関東地方の1.3倍以上の広さ!海底鉱物資源「マンガンノジュール」の密集域は偶然発見された!その金属組成からその形成の謎を解く
「レアメタル」が存在している場所として、近年注目されている場所が海底です。コバルトやニッケル、マンガンなどのレアメタルが、日本近海の海底に蓄積していることがわかってきました。これらの海底鉱物資源には「海底熱水鉱床」、「マンガンクラスト(コバルトリッチクラスト)」、「マンガンノジュール(マンガン団塊)」、「レアアース泥(でい)」の4種類があります。じつは、日本は「排他的経済水域(EEZ)」内に、この4種類の海底鉱物資源がそろっている、世界唯一の国です。この4種類の中で、日本近海の「マンガンノジュール」密集域は、2010年、偶然に発見されたものです。この記事では、マンガンノジュールについて、現在行われている最新調査をもとに紹介します。(取材・文:立山 晃/フォトンクリエイト)
日本近海のマンガンノジュール密集域は偶然発見された
2010年、「しんかい6500」に乗船した研究者が、南鳥島東方沖300キロメートルの海底のプチスポットと呼ばれる小規模な海底火山の調査を行っていました。
このとき、小さな海山の斜面に大量のマンガンノジュールが密集していることを偶然に発見しました。
「マンガンノジュール」はマンガン団塊とも呼ばれます。前回の記事で紹介した「マンガンクラスト」と同様、鉄・マンガン酸化物にレアメタルが吸着して濃集した鉱物ですが、マンガンクラストとは含まれるレアメタルの濃度が異なります。
マンガンノジュールとマンガンクラストの大きな違いはその形状にあります。マンガンクラストが基盤となる岩石の上に層状に積み重なって成長するのに対して、マンガンノジュールは、形成後長い年月を経て変質した岩片や泥、まれに魚類の歯や骨を起源とする「アパタイト」という鉱物を核として、同心円状にレアメタルに富む殻が直径2.5センチメートルから25センチメートル程度の球状に成長します。
もともと、太平洋のハワイ南方沖や、南太平洋クック諸島沖の海底に、マンガンノジュールが豊富に存在していることは知られていました。しかし、日本の排他的経済水域(EEZ)内では、海山の斜面に小規模に分布していることが知られている程度でした。
そのため、2010年に南鳥島沖でマンガンノジュール密集域が偶然発見されたことは、研究者のそれまでの認識をあらためるものでした。
国際的には、ハワイ沖(Clarion-Clipperton Zone:CCZ)のマンガンノジュールについて、ヨーロッパとカナダの民間会社が、2021年と2022年にそれぞれ、水深4500メートルからマンガンノジュールを洋上に上げる試験に成功し、海底資源の将来的な利用に道を拓くものとして注目を集めました。
CCZでは、日本を含む多くの国が公海の開発ルールを取り仕切っている国際海底機構と契約を結び、調査を行っています。
南鳥島周辺には、どの程度のマンガンノジュールがあるのか
その後、JAMSTECらで構成する研究グループでは2016年までに、南鳥島の周辺海域にマンガンノジュールがどの範囲で分布しているのか、集中的に調査を行いました。
マンガンノジュールが密集している海底は、堆積物が積もった海底に比べて音波を強く反射します。それによりマンガンノジュールの密集している可能性のある領域を絞り込み、その後、「しんかい6500」などの潜航調査で実際に現場を観察して確かめました。
この調査により、南鳥島の南方や南東のEEZ内の水深5500〜5800メートルの海底に、マンガンノジュールが密集していることがわかりました。その密集域の総面積は約4万4000平方キロメートルと推定され、関東地方(約3万2400平方キロメートル)の1.3倍を超える面積の海底に広がっている可能性があります。
採取された場所で金属組成に違いがある理由
海底にある山を海山と呼びます。南鳥島の近くには、「拓洋第5海山」という海山があり、ここには、マンガンクラストが存在しています(前回の記事)。
調査の結果、拓洋第5海山のふもとに近いマンガンクラストと、南鳥島沖の深海底に分布するマンガンノジュールの金属組成は似ていることがわかりました。
一方、ハワイ沖のマンガンノジュールでは、ニッケル、銅の濃度が、拓洋第5海山のマンガンクラストや南鳥島沖のマンガンノジュールよりも顕著に高いこともわかりました。
このことから、南鳥島沖という同じ海域で成長したマンガンクラストとマンガンノジュールには、その成因に共通性がありそうです。
一方、同じマンガンノジュールでも、ハワイ沖と南鳥島ではレアメタル濃度が異なり、海域による違いがあります。この違いが何によるものかは成因研究としておもしろいテーマです。
