「急性緑内障発作」のサインは“意外な初期症状”?頭痛や吐き気が伴う訳【医師監修】
急性緑内障発作は、目の症状だけでなく、頭痛・吐き気・嘔吐といった全身症状を引き起こすことがあります。これは急激な眼圧の上昇が三叉神経を刺激し、脳の嘔吐中枢にも影響を与えるためです。なぜこれほどの激痛が生じるのか、また視神経への不可逆的なダメージが起こる理由について、そのメカニズムを詳しく見ていきます。
監修医師:
柳 靖雄(医師)
東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。
全身に現れるサインと痛みのメカニズムを理解する
急性緑内障発作は、目の奥の痛みという局所的な症状にとどまらず、全身にさまざまな症状を引き起こします。これらの随伴症状が複合的に現れることが、この疾患の診断を時に困難にし、またその重篤さを示しています。痛みや視力の変化だけでなく、全身に現れるサインも見落とさないように、その理由とともに理解を深めることが大切です。
頭痛・吐き気・嘔吐が起こる理由
急激な眼圧上昇は、眼球とその周囲に分布する三叉神経(顔面の感覚を司る神経)を強烈に刺激します。この異常な刺激信号が脳に伝わると、関連痛として激しい頭痛を引き起こします。さらに、この刺激は脳幹にある嘔吐中枢にも影響を及ぼし、自律神経の反射(眼心臓反射など)を介して、強い吐き気や繰り返す嘔吐につながります。食事の内容に関係なく突然始まる嘔吐は、急性緑内障発作のサインの一つです。実際に、激しい嘔吐を主訴として消化器内科や救急外来を受診し、そこで初めて眼圧が高いことが判明するケースも少なくありません。原因不明の激しい頭痛と嘔吐があり、少しでも目のかすみや違和感がある場合は、この病気の可能性を念頭に置くべきです。
充血・霞み目・視力低下の現れ方
急性緑内障発作が起きると、眼圧上昇により眼球の血管がうっ血し、白目部分(結膜)が赤く充血します。また、前述の通り、角膜がむくむ(角膜浮腫)ことで、視界がすりガラスを通したように白く霞んで見えたり、視力が著しく低下したりします。この段階では、眼圧が正常値(10~21mmHg)をはるかに超え、40~70mmHg、時にはそれ以上に達することもあります。視力の低下は発作の継続時間に比例して深刻化し、数時間の経過でも視神経へのダメージが蓄積していきます。発症から24時間以上経過すると、永続的な視力障害が残るリスクが格段に高まります。「少し休めば治るかもしれない」という自己判断が、取り返しのつかない結果を招くおそれがあるのです。目の充血と急激なかすみ目が同時に現れたときは、ためらわずに緊急受診を検討してください。
急性緑内障発作が目の奥の痛みを引き起こすメカニズム
目の奥の痛みが急性緑内障発作でなぜこれほどまでに激しく生じるのか、その背景には、眼圧の急上昇と、それが神経や眼球組織に与える物理的な圧迫という明確なメカニズムが存在します。この仕組みを正しく理解することで、なぜ迅速な治療が視力を守るために不可欠なのかをより深く実感していただけるでしょう。
眼圧上昇が痛みを生む過程
正常な眼圧が10~21mmHgであるのに対し、急性緑内障発作では隅角の完全な閉塞により房水の排出がストップするため、眼圧は短時間で40mmHgを超え、場合によっては60~70mmHgという異常な高値に達します。この急激に上昇した内圧は、眼球を構成する強膜(きょうまく)や角膜といった組織を内側から強く押し広げます。これらの組織には、痛みを感知する神経終末(三叉神経の末端)が豊富に分布しており、この物理的な伸展刺激が強烈な痛みの信号となって、眼神経を通じて脳へ伝達されます。これが、目の奥がえぐられるような、あるいは破裂しそうな激痛の正体です。圧力の上昇が急激であればあるほど痛みも強くなる傾向があり、ゆっくりと眼圧が上がる慢性の緑内障ではほとんど自覚症状がないのとは対照的です。
視神経への影響と不可逆的なダメージ
眼圧が長時間にわたって異常に高い状態が続くと、最も深刻なダメージを受けるのが視神経です。視神経は、網膜で受け取った光の情報を脳へ伝える約120万本の神経線維の束であり、眼球の後方にある視神経乳頭部で眼球から出ていきます。高い眼圧はこの視神経乳頭部を物理的に圧迫し、視神経を栄養する血管を押しつぶして血流を著しく低下させます(虚血)。血流が途絶えると、神経細胞は酸素と栄養の供給を断たれ、機能不全に陥り、やがて死滅していきます。一度死んでしまった視神経細胞は二度と再生しません。これが、緑内障による視野の欠損や視力低下が「不可逆的(元に戻らない)」である理由です。発作開始から数時間以内に眼圧を下げる治療が行われれば、視神経へのダメージを最小限に食い止め、視機能を守れる可能性が高まりますが、治療が遅れれば遅れるほど、永続的な後遺症が残るリスクは増大します。
まとめ
急性緑内障発作は、目の奥の激しい痛み、急激な視力低下、虹視症、頭痛、嘔吐など、多彩かつ激烈なサインを伴う、失明の危険性をはらんだ眼科的な緊急疾患です。発作が起きてから治療を開始するまでの時間が、その後の視機能の運命を大きく左右するため、少しでも疑わしい症状を感じたときは、決して自己判断で様子を見ることなく、直ちに眼科を受診することが何よりも重要です。失明という最悪の転帰は、早期の適切な治療によって回避できる可能性が高い病気です。40歳を過ぎたら、自覚症状がなくても定期的な眼科検査でご自身の目のリスク(特に隅角の広さ)を事前に確認し、かかりつけの眼科医を持つことをおすすめします。
参考文献
日本眼科学会「緑内障診療ガイドライン(第5版)」厚生労働省「第Ⅶ章 眼及び付属器の疾患(H00-H59) 日本眼科学会「目の病気|緑内障」

