【伊藤 博敏】「東京の火葬料金は高すぎる!」都民のブチギレの声についに小池都知事が動いた…!「火葬場公営化」の野望の行方
外資による買収情報も流れたが、本命は東京都だった。水面下で行われている女帝による「仕掛け」とは―。「小池劇場」の幕が上がった。
中国人オーナーが「慣習」を変えた
東京都が火葬場の「公営化」に向けて大きく舵を切った。6月9日、都議会第2回定例会の「所信表明演説」で、小池百合子知事はこう宣言した。
「東京の火葬事業の公共性をさらに高め、将来にわたり永続的に提供される体制整備を目指します」
当たり障りのない表現だが、東京23区の火葬事業が日本では珍しく民営中心であることを考えれば、話は違ってくる。業歴40年の老舗葬祭業者が説明する。
「1300ヵ所を超える日本の火葬場の97%は自治体の運営です。しかし東京23区では、明治20(1887)年創業の東京博善が独占的に引き受けてきました。人生最期の『公共インフラ』を民間に委ねていたわけで、その百数十年にわたる不作為を修正するというのです」
23区内に「駅近」で便利な6つの火葬場を持つ東京博善は、東証プライムに上場する広済堂HD('21年9月まで廣済堂)の子会社。'19年、「爆買い」の仕掛け人と言われる羅怡文・ラオックス社長が傘下に収めた。
それまで火葬事業は、僧侶と葬儀業者と火葬場が互いに領分を侵さず、「三位一体」となって取り組んできた。その予定調和は葬儀をスムーズに運んだが、一方で不合理もあった。喪家は葬儀業者の言いなりになり、何が適正価格かわからないまま棺や祭壇を発注し、大枠の費用を知らされる。僧侶へのお布施や戒名料、火葬場作業員への「心付け」なども慣習によって包み、合理的な基準はない。この不透明感はネット葬儀業者が増えて多少、改善したが、「葬儀の現場」は変わらなかった。
そんななか羅グループ入りした広済堂HDは、寺院や僧侶が保有していた東京博善の株をすべて買い上げ、自由度を増した。火葬料金は'21年、3割増しの7万5000円になり、燃料費高騰に伴う変動料金制を経て、'24年には9万円に値上げされた。
同社は利用者(喪家)の利便性を名目に葬儀業に進出。'20年には「心付け」を廃止し、透明性を高めた。また、23区には低所得者向けに葬儀料金が割安となる「区民葬」という制度があるが、「組合に所属する業者のある種の利権」として今年4月に撤退。同時に、火葬料金を下げて8万7000円とした。
小池知事の心変わり
当然、東京都葬祭業協同組合など業界団体の反発は大きかった。マスメディアを通じて「独占企業の傲慢」を訴えるとともに政界に陳情した。
効果はあった。23区内には公営火葬場が2つあり、都営の瑞江葬儀所が5万9600円で、品川区などの広域斎場組合が運営する臨海斎場が4万4000円。都下では立川、八王子、青梅などは無料である。メディアはこぞって「民営は高過ぎる」と報じた。
政界で最初に反応したのは立憲民主党の関口健太郎都議だ。関口都議が経緯を語る。
「3年前の都議会で、まず火葬料金が高騰している問題を取り上げました。さらに火葬は公営で運営されるべきとして、火葬場の整備を提案。都政における火葬議論をリードする過程で、『火葬料金引き下げプロジェクトチーム』を立ち上げ、座長に就任しました」
当初、都の反応は鈍かった。火葬場の監督権限を持つ区は、立ち入り調査を行っても基本的に聞き置くだけ。そもそも、火葬料金の価格統制は'54年に終わっており、料金に口出しする権限はない。なにより、国政でも都政でも政治家には関与する動機がなかった。保守系都議が本音を漏らす。
「葬儀に直面するのは、一生のうち両親を含めて数回です。火葬料金の高い安いは、気にしない人のほうが多い。しかも24時間体制で現場に張り付く葬儀業者は地域密着型の中小業者が多く、それほど政治的圧力はない。つまり葬儀はカネにも票にもならない」
風向きが変わったのは昨年9月の都議会第3回定例会からだ。小池知事は所信表明演説で「安定的な火葬体制の確保は重要だ」と述べたうえで、具体策として、「適切に火葬場の料金を含めた経営管理を指導できるように法の見直しを国に求め、火葬場の実態を把握したうえで取り組みを検討する」とした。都民の火葬料金への関心が増したと読んでの小池知事の心変わりである。関口都議はこの変化を「山が動いた」と表現した。
それを踏まえたうえでの現在の都議会である。「公共性をさらに高める」という言葉の裏には、「東京博善買収」の意欲が滲む。
都は具体策を検討するために6月4日、「火葬場に係る検討会」の初会合を開いた。そこから窺えるのは、「火葬場の運営には都と特別区長会が関与しなければならない」という強い意志だった。
【後編を読む】東京都に急遽浮上した「火葬場公営化計画」小池都知事4選を見据えた戦略と中国人オーナーの苦悶
「週刊現代」2026年7月6日号より
