【堤 多可弘】「コスパ最強でラクに稼げるから」精神科へ流入する医師が急増中…「直美」よりも根が深い「コンビニクリニック」の危うい実態

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2年間の初期研修を経て、いきなり美容医療へ参入する医師を指す「直美」。メディアでは「直美」ばかりが注目されがちだが、同様にその精神医療の場合を指す「直精」も、実は社会問題化しつつあるという。

前編記事『「直美」だけ叩いている場合ではない…精神医療業界で静かに広がる「直精」が社会をむしばむ深刻な理由』に引き続き、株式会社堤産業医オフィス代表で産業医・精神科医の堤多可弘氏が解説する。

直精が増え続ける構造的問題

さて、ではなぜここまで直精が増えてしまっているのか?

理由としては複合的なものが挙げられるが、一言で言うと「コスパがよく、ごまかしがきくから」と言えてしまう。その構造について解説していく。

まず、直精が増えた背景には、精神科医療のニーズ増加が挙げられる。じつは精神疾患患者数は、若年者を中心に年々増加傾向にある(精神疾患を有する患者数は、2017年の419.3万人から2023年の603万人へと183.7万人増えている〔出典:全国保険医団体連合会/中医協資料〕)。

WHOも医療課題のひとつにメンタルヘルスの問題を挙げている。その背景には、社会構造の複雑化によるメンタルヘルスへの負荷の増加や、メンタルヘルス啓蒙による受診ハードルの低下、病院から地域やクリニックへの移行施策によるアクセスの向上など、さまざまな要因がある。

しかし、ここでは別の視点から指摘をしたい。それが過剰な精神医療化だ。

過剰な精神医療化とはどういうものか?

簡単に説明すると、本来、精神科医療で扱うべきでないものも医療で扱うようになっている、ということである。例えば、患者さんからの訴えで「職場異動をしたいから診断書が欲しい」というものが実在する。「異動が必要」という診断書をもって、人事と掛け合いたいというのだ。

本来、職場の異動などは医療ではなく、経営・人事判断によるものだ。しかし、診断書の力を借りようと、こうした動きは後を絶たない。この背景には、第一次電通事件に連なる精神科・産業医ブームなどのストーリーがあるのだが、ここでは割愛する。

このように、実際にメンタルヘルスのニーズは増えている一方で、行き過ぎてしまった部分もあり、精神科医の食い扶持が広がったことが、直精増加の一因になっている。

さて、ここからが本題である。そもそもの医療構造の問題点にも触れていく。

かつて医師の中の花形と言えば、外科や内科などだった。精神科はどちらかと言えばマイナーな存在で、日陰の存在だった。しかし前述のように、世間の関心が広がるにつれて、精神科医を志す医師も増えてきた。

それはポジティブな要因である。

一方で、もう一つ、医師の給与構造に闇がある。じつは、医師は外科だろうが、内科医だろうが、専門によらず、給与に大差がない。一方、かつて花形とされた外科や内科は基本激務である。また、訴訟も増加傾向だ。つまりコスパが悪い。

対して精神科は、相対的に余裕がある。そして給与は同じ。そうなると、コスパ重視の世代は当然、精神科医に向かいたくなる。さらに先ほどのポジティブ要因が働き、精神科医でもそれなりに注目してもらえるし、給料も同じならこっちの方がいい、と考える医師が増えた。

さらに、これも医療の特殊性であるのだが、病院勤務だろうとクリニック勤務であろうと、給与は殆ど変わらない。というより、場合によってはクリニック勤務の方が給料が高いことも往々にしてある。

一方で病院勤務は、当直や呼び出しといった時間的拘束も強く、コスパがいいとは言い難い。また、これも医療以外の社会と通じるところではあるが、「出世の旨味が減った」ことも上げられる。かつては、若手のうちに頑張れば出世ができる、というような風潮があった。

