日本代表監督は森保氏の続投か、はたまた…(写真:AP/アフロ)


特定のチームや選手への誹謗中傷の激化、不自然な開催国への出場停止猶予…。「分断と対立の時代」を象徴するような出来事が次々と勃発するサッカーのワールドカップ2026北中米大会。日本代表が善戦しつつもベスト32で敗退したのは口惜しいが、ここから先は、国の威信をかけた本気の戦いが堪能できる特別なステージとなる。データサッカーが普及した今でも、モノを言うのが各国の代表監督の采配だ。決勝に向けてどう戦うのか。優勝候補の強豪国の監督はそもそもどんなバックグラウンドを持つのか。日本代表の森保一監督も含め、代表監督を類型化してみた。

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“無敵艦隊”スペインを復活させた「叩き上げ」監督

 まず、“叩き上げ”型の監督だ。近年はアシスタントコーチやアンダー世代の監督からステップアップする監督が増えている。北中米大会では、スペイン代表を指揮するルイス・デ・ラ・フエンテ氏がいい例だろう。

 フエンテ氏は選手時代も指導者になって以降もスペイン一筋。U-19、U-21、U-23などアンダー世代を率いて世代別の欧州選手権を制し、5年前の東京夏季五輪では銀メダルに輝いた。有望な若手を見出し育てる手腕が評価され、2022年12月からトップチームを任されている。

スペイン代表監督のルイス・デ・ラ・フエンテ氏(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)


 24年ユーロ(欧州選手権)の全勝優勝など、公式戦31戦不敗で決戦の地に乗り込んだスペイン代表。下馬評では、フランス代表と並ぶ優勝候補の筆頭だ。

 そうした中で驚いたのは、26人の登録メンバー中、欧州のクラブサッカーナンバーワンをを争うチャンピオンズリーグ(CL)で最多15回の優勝を誇るスペインリーグの名門レアル・マドリードの選手が1人もいないことだ。これは史上初の事態だという。レアル・マドリードでは25-26シーズンに2人の監督が退任するなどチーム内で混乱が生じていた。

 代わりにリーグのもう1つの雄、バルセロナから8人が代表入りした。主力に成長したFW(フォワード)ラミン・ヤマル、MF(ミッドフィルダー)ガビ、DF(ディフェンダー)パウ・クバルシらは、日本代表MF久保建英も在籍したバルセロナの下部組織(ラ・マシア)の出身だ。23年に15歳9カ月でトップチームデビューを果たした神童ヤマルを、フエンテ氏はその年から代表に招集している。ヤマルとニコ・ウィリアムズの両ウイングの成長で、長時間ボールを保持するスペイン伝統のポゼッションサッカーに縦のスピードと前線での決定力が加わり、“無敵艦隊”が復活した。

 スペインでは選手だけでなく代表監督もフエンテ氏のようにアンダー世代の指揮官を経由したキャリアルートで“育成”されており、25-26のCL覇者、フランスリーグPSG(パリ・サンジェルマン)の監督を務めるスペイン生まれの名将ルイス・エンリケ氏もかつてはU-21やU-23を指揮していた。

52歳、イングランド代表監督はさらなるキャリアアップか

 強豪国の代表監督は、クラブで実績を残しているプロ監督がさらに上を目指す際のキャリアチェンジの好機でもある。

 そうした“箔付け”型の監督の一人がイングランド代表監督のトーマス・トゥヘル氏だ。52歳と代表監督の中では中堅で、まさに、代表で実績を残してさらなるキャリアアップを図っていきたいところだろう。

イングランド代表監督のトーマス・トゥヘル氏は52歳(写真:AP/アフロ)


 ドイツ人のトゥヘル氏はドイツリーグのユースで指導者としての経験を積み、マインツやドルトムントのトップチームを率いた。その戦術的手腕が注目されたのは、21年にプレミアリーグのチェルシーで当時の監督フランク・ランパード氏が成績低迷で解任され、後を託された時だ。

