進む高齢化とインフレ経済による値上げラッシュで小売業の業績は各社苦しいなか、滋賀県を中心に展開するスーパー平和堂は2026年決算でも最高収益を更新した。流通業に詳しい明治大学専門職大学院の白鳥和生教授は「地元密着の経営が結実している」という――。

■ただただ地道な戦略で最高益へ

人口減少が進む日本で、地方スーパーの経営環境は大きく変わりつつある。かつては店舗を増やし、商圏人口の増加を取り込めば売り上げは伸びた。しかし今後はそうはいかない。人口そのものが減少し、高齢化も進む。物価上昇によって消費者の節約意識も強まっている。

こうした環境下で、滋賀県彦根市に本社を置く平和堂が独自の存在感を示す。2026年2月期の連結営業収益は4560億円と過去最高を更新。既存店売上高も前年を上回り、食品部門は堅調に推移している。派手なM&Aや急激な事業転換による成長ではない。地域に根差した商売を積み重ねながら成果を上げている点に特徴がある。

しかし平和堂自身は現状維持を目指しているわけではない。同社の第5次中期経営計画(2024〜2026年度)を見ると、その方向性は明確だ。

写真提供=平和堂
ビバシティ彦根外観(駅側) - 写真提供=平和堂

■若い顧客と高齢者も同時に重要視する

掲げた重点戦略は、「子育て世代ニーズ対応による顧客支持の獲得」「ドミナント戦略をベースとしたHOP経済圏の拡大」「生産性改善も含むコスト構造改革の推進」の3つだ。

平和堂は2030年のありたい姿として、「従来のお客様支持をさらに高めながら、子育て世代の支持もより一層高める」と明記している。

ここで重要なのは、「若い世代へのシフト」ではない。高齢者を含む既存顧客との関係を維持しながら、次世代の主要顧客となる30代・40代の子育て世代との接点を強化することだ。

そのために平和堂が進めるのが、店舗改革、商品改革、デジタル活用、金融サービス、地域サービスを一体化した「HOP経済圏」の構築だ。

■フレンドマート今堅田店に見る戦略

その考え方を象徴するのが、2025年10月に開業したフレンドマート今堅田店。一見すると普通の食品スーパーに見える。しかし、この出店には平和堂の将来戦略が凝縮されている。同店はアル・プラザ堅田から北へ約1キロの場所に立地する。通常であれば既存店との競合を懸念する距離だ。しかし平和堂はあえて出店した。

それ自体が、ドミナント強化への強い意志を示す。堅田エリアは京都市への通勤者も多く、比較的若いファミリー層が集積する地域。平和堂は大型店だけでなく、日常使いしやすい食品スーパーを配置することで、生活圏全体での利用頻度を高めようとしている。

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フレンドマート今堅田店外観 - 写真提供=平和堂

■難しい30〜40代マーケット

スーパーにとって30〜40代は極めて重要な顧客層だ。子どもの成長に伴って食料品や日用品の購入量が増える。来店頻度も高い。さらに子育てを通じて生活スタイルが変化するため、長期的な関係を築きやすい。

しかし現在の子育て世代は、かつてとは置かれた環境が大きく異なる。共働き世帯は増えた。家事や育児に使える時間は限られる。教育費や住宅費の負担は重い。そこへ物価上昇が追い打ちをかけている。

消費者は価格を重視する。しかし安さだけでは選ばれない。品質も必要であり、利便性も求められる。平和堂が第5次中計で掲げる「子育てニーズ対応」とは、単に若い世代を取り込もうという話ではない。生活者の変化に合わせて、店そのものを変えようという挑戦なのだ。

