【小林 信也】【W杯目前!川淵三郎さんスペシャルインタビュー】「世界に出ろ、世界で学べ」という僕の持論がようやく実を結びはじめた
「世界に出ろ、世界で学べ」という僕の持論がようやく実を結びはじめた
ここのところ、数々のヨーロッパの強豪に加え、ブラジルも破った森保一監督率いる日本代表が目指すのは当然、ワールドカップ優勝だ。Jリーグが開幕してから33年、その生みの親であり、日本においてサッカーをメジャースポーツに押し上げた川淵三郎氏のインタビュー後編をお届けする。
【前編を読む】【W杯目前!日本は勝てるのか】川淵三郎さんスペシャルインタビュー「森保っていうのは本当に大した男ですよ。だから…」
「世界に出ろ、世界で学べ」と言い続けてきた
――日本代表が世界レベルに近づいた、このスピードは予測どおりですか。
こんなに早くこのレベルになるとは思わなかったねえ。僕は〈JFA2005年宣言〉で、「2050年までにFIFAワールドカップを日本で開催し、日本代表チームはその大会で優勝チームになる」と“約束”した。45年後を目指して言ったわけだけど、あの時も、それから約20年後に日本代表がここまでレベルアップしているとは思ってないね。もうちょっと後だと。早くても2035年くらい? だから10年くらいは早いイメージだなあ。
日本代表がこれだけ早く世界に追い付いたのは、そりゃもうどんどんヨーロッパに行ったこと、それ以外にないね。「世界に出ろ、世界で学べ」って僕はずーっと言ってきたからね。Jリーグがスタートする前から、カズが出てきた時にも言ってる。「海外に行かなきゃダメだ」と。「海外に行って、その選手がJリーグに帰ってきて、その選手と若い選手が戦う。刺激を受けた若い選手がヨーロッパに行く。このサイクルが回った時にこそ、日本のJリーグは世界に冠たるJリーグになりますよ」って、30年以上前から僕はずっと言い続けてきた。
「ヨーロッパのトップリーグで20人がレギュラーを張ったら日本は優勝するようになります」とも言っていた。いまはまだ10人くらいだよね、トップリーグでレギュラーというと。そういう意味ではまだちょっと早い感じはあるけど。これ全部、僕の読み筋の中には入っているんだけど、当時の僕もこんな早く実現するとは思っていなかった。
「憧れるのをやめましょう」と言う必要はない
僕が率先して「海外に行け!」と言い続けたのは、僕自身が海外のサッカーを経験しているからだね。タックルでぶつかると岩にぶつかった感じとか。絶対通るはずのパスが、相手の脚が長いから止められるとか。唯一、我ながらよくやったなあと思うのは、股抜き。これ抜けるなあと瞬間的に思った、脚が長いからね、そしたら決まった。あのプレーがすごく印象深い。
日本でいくら厳しい練習をしたところで、ワールドレベルのサッカーはできないんだよ。脚の長さも違うし、体格も違うし、メンタルも全部違うから。
それを身体で実感して、世界のサッカーを習うには海外に行くしかない。現場に行って初めてレベルアップする。
2023年のWBCで大谷翔平が「憧れるのをやめましょう」と言ったけど、サッカーのいまの代表選手にはそんなことを言う必要はまったくないんだよね。だって日頃やっているんだから。そこが強いよ。
日本の選手も練習前にボール回しするよね。Jリーグが出来たばかりの頃のボール回しを見た後、ヨーロッパのトップチームのボール回しを見たらみんなびっくりしたと思うね。その差、違いにね。いまはヨーロッパ並みにレベルアップしたかもしれない。
Jリーグを作る前にリーグ運営やクラブ運営を学びにヨーロッパに行った時、アーセナルの練習を見に行ったんだ。有名なアームストロングってウィングの選手がいた。紅白戦になったらもうすごいんだよね。怪我しちゃうのになあと心配するくらい、試合と同じ激しさなんだよ。試合と同じレベルで練習してる。ボール回しにしてもタックルがカーンと来る。日本じゃ遊びでコロコロやる程度だった。真剣さが違う。
これは聞いた話だけど、浦和レッズにルンメニゲの弟(ミヒャエル)が来たんだよね(1993年シーズン途中で来日)。ルンメニゲがボール回しの時、ドイツと同じ厳しいタックルをした。日本のボール回しもヨーロッパ並みに変わるかなと思ったら、ルンメニゲの方がだんだんやわらかくなったって。そりゃそうだよね、数の問題だよ。自分だけ必死にやることはないとルンメニゲは思ったんだろうね。
