「くも膜下出血」後の致死率は下がる?命を守る“2つの予防策”【医師監修】
脳血管攣縮は、症状が出る前に血流の変化として捉えられる場合があります。CT血管造影やCT灌流画像、経頭蓋超音波ドプラ法など、現在の臨床現場ではさまざまな検査が活用されています。この記事では、それぞれの検査が持つ特徴や精度、どのような場面で用いられるのかについて、専門的な内容をできるだけ平易な言葉でご説明します。
監修医師:
伊藤 たえ(医師)
浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。
脳血管攣縮の致死率を下げるために--予防と管理の実際
脳血管攣縮に対しては、確立された治療法が限られているのが現状です。そのため、発生を防ぐ「予防」が治療の中心となります。このセクションでは、現在の臨床現場で行われている主な予防・管理方法を解説します。
循環管理とくも膜下腔の血腫除去
くも膜下出血後の患者さんでは、中枢性塩類喪失症候群(CSWS)や抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)によって低ナトリウム血症や循環血液量の低下が起こりやすく、これらはDCIのリスク因子となります。以前は、高血圧・高循環血液量・血液希釈を組み合わせた「トリプルH療法」が広く行われていましたが、その有効性を示すことができず、過剰輸液による心不全や肺水腫のリスクも問題となりました。
現在では、正常範囲内の循環血液量を維持する「euvolemia(正常血液量)」を目標とした輸液管理が推奨されています。日本脳卒中学会のガイドラインでも、SAH後の輸液管理はnormovolemia(正常血液量の維持)を目指し、脳血管攣縮が認められた場合には積極的な高血圧療法を導入することが勧められています。
DCI(遅発性脳虚血)を起こした後は、体液過剰の所見がなければまず輸液負荷を行い、神経症状が改善するかどうかを評価します。その後、処置していない動脈瘤などの懸念がなければ、目標血圧を高めに設定し、血管収縮薬(昇圧剤)を投与します。こうした管理によってDCIの約70%で神経症状が改善するという報告もあります。ただし、高血圧管理の有効性はRCTで確認されておらず、神経症状の改善が見られない場合には害が利益を上回る可能性もあるため、個々の症例に応じた判断が求められます。
くも膜下腔の血腫除去も、脳血管攣縮予防の観点から重要なアプローチのひとつです。急性期手術の際に血腫を可能な限り除去すること、術後に脳槽ドレナージや腰椎ドレナージを行って血液成分を排出すること、さらには血栓溶解薬の髄腔内投与によって残存血腫を積極的に溶解させることなどが試みられてきました。
血栓溶解薬の髄腔内投与を検討したRCT5件のメタ解析では、脳血管攣縮やDCI、神経学的予後の改善が報告されています。ただし、ニモジピン(後述)の髄腔内投与を併用したRCTを除くと統計的有意差がなく、現時点では確立された治療とはいい難い状況です。腰椎ドレナージに関しては、DCIを減少させたものの6ヶ月後の神経学的予後に有意差はなかったというRCTも報告されており、引き続き研究が続いています。
血管内治療(バルーン血管形成術)の役割
薬物療法で効果が得られない症候性脳血管攣縮に対しては、血管内治療が選択肢となります。バルーンカテーテルを使って狭くなった血管を機械的に拡張する経皮的血管形成術(PTCBA)は、1984年に初めて報告されて以来、改良が重ねられてきました。
観察研究では、90%以上の症例で治療効果が認められるという報告もありますが、血管穿孔などの重篤な合併症リスクも伴います。予防的なバルーン血管形成術については、DCI発生や神経学的予後に差がなく、血管穿孔による死亡例も報告されているため、現在は予防目的での実施は推奨されていません。DCIの治療介入としての使用については、内科的治療が奏功しない場合や合併症リスクが高い場合に検討されるものであり、DCI発症後のできるだけ早い段階での実施が効果的とされています。
動脈内への血管拡張薬投与も血管内治療の一形態で、海外ではベラパミルやニカルジピン、ニモジピンが用いられ、日本ではファスジルも使用されています。
まとめ
くも膜下出血後の脳血管攣縮は、発症から数日後に現れ、脳虚血や脳梗塞につながり得る深刻な合併症です。症状は意識レベルの低下から局所的な麻痺・失語などへと進み、見逃されると取り返しのつかない後遺症を残すことがあります。現在の日本では、塩酸ファスジルやクラゾセンタン(ピヴラッツ)などの薬剤を含む予防・治療体制が整いつつあり、適切な管理によって予後改善が期待できます。
くも膜下出血後のご本人やご家族は、攣縮期(4~14日目)に神経症状の変化が現れた場合には速やかに医療スタッフに相談し、多職種チームによる専門的な管理を受けることが大切です。
参考文献
日本脳卒中学会「脳卒中治療ガイドライン 2021 [改訂2025]」
厚生労働省「第3回 脳卒中ってなぁに? 」
厚生労働省「脳卒中に関する留意事項」
日本脳神経外科学会「暗ぞ先端承認によるくも膜下出血の予後の変化」

