【ワールドカップ】グループリーグのMVPを現地記者が独自選定 メッシ、ロナウドの「奇跡」が見逃せない
32強が出そろい決勝トーナメントに突入したワールドカップだが、ここまでのグループリーグで最も印象に残った選手は誰か。現地で取材する3人のジャーナリストに、それぞれの主観によるMVPを挙げてもらった――。
愛と祈りを一身に集めた姿はほとんど神
リオネル・メッシ(アルゼンチン)
小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya
アメリカのダラスの街中には、そこら中にアルゼンチン人が溢れていた。
北中米ワールドカップのアルゼンチンは、グループステージの第2戦、第3戦がダラスでの連戦で、連泊しているのだろう。水色と白色のレプリカシャツを着て、国旗を体に巻いた人たちがイタリア語っぽい訛りの強いスペイン語を大声で話し、ワールドカップ王者の虚栄心を見せびらかしていた。決して上品ではないが、胸を張りたくなるほどの栄光なのだろう。
パブリックビューイングが行なわれる広場では、試合以外の日もアルゼンチン人が我が物顔だった。世界に誇る"時代を超えた"英雄ふたり、ディエゴ・マラドーナとリオネル・メッシが胸にある紋章にキスする写真がプリントされた大きな横断幕が張られ、そこに人が集っていた。その騒ぎを撮影するアルゼンチンメディアの姿もあり、それは彼らの祝祭だった。

ヨルダン戦で今大会6点目を決めたリオネル・メッシ(アルゼンチン) photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
39歳になるメッシは生ける伝説であり、今大会もグループステージ初戦のアルジェリア戦から全開だ。
序盤、不穏な空気のなか、メッシは自陣に下がってボールを受け、アレクシス・マック・アリスターとのワンツーで抜け出そうとするが、これはうまくいかない。しかし味方がボールを回収したあと、メッシは散歩するような足取りで殺気を消し、DFラインとMFラインの間に立って、ロドリゴ・デ・パウルからの縦パスを引き出すと、素早く反転して左足を一閃した。ペナルティアークから放たれたボールはきれいな軌道を描いてネットに突き刺さった。
その日、メッシは軽々と3得点を決め、続くオーストリア戦も2得点。英雄の面目躍如だった。しかし、彼はいわゆるストライカーではない。"ボールを蹴る、止める"ではなく、"ボールを操る"というほうが近く、わずかなタイミング、コース、回転などを調整し、思うように動かせるのだ。
メッシはフットボールに愛された存在で、それを自らが繰り出すプレーで返すことができる。人生をかけて、その戦いを続けてきた。年齢に適応してはいるが、本質は変わらない。
まだ16歳だったメッシが、バルサのセカンドチームでプレーしていた時代、筆者はその姿を現場で目撃している。もとは1部でプレーしていたベテランDFが若造に洗礼を与えようと荒っぽいタックルを浴びせると、少年はあえなく横転した。その顔色が一瞬にして変わった。次にボールを受けると、あえてそのDFに挑みかかって、今度は緩急で置き去りにした。ベテランDFはいきり立って仕掛けてきたが、今度はそれを手玉に取ってかわし、力強くゴールを決めたのだ。
あれからメッシは数えきれない修羅場を経て、"メッシという時代"を作った。技術的、体力的に才能があったのは間違いないが、当時から変わらぬ旺盛な負けん気が、今も燃料だろう。
6月27日、グループステージ最後のヨルダン戦。途中出場のメッシは自らのドリブルでFKを奪い、左足でこともなげにゴールへ流し込み、指をかざして天に感謝した。しかし、彼自身がスタジアムの大勢のアルゼンチン人たちの愛と祈りを一身に集め、その姿はほとんど神だった。
グループステージのMVPは、メッシしかいない。
優勝候補の筆頭国に独特の味わいをプラス
マイケル・オリーセ(フランス)
浅田真樹●文 text by Masaki Asada
今回のワールドカップで優勝候補の筆頭と目されるフランスが、やはり強い。
グループステージは3戦全勝の首位通過。とりわけ、3試合で10ゴールを叩き出した攻撃力が凄まじい。
そんなフランスにあって最も注目を集めるのは、当然、キリアン・エムバペだろう。さらには、ウスマン・デンベレがノルウェー戦の前半だけでハットトリックを達成。スター軍団の選手層は極めて厚い。