いまはJリーグの試合を見ていても、激しさとか、間の詰め方がようやくヨーロッパのリーグ並みに、この5、6年かなあ、10年とは言えないなあ、ようやくそういう練習でも激しさが出るようになったなと。
岡田の言葉、中田ヒデの奮起
振り返れば、フランス・ワールドカップ最終予選の途中で加茂周監督を更迭して、岡田を監督に起用した時、最初のミーティングで、岡田は選手にこう言った。
「自分のことが嫌ならここから去ってもらっていい。だが、一緒にやるなら三つのことを守れ。自分のバッグは自分で持て。ミーティング中は私語を慎め。練習の時はフルパワーでやれ」
ということは、それまでコーチとして見ていて、そうじゃなかったことが我慢できなかったんだろうね。岡田も1992年に古河電工から1年間、ドイツに研修に行った経験があるから。
それで最初の練習の時、紅白戦をやった。次の試合のメンバーがわかる試合だよね。そしたら、中田ヒデ(英寿)が二軍に落とされていた。メンバー構成でそれがわかったんだ。その紅白戦で、岡田が言うシャカリキになってやったのが中田ヒデひとり。その時に僕は中田ヒデをね、すごく認めたっていうか、すごいやっちゃなあと初めて思った。当時の日本にはまだ〈練習のための練習〉がかなりあった。それがいろんな経験でずいぶん変わってきた。
(イビチャ・)オシムがジェフユナイテッド市原・千葉を優勝させた時も、そういうことを徹底してやったからなんだよね。
環境こそが彼らを成長させた
いまの日本代表ではもうヨーロッパ組の方が主流だから、心構えが全然違う。
内田篤人とか長友佑都とかも、ヨーロッパの厳しさを経験して、日本代表に注ぎ込んでくれたよね。
内田は1.FCウニオン・ベルリンの時の監督が厳しくて、試合に負けたらグラウンドをずっと走り回される。何周走るのかわからない……。僕だったらそんなチームにいたくないな、まあ入れないけど(笑)。選手としてはきついよね、そういう経験をしている内田は強い。
長友は持久力を養うために、インテルに坂道を作ってもらって、そこを走っていたとか。
いまの日本代表選手の大半がヨーロッパの厳しい世界でやっている。環境が彼らを成長させているんであって、それが日本のチームがレベルアップした最大の要因だね。
――もう一度改めて、今回のワールドカップに寄せる期待を聞かせてください。
いままではね、予選突破はちょっと無理かな……、引き分けでもいい、なんとか予選を突破してくれないかなあくらいの感じだったのが、今回はまったくそんな風には思っていなくて、もう普通に「勝ち負けは運不運で決まる」くらいの実力があるわけだから、ひと試合ごとに、「楽しみながら見よう」って気持ちに変わったね。
いまの代表選手は「勝ってやろう」と思っているから、応援する側も「絶対勝つんだ」という強い気持ちを持って応援しなきゃと、僕は自分でそう思っている。これまでの日本代表のワールドカップを見ていたメンタリティーより今回はすごく余裕を持って、「とにかく運さえあれば絶対に勝てる、それだけの実力はある」と、見方がランクアップしている。
準決勝くらいまで、うまく行けば勝ち進んでもおかしくないな。準決勝に行ったら決勝に行ってもおかしくない。「すごくラッキーだったなあ」とか言いながら、スーッと行ってしまう可能性もゼロじゃないなと。いままではそんな風に思わなかったけど、今大会はね。
W杯で日本人の良さをどんどん示してほしい
――勝ち負けを超えて、日本代表に期待するものはありますか。
日本代表は、いままでの延長線上の戦い方で何も問題ないと思うね。多くのヨーロッパのチームが日本人選手を歓迎しているのは、メンタリティーであり、指導者のチームのあり方を全面的に理解して実行にベストを尽くすという、そういうところで日本選手の良さっていうのは欧米の中で認められているんでね。
ワールドカップでも、日本人の良さをどんどん示してほしい。それが「世界の中での日本」というポジションにつながっていくと思う。
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