米政権が「過激な左派企業」と批判…「アンソロピック」使用禁止事件で見えたアメリカの不都合な真実
驚異的なサイバー能力で世界各国の政府や金融業界を震撼させた「ミュトス」など、先端AIの開発で今やOpenAIやグーグルをも凌ぎ、世界のAI開発をリードする米アンソロピック。
その共同創業者・CEOのダリオ・アモデイ氏は今年2月末の対イラン戦争開戦に先立って、アメリカ国防総省から提示された自社製AIの軍事利用に関する条件を「良心に照らして同意できない」と拒否した。
このように米国政府、つまりトランプ大統領に「ノー」を突き付けた唯一のAI企業経営者であるアモデイ氏とは、一体どんな人物なのだろうか?その生い立ちに遡って、彼の人生を見てみよう(以下、人物の敬称略)。
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OpenAIの商業化に反対して退社
こうして順調に機能してきたOpenAIの研究開発体制は、2019年以降にOpenAIが商業化へと舵を切ったことで大きく揺さぶられた。OpenAIのアルトマンCEOとアモデイが犬猿の仲になったのもこの頃だ。
「アルトマンがAI開発の安全性を軽視し、OpenAIの商業化へと暴走している」と感じたアモデイは、2020年に(前掲の)ジャレッド・カプランら親しい従業員(研究者)を十数名引き連れてOpenAIを退社し、2021年1月にアンソロピックを(自身の妹ダニエラらと共に)共同創業する。
それから2年と経たない2022年11月、OpenAIがChatGPTをリリースして世界的な大ブームを巻き起こした当時、アンソロピックの影は薄かった。その理由は、当時の彼らが派手な一般ユーザー向けのAI開発を敢えて自制し、むしろ地味なプログラミングなどプロフェッショナル向けのAI開発に人員・資金を傾注していたからではないか、と見られている。
しかし、そこからわずか数年でアンソロピックはプログラマーなど技術者の圧倒的な支持を背景に「ビジネス向けAI」市場で急成長し、2026年現在ではOpenAIの企業価値を上回るほどの、名実ともにAI開発の世界的リーダーへと上り詰めた。
ペンタゴン利用規約違反に猛抗議
このアンソロピック(とアモデイCEO)がある意味、アメリカで世間的な脚光を浴びたのは、同社とペンタゴン(米国防総省)との間に生じた不和が切っ掛けだった。
今年1月、米軍が突如敢行したベネズエラ侵攻作戦において、国防総省の主要ベンダー「パランティア」製のAIと共に、アンソロピック製のAI「クロード」も実戦投入された。しかし、これがペンタゴンとアンソロピックの間で当初交わされていた利用規約から完全に逸脱する形で使われていたことが、米ウォールストリート・ジャーナルの報道によって明らかにされた。
この侵攻作戦では、首都カラカスへの米軍空爆により83名の死者(ベネズエラ政府発表)が出たが、その際にクロードは恐らく空爆目標の選定などにも利用されており、これがアンソロピックが予め提示していた「暴力的な目的へのクロード使用禁止」という利用規約に違反していた、というのだ。
この報道を受けアンソロピック、つまりアモデイCEOは「こういう暴力的な使い方はこれからはしないでくれ」とペンタゴンに抗議した。ところが、これに腹を立てたピート・ヘグセス国防長官が翌2月、アモデイを国防総省に呼び出して次のように告げた。
「これから我々(米軍)がどんな合法行為(たとえば空爆目標の選定、国民の大量監視、攻撃ドローンへの搭載など)にクロードを使っても、アンソロピックは一切口出しするな!」
そして「これに合意しなければ、以後アンソロピックはペンタゴン(とその取引先企業)との間のビジネス契約を一切受注できなくする」という最後通牒を突き付けて脅しをかけた。
クロードなしでは戦争を遂行できない
しかしアンソロピック(アモデイ)はこうした米国政府からの脅しに屈することなく、逆に2つの連邦訴訟を提起するなど法廷闘争に出た。
それら訴訟の中で「国防総省によるアンソロピック排除措置は法的根拠の無い前代未聞の報復行為である」と訴え、ヘグセス長官らアメリカ政府と真っ向勝負する姿勢を見せた。これこそ「気骨ある経営者」の態度であるとして、アメリカ国民の関心を集めたのだ。
その直後となる今年2月末、トランプ大統領は自身のSNSでアンソロピックを「過激な左派企業」と呼ぶなど激しく非難し、ペンタゴンのみならず全政府機関に対して「アンソロピックの使用禁止」を命じた。
ところが、その僅か数時間後に開戦したアメリカ・イスラエル連合軍による対イラン戦争において、アンソロピックのクロードは(パランティア製のAIと連携して)首都テヘランなどにおける大規模な空爆作戦に実戦投入されたのである。
ヘグセス長官は「自分の言う通りにしなければ、国防総省は今後アンソロピックと契約しない」と言っておきながら、いざとなるとクロード無しでは戦争を十分に遂行できないことを知っていたからだ。
実際、クロードは衛星画像や通信傍受などの機密データから、開戦当初の24時間で約1000ヵ所に及ぶイラン国内の攻撃目標を自動選定し、その空爆シミュレーションを行うという中枢ミッションを担った。
ミナーブ誤爆事件にも使われた可能性
あの「120名の男女小学生を含む156名の犠牲者」を出した(米軍による)「ミナーブの小学校」誤爆事件でも、実は「クロードが関与していた」とする風説が聞かれる。これについては確たる証拠はないが、その可能性は十分あるとされる。
この件に関してアモデイは米ブルームバーグの報道番組に出演した際、「本当に恐ろしいことが起きてしまった」と認めつつも、「(クロードなどの)AIモデルが戦争の現場で具体的にどう使われたかについて、我々(アンソロピック)はアクセス権を持っていないし、正確には把握していない」と述べるなど、まるで他人事のような姿勢に終始した。
そもそも彼が本気で自社製AI(クロード)が戦争に悪用されることを避けたいなら、最初からペンタゴンと契約しなければいい。たとえ予め契約条項でAIの暴力的使用を禁止していたとしても、いざ実戦となれば、そうした綺麗ごとの約束が破られるのは最初から十分予想できたはずだ。
これら全てを考え合わせると、ダリオ・アモデイは純粋な理想主義者というより、むしろ理想とビジネスの狭間で清濁併せ持つ現実的な人物と見るべきだろう。
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