しかし、「管理職が罰ゲーム化している」とも言われるように出世そのものを疑問視する時代になってきている。医療の世界でもこの風潮は強い。そのため、コスパを重視すると、病院を経ずに直接クリニックに行った方が良いのでは、となる。

しかしこれまでは、そういった動きを抑制する要素が多少なりともあった。それが、経験不足の医者はいずれ食い詰めるのではないか?という考え方である。これを完全に壊したのが、“コンビニクリニック”の存在たちだ。

直精が暗躍する「コンビニクリニック」

コンビニクリニックは、2000年代後半ごろから増加している形態のメンタルクリニックの俗称である。(医療施設調査の分析では、標榜診療科として精神科は+28.3%と増加している(同時期に外科は▲18.9%、産婦人科は▲18.1%)〔出典:石川雅俊氏分析〕。)

それまで、そして今なお続いている精神科医療の問題点の一つは「初診予約が取りづらいこと」である。比較的クリニックが多い都市部でも1〜2週間待ち、地方に行くと1〜2か月待ち、中には初診不可も少なくない。

そこに現れたのが、コンビニクリニックである。基本的には回転率を重視し、できる限り診察時間を短縮、医師を可能な限り増やし、初診を毎日でも取れるようにしていることが特徴である。

ちなみに診察時間短縮のため、一定時間が経過すると受付スタッフがドアをノックして退出を促すなどのシステムが取り入れられており、精神科医療の基本である「時間をかけての診察」を根本から覆してしまっている……。

ここで問題になるのは、医師を可能な限り増やすという点だ。先述した通り、クリニック一本で働けるようになるにはそれなりの経験が必要である。一方、そこまでの熟練者だけでは、コンビニクリニックの回転を支えきれなかった。

そこでコンビニクリニックは、経験の少ない精神科医をはじめとして、時には未経験者でさえも募集をかけるようになった。いまでも医師の求人サイトでは「未経験歓迎、精神科クリニック、マニュアルあり」などの文字が躍っている。

こうして「経験不足ではいずれ食い詰めるのでは」という直精志望たちの不安は解消され、晴れて直精たちが活躍する舞台が整い、減額を経た今でも拡大傾向である。

さらに、コンビニクリニックの隆盛を見た医師やビジネスマンが新規参入する事例も後を絶たず、開業する直精、開業を後押しするコンサル的ビジネスマン、さらには美容医療からの参入などで、さながらバブルの様相を呈している。

なお、株式会社は医療機関を作れないが、一般社団法人であれば医師以外でも診療所を作ることができるため、医師以外がビジネス目的でクリニックを作ることも一種のムーブメントとなっている。ちなみに国は現在、こうした一般社団法人の財務を見える化する法改正に動いており、おそらく一定の問題視はしているものと思われる。

しかし、精神科・心療内科クリニックは増加の一途をたどっており、クリニックの増加と直精の増加が相互作用するように新規加入も巻き込み加速している。

なお、コンビニクリニックや直精クリニックは、集患が比較的容易な都市圏に開業が集中しており、地方の予約困難状況は全く改善しておらず、医師の地域偏在という課題解決には全く寄与していない

精神科医療の特殊性

さて、なぜこんなに精神科だけは簡単に安易な参入を許しているのだろうか?

精神科は外科の手術などと違い、質の違いが見えづらい、という点がある。むろん、長期的に見た時にはその差は明らかだ。しかし直精たちは、そんなことには責任を持たない。差が出づらい軽症例や、診断書だけが欲しい過剰な精神医療化例だけを扱い、重症例はすべて丸投げ。ようするに、上澄みだけをすすっているのだ。その証拠にHPには「診断書即日発行」などの文言ばかりが強調されている。