■食品フォーマット改革が目指すもの

その象徴が食品フォーマット改革だ。平松正嗣社長は食品フォーマット改革について、「売場×商品(品揃え・価格)×人(教育)」を一体で設計する取り組みと説明する。

私は近年、滋賀県内を中心に複数の平和堂店舗を視察してきた。そこで感じるのは、以前よりも売場の意図が分かりやすくなったことだ。

例えば仕事帰りの夕方、共働き世帯の買い物客は限られた時間で夕食の準備をしなければならない。青果売り場で野菜を選び、総菜売り場で一品を追加し、冷凍食品売り場で翌日の弁当用のおかずを購入する。買い物にかける時間を多くは避けない共働き世帯も増えている、

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総菜売場 - 写真提供=平和堂

平和堂の食品フォーマット改革は、こうした生活者の行動を前提に売場を再設計する取り組みでもある。

青果、総菜、冷凍食品。共働き世帯の利用頻度が高い売場の訴求力が増している。かつて総合スーパーには「何でもあるが選びにくい」という弱点があった。現在の平和堂は、必要な商品を探しやすい。買い回りしやすい。短時間で買い物を終えられる。当たり前のように聞こえるが、この当たり前を高い水準で実現することは簡単ではない。

平松社長は「特別なことではなく、あるべき品揃え、あるべき売場をつくることが重要だ」と語る。派手さはない。しかし、小売業は日々の積み重ねで成り立つ産業だからだ。

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青果売場 - 写真提供=平和堂

■「納得感」を売るPB商品「E-WA!」

物価上昇が続くなかで、平和堂が力を入れているのがプライベートブランド(PB)「E-WA!」だ。PBは利益率改善の手段として語られることが多い。だが、人口減少社会では、それ以上の意味を持つ。メーカー商品だけでは売場の個性は生まれにくい。PBは小売業が自らの価値観を商品として表現できる数少ない手段。E-WA!の強化には、価格競争だけに依存しない平和堂の姿勢も表れている。

生活者は食品価格の上昇が続くなかでも、子どもに食べさせる商品は慎重に選びたい。健康にも気を配りたい。できるだけ無駄な出費は抑えたい。そうした複雑な価値観を抱えている。

平和堂のE-WA!は、こうした生活者の意識変化に応えようとしている。価格だけでなく、品質や安全性への配慮も重視。さらに規格外原料の活用や食品ロス削減への取り組みなど、社会的価値を意識した商品開発も進めている。

平和堂が目指すのは、生活者が「これなら買いたい」と思える納得感のあるPBだ。実際、食品フォーマット改革が売場づくりを通じて買い物体験を向上させる取り組みだとすれば、E-WA!は商品を通じて顧客との関係を深める取り組みだ。

一方、第5次中計が掲げる「子育てニーズ対応」は、くらしモアやKVI(キーバリューアイテム)の価格強化、ジャンボパックの拡充などを通じて進められている。

■アプリを使って次世代市場を探る

第5次中期経営計画のもう一つの柱が、「ドミナント戦略をベースとしたHOP経済圏の拡大」だ。この言葉だけを聞くと、ポイントカードの会員組織を拡大する話のように思えるかもしれないが、目指しているのははるかに広い構想だ。

その中核に位置付けられているのがHOPアプリ。近年、多くの小売業がアプリを導入している。クーポン配信やポイント付与は珍しくなくなった。だが、その先の活用には大きな差がある。

平和堂は購買データを商品開発や販促活動に生かそうとしている。どのような商品がどの世代に支持されているのか。新商品は想定した顧客層に届いているのか。どの地域でどのカテゴリーが伸びているのか。こうしたデータを分析し、メーカーとの商品開発や売り場づくりにも反映していく考えだ。

人口減少社会にあって、重要なのは顧客をより知ることだ。子育て世代が何に困っているのか。どのような生活を送っているのか。どんな商品を求めているのか。その理解を深めることができれば、売場づくりも商品政策も変わる。HOPアプリは単なる販促ツールではない。スーパーが顧客を理解するための基盤なのだ。

