北朝鮮国内のミサイル兵器工場を視察する金正恩総書記(STR/KCNA VIA KNS/AFP=時事)

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 日本の外交・安全保障政策の基本方針を定めた「安保3文書」の改定に向けての議論が進んでいる。自民党は24日、改定に向けた提言を高市早苗首相に渡したが、その「情勢認識」で強調されたのが中国、北朝鮮、ロシアそれぞれの軍事的脅威と、中国・ロシア、ロシア・北朝鮮の連携強化だった。なかでも国際政治学者の舛添要一氏が注目するのは北朝鮮の「核ミサイル開発」の進展だ。舛添氏が解説する。

【写真】ロシアへの軍事支援を進める北朝鮮、6月の中朝首脳会談では「非核化」への言及がなかった

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 アメリカがイランを攻撃した最大の目的は、イランに核兵器を放棄させることにある。それは「第2の北朝鮮を作らないため」とも表現できる。北朝鮮は核兵器のみならず、それを運搬する手段も開発し、実際に使える状態にある。だからアメリカは北朝鮮に手を出せない。この核兵器の「力」は、持つ側にとっては大きな魅力であるし、敵対する国にとっては大きな脅威となる。

ウクライナ侵攻、イラン攻撃で強まった金正恩の「確信」

 ロシアがウクライナに侵攻したのを見て、「もしウクライナがソ連時代のように核兵器を保有したままだったら、ロシアも侵略を躊躇したはず」だと、金正恩は考えたようだ。「北朝鮮が韓国やアメリカから攻撃されないためには、核兵器の保有しかない」と確信しており、その確信は、今回のアメリカによるイラン攻撃でさらに強まっている。

 2020年来、北朝鮮は異常な頻度でミサイル発射を繰り返している。射程も、短距離、中距離は言うまでもなく、「火星17」、「火星18」のように、アメリカ本土に到達するような長距離のICBMまで発射している。北朝鮮は、このような大型でMIRV化されたICBM(1発のミサイルに複数の核弾頭を搭載し別の目標を攻撃できる大陸間弾道ミサイル技術)から、小型化・軽量化されて取り扱いやすい戦術核まで多様な核メニューを揃えようとしている。今や、1日で20発以上のミサイルを多方向に発射する能力を持っている。

 北朝鮮を建国した金日成は、「アメリカの攻撃から自国を守るには核武装しかない」という確信のもと、核兵器やその運搬手段であるミサイルの開発をスタートさせた。もしアメリカが平壌を攻撃すれば、北朝鮮はニューヨークやサンフランシスコを核攻撃するという戦略である。

 この核抑止力路線は、息子の金正日、孫の金正恩にも引き継がれ、今日までに北朝鮮の核ミサイル開発は長足の進歩を遂げてきた。アメリカの同盟国である日本や韓国は、すでに北朝鮮の核ミサイルの射程圏内に入っており、大きな脅威となっている。

 金正恩にとって最優先の課題は、「金王朝」つまり独裁体制の維持であり、その道具として核ミサイルを開発している。金正恩は、アメリカを交渉の場につかせるには、アメリカ本土を核攻撃できる能力を持つことしかないと考えている。

北朝鮮はウクライナから核ミサイル技術を導入した

 ソ連時代のウクライナは核大国であったが、ソ連邦崩壊後の1994年12月5日に署名された「ブダペスト覚書」によって、ベラルーシ、カザフスタンと共に非核化された。非核化された国々では核関連の技術者や科学者が失職したが、北朝鮮はアメリカの2倍の給料でウクライナやロシアの専門家約50人を雇い、核開発を急速に進めた。

 2017年に北朝鮮がミサイルのモーターとして開発した「白頭山エンジン」は、ウクライナ国営企業が1960年代に開発したRD250型エンジンに酷似している。実際に、2017年に実験が成功した射程5000kmの「火星12」は白頭山エンジンを搭載している。

 ミサイルだけではない。北朝鮮は2007年にウクライナから2隻の潜水艦を購入し、クリミアのセバストポリ軍港から分解して自国に運んだという関係者の証言も報じられているが、その後、この潜水艦がSLBMの発射に使われたとみられる。

 北朝鮮とウクライナの軍事協力は、ソ連崩壊直後から続いており、それが北朝鮮の核ミサイル開発に大きく寄与してきた。

 最近の動きを見ると、北朝鮮は、核兵器の原料となる高濃縮ウランの製造を加速させており、5年前の2.5倍という量産体制に入っている。濃縮ウランの備蓄総量は、イギリスの10分の1に達し、保有する核弾頭数も60発と推定されている。

