す。

ジェトロのイスタンブール事務所によると、トルコでもアジア系ブランドの生活雑貨店が急速に拡大している。メイソウやムムソウ、中国系のヨヨソウ(YOYOSO)などが高級ショッピングモールに店舗を構えており、オンラインショッピングやSNSでの情報発信も重視する。トルコメーカーにはないデザインのアイテムが手の届きやすい価格で販売されて消費者の反応も上々という。

少子高齢化で市場が縮小する日本とは異なり、中国やアジア諸国は活気とエネルギーに満ちている。

いいものはまねて、迅速な意思決定の下で取りあえず実行に移す、というアジア的なエネルギーが急成長の原動力だろう。コンプライアンス(法令遵守)をあまり考慮しなくてもいいという点もあるはずだ。ユビソオの急拡大は、日本のブランド価値を改めて示す一方で、意思決定の遅さなどの問題点も浮き彫りにしているといえるだろう。