「音楽をつくる」は「曲を売る」ではない:will.i.amが考える新しい音楽のあり方とは?

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ウィル・アイ・アム|will.i.am

1975年生まれ、ラッパー、DJ、プロデューサー、起業家、フィラントロピスト。The Black Eyed Peasのリーダーとしてこの10年のポップシーンを牽引。2011年にはインテルのDirector of Creative Innovationに就任、i.am.angel Foundationを立ち上げテックスタートアップへの出資なども行うほか、自動車会社「IAMAUTO」や「iam+」というiPhoneアクセサリーなどの開発も行う。音楽活動における最新作は『#willpower』。最高にポップでダンサブルなウィル流のエレクトロダンスが満載されている。

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音楽の世界にはいまふたつの世界があるんだ。ひとつは昔ながらの音楽産業。もうひとつは新しい時代の音楽世界だ。20世紀の古い世界では、音楽は「売るためのもの」とされてきた。そこではハードウェアがコンテンツメーカーを支配してきた。テレビ、オーディオだけでなく、建物も大きなハードウェアとみなすなら劇場のような場所もそうだ。お客さんをそこにもたらすのはコンテンツメーカーなんだけれども、結局いちばん儲けてきたのはハードウェアメーカーだった。



ところが、PCが普及してNapsterなどがもたらした世界は、そうした構造を根底から変えてしまった。同じように見えるかもしれないけれど、まったく違う。音楽を聴きたい人は、そのためのハードウェアを買わずとも音楽が楽しめるようになった。そのことで、コンテンツメーカーはある意味、それまでの産業構造から自由になることができた。どういうことかというと音楽は「曲を売る」という縛りから解放されたということなんだと思う。



SpotifyPandoraといったサーヴィスは、「曲を売る」という意味では、古い世界のなかにいまだいる。ぼくがいま目にしている新しい世界は、例えばEDMの世界で起こっていることだ。例えばTïestoというDJの曲をSpotifyやPandoraで探そうとしても見つけることはできない。彼らの音楽を聴きたいと思ったらライヴショーに行くしかない。彼のような人気DJは、ライヴだけで膨大な収入を得ていて、もはや「曲を売る」ことで生計を立てているわけじゃないんだ。



レコード会社は、「曲を売る」以外のことを考えるべきなんだと思う。イギリスに「Voice」という音楽コンテスト番組があって、ぼくはそこで審査員をしているのだけれど、この番組を生み出したふたりのデンマーク人が賢いのは、このプログラムを世界中にライセンスすることで収益を上げているという点だ。こうした発想が本来ならレコード会社から出てきたってよかったはずなんだ。



人は人のそばにいたがるものなんだと思う。物理的にでもいいし、オンライン上でもいいけれど、みんなが集まれるような場所やプラットフォームをつくること自体を、音楽企業はビジネスにしていくべきなんだ。ただ単に音源を売ることじゃなくてね。そしてそういう場所をつくることで新しい才能もどんどん集まってくるようになるんだ。ぼくは「才能が才能を見つける」っていうことをよく言うんだ。LMFAOやデイヴィッド・ゲッタと出会って彼らの音楽を、The Black Eyed Peasのファンに紹介できたことはぼくにとって誇らしいことだった。そうした出会いがまた新しい出会いを運んでくれる。そしてそこからまったく新しい価値観が生まれでてくる。



ぼくはいまプログラミングを学んでいるんだけれども、それを学ぶことで、できることの可能性が無限に広がることを感じている。デジタルテクノロジーによって新しい楽器をつくることができるかもしれないし、新しいサウンドシステムをつくることもできるかもしれない。これまでのオーディオの可聴域の外側でいろんな実験ができるかもしれない。音楽家とプログラマーが組むことで、まったく新しい音楽のあり方を構想することができるんだ。



さらに言うと未来の音楽は、必ずしもエンターテインメントとは限らないとぼくは思っている。音楽は人間にとってこれだけ根源的なものであるにもかかわらず、音楽がぼくらの脳や身体、神経、あるいは物理的な環境に、どんな作用をもたらしているのかはほとんど謎だ。現代の最新科学は、そうした音楽の謎を解明してくれるものになるに違いないと思っている。そのとき音楽は、例えば医療といった分野でまったく新しい役割をもつことになるかもしれない。



いまのぼくらは、音楽の海のほんの浅瀬でちゃぷちゃぷ遊んでいるにすぎない。いまぼくが興味をもっているのは音楽の海のもっと深い部分だ。最新の科学とテクノロジーは20世紀にあったあらゆるものをいま根底から覆していっている。電話やテレビが変わっていくように、鏡やポケットなんてものですら、数十年後、いったいどんなものであるか予測もつかない。音楽がいままでのように歌って踊るためのものだなんて思ってたら大間違いだね。






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年4回発行の雑誌『WIRED』通算8号目。特集は「これからの音楽」と題し、コンテンツビジネスの新時代を探る。そのほか、オバマの元参謀が語る「未来の政府」のかたちや、フードシステムを変革する新世代農業ヴェンチャー、ロンドンが世界一のスタートアップ都市に変貌した理由など、読み応えのある記事が盛りだくさん。






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