北倉 紅牙撥鏤碁子

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 奈良国立博物館(奈良市)は14日、「第78回正倉院展」を10月24日(土)から11月9日(月)まで開催すると発表した。聖武天皇の遺愛品として「国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)」にも記される水差し「漆胡瓶(しっこへい)」や、唐からの舶載品「鳥獣花背方鏡(ちょうじゅうかはいのほうきょう)」など、正倉院宝物60件(うち初公開は11件)を公開する。日時指定の前売り券を販売する予定で、詳細は8月下旬に公表される。

奈良国立博物館

「漆胡瓶」は、西アジアに由来する把手(とって)付き水差し「胡瓶」を東アジアの漆工技術によって仕上げた逸品。光明皇后が聖武天皇の遺愛品として東大寺大仏に献納した際の目録「国家珍宝帳」にも記載されている。黒漆地に銀板を切り抜いた草花や鹿、オシドリ、山岳文様が華やかに輝き、当時の東西交流を象徴するロマンに満ちた宝物だ。エックス線調査によって、本体は木の薄板を巻き重ねたか、輪積みした構造であることが判明している。

 象牙を赤く染めて鳥文様を彫り出した碁石「紅牙撥鏤碁子(こうげばちるのきし)」も聖武天皇ゆかりの品だ。直径約1.6センチの碁石に撥鏤(ばちる)という高度な装飾技法で、ヤツガシラとみられる愛らしい鳥を表現。文様の一部に黄色と緑色を差し入れ、可憐で愛らしい姿を際立たせている。本展では、対となる「紺牙撥鏤碁子(こんげばちるのきし)」もあわせて展示する。

北倉 漆胡瓶
北倉 紅牙撥鏤碁子

 異国情緒を感じさせるのは、「白瑠璃瓶(はくるりのへい)」。淡い緑を帯びた透明ガラスの爽やかな水差しで、中近東圏の工房で制作されたと考えられる。高度な造形技術とともに、美しい曲線の胴体や水切れの良さそうな注ぎ口など、優れた機能美も備わる。約1300年を経た今も1点のひびも曇りもなく、極めて良好な保存状態であるのは、正倉院宝物ならではの奇跡といえる。

 白銅鋳造製の方形鏡「鳥獣花背方鏡(ちょうじゅうかはいのほうきょう)」は正倉院に伝わる白銅鏡の中でも白眉とされる。霊獣や鳥、蝶(ちょう)に加え、流麗な曲線の「葡萄唐草文(ぶどうからくさもん)」が表された「海獣葡萄鏡(かいじゅうぶどうきょう)」で、極めてめずらしい方形。蛍光エックス線分析により、唐からの舶載品であることが分かっている。

中倉 白瑠璃瓶
南倉 鳥獣花背方鏡

 さらに、正倉院の神秘を伝える異色の宝物として知られる「虹龍(こうりゅう)」も出品される。長年「龍」と伝えられてきた動物のミイラだが、近年の研究で体の特徴などからニホンテンと判明。1429年、将軍・足利義教が正倉院宝物の香木「蘭奢待(らんじゃたい)」を切り取った際、「竜日干(りゅうのひぼし)を見た」との記録が残っており、龍がいるために、正倉院の扉を開く際には雨が降るとの言い伝えも。宝庫に入った経緯としては、ニホンテンが侵入してそのまま自然乾燥したのか、人為的に持ち込まれたかは不明という。

南倉 虹龍

 正倉院は東大寺大仏殿の北西に建つ奈良時代の校倉造の宝庫で、756年、光明皇后が亡き聖武天皇をしのび、その愛用品を東大寺大仏に納めたことに始まる。宝物は約9000件に及び、内容は工芸品や楽器、武具、染織品、文書など多岐にわたる。現在は宮内庁正倉院事務所が開扉に天皇の許可を要する「勅封(ちょくふう)」制度のもと、厳重に管理。毎年秋に開催される「正倉院展」でその一部が公開されている。

 奈良国立博物館の井上洋一館長は「先行きの見通しが立ちにくい世界情勢の今だからこそ、人類が長い歴史の中で育み、大切に伝えてきた文化の価値を見直すことに大きな意義がある。正倉院宝物は多様な文化交流の証でもあり、異なる文化が出合い、新たな価値を生み出してきた人類の歩みを静かに物語っている。宝物の素晴らしさと美しさだけでなく、背後にある歴史や文化、文化財を未来へ継承することの大切さも感じてもらえたら」と話した。

井上洋一館長(2026年7月14日午後、奈良国立博物館)