「しゃべりすぎると泣いちゃいそう」サガン山田寛人が最前線抜擢に応える。思いが詰まった2発「ラストチャンスの気持ちでやりました」
そこからいわきFCに引き分け、大宮、カターレ富山に勝って連勝。ロアッソ熊本には敗れたものの、藤枝MYFCに勝利と少しずつ浮上の兆しが見え始めている。
そこで今回、指揮官はセレッソ大阪時代からの秘蔵っ子・山田寛人を最前線で起用した。
「我々は今、センターフォワードに怪我人が続出している。山田も怪我やコンディション面で苦しんだが、ようやく戻ってきたところ。それに彼はもともとフォワードの選手。器用なプレーヤーなので、4−4−2のサイドハーフ、4−2−3−1のセカンドトップ、今季のシャドーと、いろんなポジションで使ってきましたけど、やはり生粋のストライカー。彼の能力が生きるようにシフトチェンジしました」と小菊監督は言う。
山田はハイプレスのスイッチ役として前線からハードワークを披露。攻撃時にはしっかりとボールを収めて起点を作った。シャドーに回ったヴィキンタス・スリヴカは低い位置まで下りてつなぎ役を務め、もう1人のシャドー西川潤も右の松田詠太郎と連係しながらスペースを突くなど、前半から良い関係性が構築されていた。
迎えた31分。彼も小菊チルドレンの1人である左ウイングバックの新井晴樹が、高い位置で長崎の右SB関口正大からボールを奪取。これをスリヴカが持ち込み、左から折り返したところに飛び込んだのが山田。待望の今季初ゴールを挙げ、鳥栖が1点をリードした。
後半は長崎もギアを上げてきて、鳥栖は自陣に下げられ守勢一辺倒の展開に。それでも何とか耐え忍び、73分の追加点につなげる。クイックリスタートからボランチの櫻井辰徳が絶妙なスルーパスを前線に供給。オープンスペースに抜け出した山田が左足を一閃。完璧に決め切ったゴールだった。
「久々に感覚を思い出したじゃないですけど、正直、情けないなと(苦笑)。ここ2年はだいぶ苦しかった。いろいろしゃべりすぎると泣いちゃいそうになりますけど...。それくらい嬉しい2得点でしたね」と山田は試合後、しみじみと語っていたが、ここまでのキャリアは本当に紆余曲折の連続だったのだ。
2018年にC大阪のトップに昇格してからというもの、山田はFC琉球、ベガルタ仙台へのレンタル移籍を繰り返した。近年は2023年に仙台で過ごし、34試合に出場して2ゴール。この実績を引っ提げ、24年はC大阪で勝負をかけたが、まさかの13試合出場で無得点に終わり、落胆は大きかったに違いない。
こうした悪循環を払拭すべく、今季は鳥栖に新天地を求め、小菊監督と再び共闘することになった。西川、松本凪生などC大阪から赴いた選手は他にもいるが、彼らがレンタルなのに対し、山田は完全移籍。失敗しても戻る場所はない。そのくらいの強い覚悟と決意を持って2025年シーズンに挑んでいるのだ。
【動画】CF起用に一発回答! サガン山田寛人の2ゴール
「今季は怪我だったり、打撲だったりがあって、なかなか調子が上がらなかったんですけど、今日(長崎戦)は一番前でスタメンで出してもらう形になった。こういう舞台を用意してもらえるのも最後かなと感じて、『ラストチャンス』という気持ちでやりました。
1トップに入ったことで自分のやるべきことがハッキリしたのはすごく大きかった。常にディフェンスラインとの駆け引きで背後を取ることを意識していましたし、クロスの入り方、ゴールに関わる部分をずっと考えながらプレーしました。諦めずに動き直しを続けた結果が、今日の2ゴールにつながった。お世話になっている小菊さんに恩返しという意味でも特別な日になったと思います」と、25歳になった点取り屋は清々しい表情を見せていた。
これで鳥栖は4勝1分け4敗と勝率を五分に戻し、勝点13の8位に浮上。自動昇格圏内の2位大宮との差を6まで縮めた。もちろん楽観は許されないが、上昇気流に乗りつつあるのは間違いない。その勢いをさらに加速させるためにも、今後もFW陣のゴール量産は不可欠だ。
今季の鳥栖はここまで総得点が8で、J2全体の中でもかなり少ない。複数得点の勝利は長崎戦が初めてで、複数得点者も山田1人という状況。だからこそ、山田にはもっともっとゴールを量産してもらわなければならない。
「小菊さんからは『J2で何点以上取ってくれ』『得点王になってくれ』というのは常に言われています。セレッソの時もそうだった。まだ今日、2点を取っただけですし、あまり自分が持ち上げられるのはどうかと思う。今はホッとしましたけど、ここからも試合に出続けて結果を残していくことが大事。そこに尽きると思います」
彼は毅然と前を向いていたが、気がかりなのは、後半途中に痛めた右肩の状態だ。試合後のミックスゾーンにも肩をつった状態で姿を見せており、どういう怪我なのかは検査してみなければ分からない様子。今は軽傷であることを祈るしかないだろう。
いずれにしても、鳥栖が1年でJ1に復帰できるかどうかは、ここからの戦い方次第。長崎戦の貴重な勝利をこの先に活かさなければ意味がない。山田の動向を注視しつつ、今後を冷静に見極めていきたいものだ。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