ここには、我々精神科医が反省すべき点も含まれている。本来、学会などが啓蒙などを経て、あるべき姿を発信すべきだったのだが、その動きはほとんどみられていない。

かつて、rTMSという治療(コイルの磁気で脳の特定部位に対して電気刺激を与えることにより、脳の働きを改善させる治療法)を発達障害に対し、高額な自費やローンを組ませてまで乱発していたクリニックが話題になった。ここも直精医師を大量に募集していた。rTMSの発達障害への効果は確立されていないにもかかわらず、あたかも絶大な効果があるかのように宣伝し、高額な治療費を請求していた、倫理的に問題のある事例だ。これに対して学会は、学会HPでのお気持ち表明PDFにとどまり、積極的な問題提起はほとんどしていなかった。

まともな医師の見分け方

今や、メンタルヘルスの問題は国民の誰もが直面しうる課題であり、自分や身の回りの人がまったく関わらない、ということは考えづらい。そういった意味では、自分がこれからかかろうとしている医者が直精なのか、そうでないかぐらいは、見分けておく必要がある。

一つの見分け方としては、ホームページなどで「精神科専門医」や「精神保健指定医」という資格を持っているかどうかを確認することが挙げられる。専門医については、日本精神神経学会のホームページで検索すれば、その医師が専門医であるかどうかを確認できる。(専門医・指導医検索:公益社団法人 日本精神神経学会)これからかかろうとしている医師が専門医や指定医を持っているかどうかぐらいは、必ず確認しよう。

頼りになる産業医、弁護士、社労士の存在

企業においては、自分の大切な社員が直精によって不利益を被ることもさることながら、先述したような適当な診断書が出てしまうことも、リスクの一つである。この場合に頼りになるのは、産業医などの専門家や、弁護士、社労士などの存在だ。

最近では、無料のセミナーなども信頼できる機関から多く提供されているし、さんぽセンター(産業保健総合支援センター)でも相談に乗ってもらえるので、ぜひ情報を収集してもらいたい。

また、産業医は従業員50人以上の事業所に選任が義務付けられているが、最近はそれ以下の事業所でも、産業医を設置したり、スポット的に産業医へ依頼したりするケースは増えており、筆者のところにも定期的に依頼が来ている。中小企業でも他人事と思わずに対策を取ってもらいたい。

医師の質を「見える化」する仕組み

最後に、制度の側に何ができるのかを考えてみたい。

ここまで述べてきたように、直精問題の本質は「質の低い医療が、見分けのつかないまま保険で支えられてしまう」“質と透明性の問題”にある。だとすれば、打つべき手もそこに合わせる必要がある。

先述の2026年の減算改定は、「指定医か否か」という“資格”で線を引いた。しかし指定医は入院判断のための資格であり、外来の質を保証するものではないし、自費診療などにはそもそも効果がない。

ではどうするか。まず考えられるのは、質を「見える化」することだ。患者が、その医師の専門医資格や研修歴などを確認できる仕組みを整える。そのうえで患者側もその情報も確認する。美容医療で行きすぎた広告に規制が入ったのと同じ発想を、保険診療にも広げるイメージである。情報の非対称性こそが、直精を成り立たせている温床だからだ。

そして、最も重要なのは、需給ギャップを埋めることだ。初診まで数週間待つ状況がある限り、コンビニクリニックには存在理由が残り続ける。減算で締めつけるだけでは、供給は増えず、結局は直精に頼らざるを得ない人が増えかねない。

精神科の初診がとりづらい理由の一つは初診だけをとっていると経営が苦しくなってしまうからである。初診は最低でも30分、丁寧にやろうとすると1時間程度はかかってしまう一方で、5−10分程度の診察が可能な再診と診察料に大差はない。そのためちゃんとした医療を提供しようとすれば初診を絞らざるを得ないのである。

これは悪循環になっており、昨今の物価高などによりちゃんとした医療機関が減る→ますます残った医療機関が苦しくなる、というサイクルも生んでしまっている。医療費増大が大きな問題になっている昨今において、直精などの「上澄み」をすすり制度ハックをしてしまう存在は解決すべき課題であろう。

しかし、それを締め付けだけで解決しようとすれば問題の根本は改善せず、むしろ真面目にやっている側が割を食ってしまうことになりかねない。しっかりとした医療が評価される制度こそが今求められているのである。

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