 トゥヘル氏は監督に就任するやいなやリーグ戦の順位を急回復しただけでなく、同じシーズンにCLの頂点にも立ち、サポーターを歓喜させた。イングランド代表でも前監督のガレス・サウスゲート氏が24年ユーロの決勝で敗れて引責辞任した際、救世主としてトゥヘル氏に白羽の矢が立った。

 選手に高度な戦術理解力と流動的なポジショニングを求めるトゥヘル氏は、個の能力頼みだったイングランド代表のサッカーにイノベーションをもたらしたかのように見える。中でもドイツリーグの最強得点王、32歳のFWハリー・ケインと、24歳のFWブカヨ・サカ、23歳のMFジュード・ベリンガム、25歳のFWアンソニー・ゴードンらの新旧世代が融合した攻撃陣の破壊力は、北中米大会参加国の中でも一、二を争う。

 サッカーの聖地ながら、1966年以降W杯優勝から遠ざかっているスリーライオンズ(イングランド代表)。果たして、トゥヘル氏は実に60年ぶりの栄冠をもたらすことができるのか。気になるのは、96年に及ぶW杯の歴史の中で一度も破られたことがない「外国人監督の率いるチームは優勝できない」というジンクスだけだ。

“問題児”エムバペを巧みに動かすフランスの英雄

 もう1つの代表監督へのキャリアパスが、母国のスター選手が監督となり、華々しくW杯に“英雄凱旋”するパターンだ。

 北中米大会で得点王を狙うFWキリアン・エムバペを擁し、優勝候補に挙げられるフランス代表を率いるディディエ・デシャン氏がまさにそれだ。フランス代表のキャプテンとして98年フランス大会、00年ユーロを制した後に引退。フランスリーグのモナコ、マルセイユなどを指揮した後、12年にフランス代表監督に就任し、18年ロシア大会では監督としても優勝を果たしている。

 選手時代のデシャン氏は守備的MFとして冷静な戦術眼を持ち、豊富な運動量と不屈の精神でチームのために戦い、リーダーとして仲間を鼓舞する“闘将”だった。そして、監督に就任してからはその“勝負師”たる性質をさらに強めた印象がある。

 タレント揃いのフランス代表でデシャン氏が目指すのは、高度で完成されたサッカーというより、しぶとくゲームの勝ち筋を見つけていく泥臭いサッカーだ。その強烈なリーダーシップがあってこそ、所属のレアル・マドリードではしばしば問題児扱いされるエムバペも、代表では自身の役割を自覚してフォア・ザ・チームで戦っているように見える。

フランス代表を率いるディディエ・デシャン氏(写真:AP/アフロ)


 経歴や闘将のニックネームは、北中米大会の采配で自国民から大バッシングを受けた韓国代表前監督のホン・ミョンボ氏に通じるところがある。デシャン氏もまた、14年の長期政権の中で批判にさらされたことがある。

 レ・ブルー(フランス代表)が24年ユーロのグループステージ2試合を終えて1勝1引き分け1得点と出足でつまずいた時、「代表のサッカーは守備的すぎてつまらない」「素晴らしい選手が大勢いるのに才能が生かされていない」と非難の声が殺到。デシャン氏がメディアに対して「守備的云々を言うのはあなたたちの自由だ。私に言えるのは、あれだけチャンスがあったのに得点できなかったのは悔しいということだ。我々はスタジアムでも人気があり、毎試合1000万人以上のファンがテレビ観戦している。プレーが気に入らないならチャンネルを変えるだろう」とコメントしたことが「デシャンの大暴言」と炎上した。

