【長谷 淳夫】補助金「水増し請求疑惑」が浮上していたEV充電器設置会社…「公益通報」に協力した現役社員が怒りの告白
一方的に自宅待機を命じられた
「補助金は税金です。その補助金の水増し請求を、見て見ぬふりはできませんでした。覚悟を持って、公益通報のために情報収集をしたのです。そのため、会社から特定された時も自らの見解を主張しようと思っていましたが、説明の場は一切設けられず、一方的に自宅待機を命じられた。私からすれば人事権の乱用としか思えない行為が、中部電力という上場企業のグループ会社で行われました」
憤る気持ちを抑えてそう話すのは、EV(電気自動車)の充電器設置・運営サービスを手掛ける「ミライズエネチェンジ(株)」(東京都中央区、以下・ME社)の社員T氏(30代)だ。
ME社は、電気・ガス料金の見直しサイトを運営する「エネチェンジ」が49%、中部電力の子会社で電力販売を行う「中部電力ミライズ」が51%を出資した合弁会社として2025年1月に設立された。
EV車の充電器設置を手掛けるME社が、子会社3社とともに「負債総額47億4500万円」の民事再生手続きを東京地裁に申請したのは2026年5月のこと。低電圧普通充電器の設置台数で全国トップを誇るME社の突然の民事再生申請は、大きなニュースとしてEV業界に広がり、事業再生の可能性などを巡ってその動向は注目を集めている。
「民事再生の理由としてME社は、EV普及が予想を下回り、充電器の稼働率が低迷したことなどを挙げています。ただ業界内では、補助金の『水増し申請』疑惑が週刊誌で報じられ、国会で追及されたこともあって信頼を失ったことが大きいとも言われています」(全国紙経済部記者)
2026年2月、「週刊ポスト」がME社の「水増し請求」疑惑を報道。3月と5月には立憲民主党の杉尾秀哉参議院議員が国会で追及している。補助金の水増し請求に憤りを覚え、ME社経営陣や補助金執行団体である経産省所管の「一般社団法人次世代自動車振興センター」(以下・NeV)などに公益通報を行ったのが、EV充電器業界に長年身を置き、業界の内情に精通しているO氏だ。そしてO氏の協力者がT氏だった。
公益通報された「水増しスキーム」とは
筆者は両氏に取材。まずは、O氏がこれまでの経緯についてこう語った。
「政府は、EV車普及に欠かせない充電設備の拡充を目的に、NeVを通じて充電設備事業者にEV充電器購入額の2分の1、設置工事費の全額を国費で補助しています。しかしME社は、充電器購入会社、補助金申請会社としてグループ会社を配置。両社の間で充電器売買を装って購入価格を釣り上げて申請していました。
私はこのスキームについて、2025年4月にME社に公益通報しました。しかしそれ以降も一向に改善はされなかったため、実態を広く知ってもらうように努めました。杉尾議員の国会での追及に、経産省はME社に執行した補助金額を『4年間で106億円』と答弁していますが、私の試算ではその30数%は水増しされた金額です」
O氏は公益通報する際、「水増し請求」の根拠となるME社内の見積書などの資料も添付して告発してきたという。
「NeVは、ME社の民事再生申請直後の5月下旬、今年度の補助金申請の要綱を公表しています。そこでは、親会社を同じにする会社間で利益を上乗せした補助金申請を禁じました。つまり、これまでのME社の申請スキームを禁じたのです。結果的には公益通報の主張が認められた形ですが、同時にこれまで支払った補助金の返還請求が行われなければ意味がありません」
SMSで送られてきた驚きの文面
続いて、O氏の公益通報のため「覚悟の情報収集」を行ってきたT氏の証言である。T氏が自宅待機を命じられたのは、2026年4月17日。ME社はこの日、午後1時から都内の催事場でEV充電器設置工事会社を集めた講習会と懇親会を開催しているが、そこに参加していたT氏は、開始直前のお昼半過ぎに執行役員であるX氏に突然声を掛けられたという。
「私は充電器の保守・メンテナンスが主な仕事でしたので、工事会社の方との交流は大事にしていました。会場に行くため控室から廊下に出た時、X氏が立っており、突然こう言われました。それは、『今すぐパソコンとスマートフォンを渡しなさい。理由は、私的流用と情報流出の可能性があるから。今すぐ出して。会社にはこのことは話してあるから。自宅待機で。連絡はスマホに電話するから』というものでした。