だが、人材豊富なフランスの攻撃陣のなかでも、個人的に興味をそそられるのはマイケル・オリーセだ。
すでに2025−26シーズン、所属するバイエルンで圧倒的なプレーを見せていたが、バイエルンでは、"典型的な左利きの右ウイング"といったプレーが多く、カットインからのシュート、あるいは逆サイドへのクロスの印象が強かった。
しかし、フランス代表では中央でプレーすることも多く、むしろ、そのときにこそ魅力が増す。いい意味でクラシカルというか、古きよき時代のパサーのたたずまいを見せるのだ。
「キラーパス」などという表現はもはや死語かもしれないが、タメて、タメて、タイミングを計り、相手DFラインの背後に決定的なパスを通す。その鮮やかさは、まさにキラーパスという表現が思い浮かぶ。
とりわけ印象的だったのは、セネガル戦の後半64分、エムバペへのスルーパスを狙ったシーンだ。
オリーセは中盤でボールを受けると、ターンで相手をかわして、中央からドリブルで前進。左サイドへパスを出すぞと見せかけながらタメを作り、エムバペが左サイドからゴール前に向かって斜めに走り込むのを待って、スルーパスを放った。
結果的にこれはわずかに合わず、エムバペがボールに触れなかったのだが、直後にエムバペが見せたポーズ(親指と人差し指でわずかな隙間を作り、「これくらいの差だったよ」と示した)は、オリーセが作り出したタメがいかに絶妙で、いかに完璧なコースにスルーパスを通したか、がうかがえた。
もちろん、オリーセはパスの受け手としての能力も高い。自分自身がタイミングよく相手の背後に走り込み、得点機を迎えることも当然ある。
だが、オリーセが瞬間的に漂わせるパサーの雰囲気は、強さや速さが際立つフランスの攻撃に、独特の味わいを足してくれているように感じるのである。
歯を食いしばって走る献身性に感銘
クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)
杉山茂樹●文 text by Shigeki Sugiyama
グループステージを終えたところで、選手としての優秀さを最優先すれば、MVP候補として1、2を争うのはアクラフ・ハキミ(モロッコ)とヌーノ・メンデス(ポルトガル)になる。チャンピオンズリーグを連覇したばかりのパリ・サンジェルマンの両SBであるのは言うまでもない。
しかし、それとは別種のエンタメ的な要素を最大限に加味すれば、クリスティアーノ・ロナウドを推したくなる。
かつてバロンドールを争った最大のライバル、リオネル・メッシ(アルゼンチン)は、初戦のアルジェリア戦でハットトリック。続くオーストリア戦でも2ゴールを決め、2戦を終えた段階でアルゼンチンの全ゴール、5ゴールを挙げていた。その時点における大会のリーディングスコアラーでもある。
一方、ロナウドは初戦(DRコンゴ戦)でノーゴール。チームも引き分けに終わっていた。ポルトガルは、アルゼンチンがオーストリアに2−0で勝利したその翌日、ヒューストンでウズベキスタンと対戦。メッシに得点数で5点の差をつけられているロナウドは、立ち上がりから気合いを漲(みなぎ)らせていた。
まず開始6分に先制点をゲット。前半17分には絶好の位置からFKのチャンスを得た。キッカーは当然ロナウド。誰もがそう思った瞬間、蹴ったのはメンデスで、意表を突かれたウズベキスタンはこのFK弾を見送るしかなかった。メンデスにキッカーを譲ったロナウドはこの時、限りなくいい人に見えた。
しかし、その後もポルトガルは攻め続け、ロナウドにもチャンスは再三回ってきた。後半39分には順調に2ゴール目をマーク。話題性でメッシに後れを取るわけにはいかないと、ハットトリックを目指して、躍起(やっき)になってゴールを狙った。決定機は何度も訪れたが、不運な判定にも泣かされた。フル出場を果たしながら結局、ゴールは2点で打ち止めになった。
悔しそうな表情を浮かべるロナウドに、哀愁を覚えたのは筆者だけではないはずだ。けっしてスタンドプレーに走ったわけではない。メッシとの違いも鮮明だった。相手ボールになるとボール奪取に関与せず、足をまったく使おうとしないメッシに対し、ロナウドは守る。歯を食いしばって走る。献身的な姿勢を貫いた。ハットトリックを達成させてやりたかった、とは偽らざる感想だ。
とはいえ、老体に鞭打っている感じでもない。痛々しさはまったくない。41歳の身体にはいまだに張りがある。奇跡を見せられている感じさえする。
林陵平のフットボールゼミ #108