 しかし、騒がしい外野の声を封じ込め、同ユーロでもベスト4まで進出。25年には勇退を発表し、最後の晴れ舞台となる北中米大会に駒を進めた。

 ジャイアントキリングが続出する今大会で、レ・ブルーはしたたかに勝利を重ねている。デシャン氏は大会中に実母を亡くして葬儀のために一時帰国したり、チュニジア戦で実母への中傷を含めた暴言を受けたりすることもあったが、2大会ぶりの頂点を目指して突き進む。

叩き上げ型でも英雄型でもない森保監督

 こうした代表監督たちと比べると、日本代表の森保一氏のバックグラウンドは少々異質と言えるだろう。

 選手としてJリーグのサンフレッチェ広島時代に92年から96年にかけ国際Aマッチ35試合に出場しているが、失礼ながら、デシャン氏やホン氏のような英雄といった存在ではなかった。サンフレッチェ広島の監督としてJ1を連覇し、U-24日本代表監督に抜擢されたが、この時点で後のA代表監督との兼任も打診されていたというから、“叩き上げ”とも違う。

 森保氏には98年フランス大会や10年南アフリカ大会を率いた岡田武史氏というロールモデルがいたが、東京五輪世代のDF冨安健洋、MF堂安律、MF久保、FW上田綺世らを主軸に育て上げ、アジア最強、FIFAランキング10位台という「歴代最強」の日本代表を作り上げたのは、森保氏独自の手腕によるものだ。

 試合中ノートを手にメモを取るアナログだが緻密な記録術、そして、選手とお互い納得するまでとことん話し合う粘り強いコミュニケーション術。プライドの高いトップ選手が強豪相手に前線から守備を仕掛ける、ある意味過酷な日本代表のプレースタイルは、森保氏とその戦術への揺るぎない信頼があってこそだ。

 ブラジル戦のベンチ裏で森保氏は、選手たちを「こんなやりがいのある試合はないよ!」と鼓舞していた。森保氏らしい、選手目線で寄り添う姿勢が垣間見える。一方で、けがからの回復が遅れたMF遠藤航に北中米大会のメンバー変更可能期限の直前に引導を渡すといった冷徹な指揮官の顔も持つ。

 森保氏は人一倍“愛される監督”でもある。JFA(日本サッカー協会)の幹部から「森保さんは選手たちをリスペクトして、選手たちの意見を取り入れる監督」と聞いたことがある。リスペクトは選手だけでなく相手チームやサポーターにも向けられ、誰に対しても謙虚な姿勢を崩さない。仏教や和の文化を大切にし、君が代斉唱に目を潤ませ、「日本のアイデンティティを世界に示したい」と話す森保氏に、日本人は共感を覚えるのだろう。

森保監督続投か新監督か…

 これから決まる次期代表監督は、森保氏の続投のほか、新監督としてU-21日本代表を率いる大岩剛氏、森保ジャパンで攻撃面のコーチを務める名波浩氏らの名前が挙がっている。北中米大会の解説が好評な元日本代表キャプテンの本田圭佑氏が名乗りを上げたことも話題になった(ただし、本田氏は代表監督に必要なJFA Proライセンスを獲得していない)。

 他に外国人監督として、横浜F・マリノスの監督を務めたアンジェ・ポステコグルー氏、元ドイツ代表監督のヨアヒム・レーヴ氏らの名前が取り沙汰された。ポステコグルー氏は7月4日にサウジアラビア・プロリーグのアル・ナスルの監督就任が発表された。

 複数の主力選手を欠いた状況とはいえ、「最高の景色(優勝)」を目標に掲げながらブラジルの猛攻に屈し、最高位のベスト16に届かなかった日本代表の課題は検証されるべきだろう。しかし、だから外国人監督というのは少々短絡的で、森保ジャパンの8年間を軽視しているようにも思える。

 JFAには8年前のロシア大会直前、成績不振や選手との信頼関係の希薄化を理由に当時の代表監督ヴァイッド・ハリルホジッチ氏を電撃解任した苦い経験もある。時代が逆戻りしないことを祈りたい。

筆者:森田 聡子