ロシア支援で2兆円超の特需、さらなる軍備増強も

 そして現在、北朝鮮はロシアを支援するため、武器を輸出したり、ウクライナとの戦闘に1万人を超える兵士を送ったりしている。それは年間2兆円を超える特需となり、北朝鮮経済を潤わせている。

 また、ロシアからの軍事技術の供与によって、軍備増強を図っている。核兵器のみならず、最近は通常兵器も拡充している。ドローンを開発し、昨年には大型駆逐艦2隻を完成させ、今年6月24日にその1番艦を就役させた。高性能レーダーを備えた早期警戒管制機も保有している。さらには、原子力潜水艦の建造も予定されているという。

 ロシアと北朝鮮の関係はこの1年でさらに深まっている。昨年7月にはロシアのラブロフ外相が訪朝、9月には中国の抗日戦争80年記念軍事パレードに金正恩がプーチン大統領とともに出席した。10月の朝鮮労働党創建80年記念行事では、中国の李強首相らとともにメドベージェフ前大統領が出席した。

 今年3月には、ロシアの同盟国・ベラルーシのルカシェンコ大統領が初めて訪朝している。

6月の中朝首脳会談から消えた「非核化」の文字

 以上のような北朝鮮とロシアとの協力関係を牽制することを目的に、中国の習近平国家主席は6月8〜9日に北朝鮮を訪問し、金正恩と首脳会談を行った。習近平にとっては、今年初の外遊である。今回の習近平の訪朝は、ロシア寄りの姿勢を強める北朝鮮を中国側に引き寄せることを目的にしたようだ。

 2019年1月(北京)と6月(平壌)の中朝首脳会談では、朝鮮半島の非核化に言及があった。また、昨年5月に中国政府が公表した「新時代の中国の国家安全」という白書には「朝鮮半島の平和体制の構築と非核化プロセスを平行して推進する」と記されていた。しかし、今回は、首脳会談についての中国側の発表に「非核化」という文字がなかった。

 北朝鮮としては、核保有国としての地位を中国に黙認させることを狙ったようである。さらには、中国との軍事協力の強化も確認された。

 5月には、13〜15日にトランプが、19〜20日にはプーチンが訪中している。アメリカ大統領としては、9年ぶりの訪中である。プーチン訪中は、米中接近を牽制する目的もあり、経済協力を含め40件以上の協力文書に調印している。

 習近平にとっては、アメリカがイランとの戦争など中東に集中し、東アジアに手が回らなくなっている今こそ、この地域で独占的な地位を固める絶好のチャンスである。中国とアメリカの二大強国で世界を分割して支配するというG2体制の構築に余念がないのである。

「安保三文書」改定で戦後日本の防衛政策は根本から変わる

 以上のような国際情勢の下、日本は自国の安全保障をどのようにして確たるものとするのか、大きな課題である。

 2022年12月、「国家安全保障戦略(NSS)」、「国家防衛戦略(NDS、旧「防衛計画の大綱)」、「防衛力整備計画(DBP、旧「中期防衛力整備」)」の安保3文書が策定された。防衛費を2027年度までにGDP比2%まで増額することや、反撃能力の保有、経済安全保障の強化が眼目である。

 そして、2026年にはさらなる改定が予定されている。内容としては、武器輸出に関する制限をさらに緩和する、防衛費をさらに引き上げる(GDP比で3.5%)、「非核三原則」の見直しなどである。

 これらの方針変更は、第二次世界大戦後の日本の防衛政策を根本から変更するものであり、憲法9条をそのままにして、解釈でそこまで進むのには問題もある。

 憲法改正への着実な歩みが必要であるが、国民投票で改正が承認されるには様々な障害を乗り越えなければならない。

 今年2月の衆議院選挙で高市政権は圧勝したものの、参議院では与党は過半数には達していない。予算案も年度内には成立しなかった。消費税減税、皇室典範改正などの難題をかかえ、今後の政権運営は容易ではない。そのような中で、日本の安全をいかに守っていくのか、大きな政治課題である。

【プロフィール】
舛添要一(ますぞえ・よういち)/1948年、福岡県北九州市生まれ。1971年、東京大学法学部政治学科卒業。パリ(フランス)、ジュネーブ(スイス)、ミュンヘン(ドイツ)でヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授などを経て、政界へ。 2001年に参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、東京都知事を歴任。『都知事失格』、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。