■スーパーが銀行と組む狙いは

平和堂は2025年、三菱UFJ銀行と連携し「HOPBANK」のサービスを始めた。スーパーが銀行と組む――。一見すると意外な組み合わせに映る。しかし実は、この取り組みには平和堂の将来像が色濃く表れている。

例えば子育て世代の家庭を考えてみたい。平日は仕事帰りにフレンドマートへ立ち寄り、牛乳やパン、総菜を購入する。休日にはアル・プラザで子どもと過ごしながら買い物を楽しむ。HOPアプリでクーポンを受け取り、ポイントを利用する。

さらに給与振込口座や資産形成サービスなど金融面でも接点が生まれれば、顧客との関係は買い物の瞬間だけではなくなる。

もちろん平和堂の狙いは金融サービスそのものではない。重要なのは、生活全体のなかで顧客との接点を増やすことである。

スーパーは通常、商品を購入する時だけ顧客と接する。しかし金融サービスが加われば、家計管理や資産形成といった場面にも接点が広がる。HOPBANKには、「商品を売る企業」から消費と家計の両面から「暮らしを支える企業」へ進化しようとする平和堂の意図が見える。

■なぜ富山に注目しているのか?

平和堂は2027年2月期に、アルプラ フーズマーケット富山掛尾とアルプラ フーズマーケット高岡を出店する予定だ。

平和堂は既に北陸エリアで店舗を展開している。今回の出店は、新たな地域への進出というより、北陸におけるドミナント戦略をさらに深める取り組みと位置付けられる。

人口減少時代において店舗は単なる販売拠点ではない。顧客との接点そのものだ。平松正嗣社長は北陸エリアについて、金沢市や富山市周辺に着目していると説明。人口減少が進む日本では、どこに店を出すか以上に、どの地域で顧客との関係を深められるかが重要になる。

今回の出店も売上高を追うための店舗開発というより、北陸エリアでの顧客基盤をさらに厚くするための投資と見るべきだ。第5次中期経営計画で掲げる「ドミナント戦略をベースとしたHOP経済圏の拡大」は、既存商圏を深掘りすることで実現しようとしている。

■「滋賀県民」ともっと近づきたい

地方スーパーの多くは、高齢化する既存顧客への対応と、若い世代との関係づくりという2つの課題を同時に抱えている。

平和堂も例外ではない。しかし同社の第5次中期経営計画を読み解くと、高齢者か子育て世代かという二者択一ではなく、双方との関係を深めようとしていることが分かる。食品フォーマット改革も、E-WA!も、HOPアプリも、HOPBANKも、それぞれ独立した施策ではない。すべては地域住民との接点を増やすための取り組みだ。

人口減少社会では、店舗数や売場面積だけでは競争優位にならない。重要なのは、地域住民の日常にどれだけ寄り添えるかだ。買い物、金融、健康、見守り、コミュニティ。平和堂が目指しているのは、そうした暮らし全体を支える存在である。商品を売るスーパーから、地域の生活インフラへ。平和堂が描く未来図は、地方スーパーの未来図でもある。

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白鳥 和生(しろとり・かずお)
明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科専任教授
1967年3月長野県生まれ。明治学院大学国際学部を卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。小売り、卸、外食、食品メーカー、流通政策などを長く取材し、『日経MJ』『日本経済新聞』のデスクを歴任。2024年2月まで編集総合編集センター調査グループ調査担当部長を務めた。その一方で、国學院大學経済学部と日本大学大学院総合社会情報研究科の非常勤講師として「マーケティング」「流通ビジネス論特講」の科目を担当。日本大学大学院で企業の社会的責任(CSR)を研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得する。2024年4月に流通科学大学商学部経営学科教授に着任。著書に『改訂版 ようこそ小売業の世界へ』(共編著、商業界)、『即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術』(CCCメディアハウス)、『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』『グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)などがある。最新刊に『フードサービスの世界を知る』(創成社刊)がある。
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(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科専任教授 白鳥 和生)