水深によって変わるレアアース濃度
南鳥島沖の水深5500メートルを超える深海底にあるマンガンノジュールは、それより水深の浅い海山に分布するマンガンクラストよりもレアアース濃度が高いという特徴もあります。レアアース濃度とは、採取された鉱物に含まれるレアアースの割合です。
そもそもレアアースとは、元素周期表の第3族に属する元素であり、原子番号39のイットリウムと、原子番号57〜71の「ランタノイド系列」と呼ばれる元素群を指します。また、原子番号21のスカンジウムを含める場合もあります。レアアースは、レアメタルの一部だといえます(第1回の記事)。
じつは以前から、水深が深い場所にあるマンガンクラストほどレアアース濃度が高い傾向がありそうだと予想されていました。ただし、金属組成が分析されたマンガンクラストは水深3500メートルより浅い海域で採取されたものに限られていました。
水深3500メートルまでの海山のマンガンクラストと、水深5500メートルを超える深海底に分布するマンガンノジュールの間をつなぐ、水深3500〜5500メートルは試料採取の空白域だったのです。
「マンガンクラスト」について前回の記事でご紹介したとおり、JAMSTECでは2017年に、拓洋第3海山の水深5500メートルまでの各水深のマンガンクラストを採取し、金属組成を分析するという世界初の調査を行いました。
その結果、たしかに水深が深い場所に分布するマンガンクラストほどレアアース濃度が高い傾向がありました。
なぜ、水深が深いほどレアアース濃度が高くなる傾向があるのか、その仕組みはよくわかっていません。
水深が深いほど海水中に含まれるレアアース濃度が高くなる可能性や、濃集に関わる海水中の酸素濃度が深海では高いことが原因になっているのではないかと考えられています。
マンガンノジュールとレアアース泥の共通点
他の記事でくわしく紹介しますが、海底鉱物資源のある場所として「レアアース泥」というものがあります。レアアース泥は、深海の海底下の堆積物中にあり、文字どおりレアアースが高濃度で濃集した泥です。
マンガンノジュールの成因には、このレアアース泥とも共通点がありそうです。
南鳥島周辺のマンガンノジュール密集域の海底下は10メートル以上の厚さの堆積物が覆い、その堆積物の中にレアアース濃度の高いレアアース泥が発見されています。マンガンノジュールとレアアース泥の分布域は重複しているのです。
ここまでをまとめると、南鳥島沖のマンガンノジュールとマンガンクラストは金属組成が類似し、南鳥島沖のマンガンノジュールとレアアース泥とは分布域が重複しています。この三者の成因には共通性・関連性があると推測されます。
マンガンノジュールが、なぜ球状なのかという謎
一般の人たちから、海底に分布するマンガンノジュールはなぜ球状なのかという質問をよく受けます。じつは、それすらよくわかっていません。
マンガンノジュールも、海水に含まれるレアメタルを濃集して成長します。それならば、海水に接した面だけが成長して、海底に接した面は成長しないはずです。
私は、マンガンノジュールは海水を豊富に含んだ堆積物の上に成長するから、球状に成長するのではないかと考えています。海水に接した面だけでなく、海底に接した面でも堆積物中の海水(間隙水)に含まれるレアメタルが濃集して成長するのでしょう。泥に埋まった状態ですが、海水に浮かんだ状態の方がノジュールの状態をよく表しているのかもしれません。
私たちは、マンガンクラストでは基盤岩から成長した各層の年代を分析しましたが、マンガンノジュールではそのようなくわしい年代測定データはまだ蓄積されていません。
また、マンガンクラストと同様に、マンガンノジュールの成長でも微生物が関与しているのかは、大きな謎の一つです。深海底に分布するマンガンノジュールを、無菌状態で陸まで引き上げ、無菌室で微生物を分析するには高度な技術が必要となります。そのため、この謎の解明は手付かずの状態で残されています。
今後、年代測定を含めたマンガンノジュールの分析を進めながら、その成因を探っていく計画です。
日本のレアアース最新研究を読む
●日本は、4種類の海底鉱物資源がそろっている世界唯一の国だった!レアアースとレアメタルの違いわかりますか?
●なぜ日本は黄金の国だったのか?その理由は「海底熱水鉱床」の2つの成り立ちにあった。「熱水噴出孔モデル」と「海底下熱水循環モデル」とは
●海底にある山の斜面にレアメタル「マンガンクラスト」ができる理由は?研究者が注目する「海山」、そして深層の流れと微生物の存在
●取材・文:立山 晃/フォトンクリエイト
●撮影:柏原 力/講談社写真映像部
●図版・取材協力:国立研究開発法人海洋研究開発機構

