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限られた診療時間の中、医師が最大のパフォーマンスを発揮するには、患者さんからの正確な情報提供が必要です。具体的な方法について見ていきましょう。

正しい診断は「適切な情報」があってこそ

医療は医師だけで成立するものではなく、患者と医師の共同作業です。どれほど優れた知識や技術を持つ医師であっても、患者から適切な情報が得られなければ、正しい診断にたどり着くことはできません。

しかし、患者が診療に主体的に参加し、医師の思考に寄り添って必要な情報を提供できれば、医師は本来持っている能力を十分に発揮することができます。

私は、このように患者が医療に主体的に関わり、医師と協力してより良い医療をつくる力を「患者力」と呼んできました。

コミュニケーションを通して能力を引き出す考え方の一つに「コーチング」があります。

コーチングとは、相手に答えを与える技術ではなく、対話を通じて相手のなかにある力や考えを引き出し、目標の達成を支援する技術です。

医師は診療において患者を診察し、判断を下し、治療方針を提案します。しかし、より良い結果を得るためには、この作業を医師だけで行うのではなく、医師、スタッフ、患者が目的を共有しながら協力して進めていく必要があります。

限られた時間、医師が最大のパフォーマンスを発揮するには?

コーチングでは、コーチが質問などの技術を用いてクライアントの考えを引き出し、課題を明確にして、クライアントのなかにある答えを導き出す手伝いをします。

診療の現場でも、患者がこのような考え方を理解し、医師の思考に協力することができれば、医師は限られた診療時間のなかでも持てる力を最大限に発揮しやすくなります。

私はかつてコーチングを学びました。当初は、医師が患者を支援し、より良い医療を行うための技術として活用できるのではないかと考えていました。

しかしコーチングを学ぶうち、それはコーチングの可能性を半分しか活かしていないと考えるようになりました。

現在では、医師と患者の双方がこの考え方を理解し、互いの能力を十分に発揮できるよう配慮し合うことで、医療の質はさらに高まるのではないかと考えています。

「目的を明確にする」ことの重要性

私が学んだコーチングのなかでも、とりわけ印象的だったものの一つに、「目的を明確にすること」があります。

コーチングの場では、はじめにコーチが「今日は何について話したいのですか」、「この時間を通じてどうなりたいのですか」などの質問を行い、目的をコーチとクライアントが共有します。

これは一見当たり前のようですが、実際には非常に重要な作業です。

目的が定まらないままコーチングを始めると、話題はあちこちに飛び、まとまりを失います。結局、時間だけが過ぎていき、何も得られないままセッションが終わってしまうこともあります。

診察室でも同じことが起こります。

患者は何らかの悩みを抱えて受診します。しかし、自分がこの診察に何を求めているのかを十分に整理できている人は決して多くありません。

薬が欲しい人もいれば、病名を知りたい人もいます。どのような治療法があるのかを知りたい人もいれば、がんなどの重大な病気ではないか確認したい人もいます。ただ不安な気持ちを聞いてほしいだけの人もいます。

これらはすべて大切な受診理由です。しかし、その目的が共有されないまま話が進むと、診察が迷走してしまうことがあります。

例えば、耳鳴りを訴えて受診した患者がいたとします。

「先生、最近耳鳴りがするんです。そういえば先週、仕事でちょっとトラブルがあって、そのあと夜中に目が覚めて……。あ、そういえば私の母も昔、耳が悪かった気がするんですけれど……」

このように話が始まることがあります。

もちろん、それらはどれも重要な情報です。診断のヒントが隠れていることも少なくありません。医師はそのなかから診断に必要な情報を拾い上げ、整理し、考えられる病気を絞り込んでいきます。

しかし、この作業には思いのほか集中力が必要です。

目的の定まらない会話が長く続くと、医師の思考は分散し、本来集中すべきポイントが見えにくくなってしまうことがあります。

診察室で重要なのは、「何を話すか」だけではありません。「何のために話すのか」も同じくらい重要なのです。

「受診の目的」を明確に伝えることができたなら…

コーチングでは、目的が明確になることで、コーチは必要な質問を的確に行えるようになります。進むべき方向が見えるからです。

診察も同じです。患者が受診の目的を明確にして伝えることで、医師は必要な質問を選びやすくなります。それは医師の思考を助け、より適切な診断や説明につながります。

例えば、

「耳鳴りが続いています。脳の病気ではないか心配で受診しました」

と一言添えるだけで、医師は患者が何を最も心配しているのかを理解できます。

このように伝えてもらえると、医師は耳鳴りの原因を調べるだけでなく、患者が抱えている不安にも目を向けることができます。その結果、診察の質は向上し、患者の満足度も高まります。

患者力とは、医師を操作する技術ではありません。また、医師から特別扱いを受けるための技術でもありません。医師と患者が互いを理解し、共により良い医療をつくるための対話の技術です。

その技術を身につける過程で、私たちは互いを尊重する姿勢や、耳を傾ける態度を育んでいきます。

そして、その積み重ねが信頼という目に見えない財産を育てていくのです。これはコーチングの考え方とも共通しています。

医療の主役は患者です。しかし、患者一人で病気を解決することはできません。また、医師だけでも良い医療を実現することはできません。

診療は共同作業です。患者力とは、医師に任せきりになることでも、患者が医師を評価することでもありません。患者と医師が同じ目標に向かって協力するための力なのです。

そして、その共同作業を円滑に進めるためのヒントが、コーチング技術のなかには数多く含まれています。

次回からは、コーチングの考え方を参考にしながら、医師の力を引き出す具体的な話し方や質問の仕方について説明していきます。

医療機関を受診する際、ほんの少し意識を変えるだけで診察の質は大きく変わります。

そしてその変化は、結果として患者自身が受ける医療の質を高めることにつながるのです。

宮澤 哲夫

みやざわ耳鼻咽喉科 院長

医師・薬剤師