「『頭が真っ白になる』という言葉がありますが、本当に何も考えられず、体中に冷汗が流れたことを覚えています。しかし、公益通報のために覚悟をもってやってきたことです。『ついに来たか』と気持ちを立て直し、鞄からパソコンとスマホを取り出し渡しました。一般の人も歩いており、人の目もあったため、その場での反論はしませんでした」
T氏によれば、催事場とME社は歩いても15分ほどの距離だという。「自宅待機を通告するにしても、本社内で言うべきことではなかったでしょうか」と、怒りを抑えた口調で告白を続ける。
「その後の対応については私の個人携帯に電話するとのことでしたが、今に至るも電話はありません。それどころか、通告された10日ほど後、私のスマホにX氏の携帯番号からLINEの『友達登録』の申請があったのです。この間、私は弁護士を通じてME社の社長宛に今回の処分に対する抗議書を出しており、弁護士を代理人とすることを通告していました。これに対してME社は、一方的な業務復帰と勤務条件を記した通知書を送ってきていました。そうした中、突然X氏の携帯番号から私の個人スマホのSMSにメッセージが来たのです。その文面には驚きました」
その文面は次のようなものだったという。
〈Tさん、メール確認できていますでしょうか?(中略)本日中に何らかの連絡がいただけない場合は、緊急連絡先のお兄様に連絡をさせていただきます〉
これを見たT氏は目を疑ったと憤る。
「こちらは代理人弁護士を窓口にしているにもかかわらず、なぜ兄に連絡する必要があるのでしょうか。私には脅しとも感じられました。急いで兄に連絡し、一部始終を伝えて電話があっても応じないよう頼みました。執行役員のX氏は社内では実力者です。ME社、そして親会社の中部電力ミライズは、会社としてX氏のこのような行為を容認していたのでしょうか。
復帰に伴う勤務条件も、『パソコンは出社勤務中のみ業務目的での使用・持ち出し不可・USBなど外部記憶媒体の持ち込みも持ち出しも禁止』など、会社の監視体制の中で行うことが義務付けられていて、とても仕事ができる環境ではありませんでした。
去年結婚したばかりということもあって、自宅待機後は、今後の生活や仕事のことが頭から離れず、夜はまともに眠れていません。病院で『不安障害』と診断をされ、今はその治療のため休職中です。その間は無給のため、傷病手当金を受給しながら当面の生活をしのいでいます。
公益通報者保護法では、公益通報者の権利は守られるべきとされています。また、このような一方的な業務命令に基づいた欠勤扱いに関しては、労働基準法上も許されない権力の乱用という弁護士の見解も得ています。賃金の全額支払を求め、労働審判に訴える予定でいます。抗議書では、公益通報という大義のための行為であり、自宅待機には納得していないことを伝えるとともに、提出させられたパソコン・スマホのデータ削除の禁止なども求めています」
ME社に見解を聞いた
こうした公益通報者の主張に、ME社はどう答えるのか。筆者は、以下の点について取材申込を行った。
1.今年度の補助金申請から従来のスキームでの申請が認められなくなったことへの見解。
2.「水増し申請」に当たるという公益通報者の指摘について。
3.T氏に対するX執行役員の発言や、LINEでの通知などについて会社としての見解。
ME社は、次のように回答した(要略)。
1.一般社団法人次世代自動車振興センター(NeV)が決められたことであり回答する立場にありません。
2.申請要件に沿って対応していることを確認しています。
3.個別の従業員等に関する社内事情については、回答を差し控えさせて頂きます。
EV車普及のために充電器設置は不可欠であり、巨額の補助金はその生命線ともいえる。ただ当然、その補助金の原資は税金だ。「水増し請求」が行われていたかについては重大な問題であるだけに、公益通報者の保護も厳正に行われるべきではないだろうか。
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