《老舗ソープランド店を摘発に追い込んだ元キャストが作成》店を警察に通報するための「密告マニュアル」が拡散 経営者は「恐ろしい時代になった」、同業女性からは反発の声も
東京・吉原の老舗ソープランドの摘発劇が全国各地の同業店に激震をもたらしている。背景にあるのは、元ソープ嬢が作成したという「密告マニュアル」の拡散。ソープ業界で何が起きているのか。ライターの河合桃子氏が追った。
【写真】掲示板に書かれた「密告方法」 アドバイスしていたのは老舗ソープランド『ルーブル』に勤めていた女性キャスト
ネット上の掲示板で「店を閉店に追い込む方法」を共有
性風俗産業で密かに保たれていた秩序が乱れつつある。吉原で20年以上ソープランドを経営する店の従業員は言う。
「店に不満を持っている女性キャストがネット上の掲示板で『店を閉店に追い込む方法を教えて』などと情報共有しあう不穏な動きがあるのです。警察に通報する際の詳細な流れがまとめられており、内部告発が相次ぐのではないかと警戒しています」
この動きの中心にいるのが、吉原のソープランドに勤めていたひとりの女性キャストだ。しまさん(SNS上のハンドルネーム)と名乗る彼女を私が取材したのは、7月初旬のことだった。
しまさんが勤めていたのは吉原で最高級の老舗ソープランド『ルーブル』。6月24日に同店が売春防止法違反の容疑で摘発されると、彼女は〈売春場所の提供で刑事告発したのはこの私だ!〉とSNSに投稿。なぜ告発したのか。私はしまさん本人に取材し、その経緯を本誌『週刊ポスト』(7月6日発売号)にレポートした。
しまさんは前回の取材で、「店の人から受け入れがたい言動があったことや、本意ではない形で店を去ることになった憤りで告発に踏み切った」と告白。警視庁の生活安全部への通報から、お店でのサービス内容についての証言、取り調べや供述調書の作成経緯まで克明に明かした。
あれから2週間あまり。『ルーブル』の摘発劇は思わぬ展開を見せていた。しまさんが自身の経験をもとに警察への「密告マニュアル」を作成し、インターネット上で公開。これがソープ嬢たちの間で拡散していたのだ。
「現役ソープ嬢が集う掲示板サイトで『店を閉鎖に追い込む方法を教えて』と書き込みがあったのです。同じような悩みを抱えている人の力になりたくて、自分の経験に基づき以下の3箇条を作成し、公開しました」
【1】客観的な証拠の収集
ボーイや店長からの本番内容の説明を録音。入退店記録や領収書など反復継続的に売春場所の提供を行なっていることを裏付ける証拠集め
【2】事実関係の整理
収集した証拠に基づき、時系列で「いつ・どこで・誰が・何を・どのように行なったか」をまとめた書面の作成。私怨や個人的なトラブルは排除し、「法律違反の事実」を客観的かつ論理的に記載
【3】警察署の「生活安全課」への申告
対象店舗の管轄警察署に直接出向き情報提供を行なう。犯罪事実を申告し、処罰を求める「告発状」の作成
しまさんは個人のSNSアカウントに寄せられた相談にも直接アドバイスをしていると明かす。
「例えば、私のX(旧ツイッター)のメッセージに吉原の某高級老舗ソープで働いていた元従業員の女性から『店の経営者に"趣味講習(経営者側が私欲による性的な接客の指導を行なうこと)"を要求された。その際に違法薬物の使用も勧められたので、なんとか閉店に追い込みたい』という相談が来ました。その方には掲示板に書き込んだ以上に詳細なアドバイスをしました」
性風俗業界に詳しいグラディアトル法律事務所の若林翔弁護士が語る。
「そもそもソープランドは『浴場の個室で異性の客に接触する役務を提供する営業』と定義されています。警察が摘発しようと思えばいつでもできる。密告マニュアルに準じた証拠集めや通報がなされた場合、お店が摘発を逃れることは困難でしょう」
関係者はどう捉えたか
しまさんの作成した密告マニュアルを業界関係者はどう受け止めているのだろうか。同じ吉原のソープランド経営者に聞いた。
「恐ろしい時代になったと感じます。最近は兵庫や宮城、新潟、和歌山で摘発が相次いでおり、"お上"の動きは常に意識してきました。しかし密告マニュアルの登場で、これからは外ではなく店内部を警戒しなくてはならなくなった。フェーズが変わったと感じます。もし告発が続けば業界の在り方が根底から変わってしまう」
別のソープランド経営者もこう漏らす。
「最近、ボーイなど女性キャストと接する機会の多い従業員には、録音されている可能性を考えて、『キャストへの言葉遣いには今まで以上に十分に気をつけろ』と伝えています。何か不満を持たれて警察に通報されたらたまったもんじゃない。稼げないことを店側の問題にして不満を抱くキャストも少なくないが、通報リスクを考えると、そんなキャストにも穏便に対応せざるをえない」
こうした声があることをしまさんに伝えると、「風俗店は女性ありきで成り立つ商売にもかかわらず、ぞんざいに扱う店舗が多すぎる。なかでも『特殊浴場』と称し、実質的には売春の違法営業を行なうソープランドという業態は全店潰れるべきだと思っています。私自身、かつて違法行為でお金を稼いだことを恥じています」と断言した。
だが、彼女への厳しい声は他ならぬソープ嬢からも聞こえてくる。神奈川県川崎市のソープランド店で働く女性キャストが言う。
「私は5年間風俗業界で働き稼がせてもらっており、いまの仕事場には満足しています。他のキャストも複雑な事情を抱えながら働いている人が多い。ソープランドで懸命に生きている人もいるのです。そうした背景を鑑みずに、『すべて潰れていい』というしまさんの姿勢や行動には疑問しかありません」
両者の言い分はどこまでいっても平行線だ。半世紀近く栄えたソープランドの灯火は、このまま消えてしまうのか。
【プロフィール】河合桃子(かわい・ももこ)/1977年、東京都生まれ。ライター。週刊誌を中心に執筆。幅広く取材活動を行なっており、特に性風俗にまつわる事件などアングラな業界を長年取材している。第32回小学館ノンフィクション大賞を受賞した『地面師連絡役カトウ』が6月に小社から刊行。
※週刊ポスト2026年8月7日号

