「子供4人をバケツにコンクリ詰め」わが子の遺体を20年以上も自宅に隠し続けた“ある女の告白”「当時は金銭的にも困ってて…」(2017年の事件)〉から続く

 2017年に発覚した、乳児4人をコンクリ詰めして20年以上も押し入れに隠していた驚きの事件。犯人女性が目を覆いたくなるような犯罪に手を染めた理由とは…。ノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『実録 女の性犯罪事件簿』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なお本書の登場人物はすべて仮名であり、情報は初出誌掲載当時のものである。(全2回の2回目/最初から読む)

【写真ページ】趣味はパチンコ、乳児4人をコンクリ詰めした女のその後


自首する前に犯人女性が、一緒に暮らす次男に残した言葉とは――。写真はイメージ ©getty

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 次に妊娠したのがA氏との間の第1子となるケンタだった。ケンタについても隠し通そうとしたが、途中で妊娠に気付かれ、やむなく出産することにした。

 だが、生まれて来ればかわいいもので、由美子もA氏も純粋にケンタをかわいがった。周囲の目にもよき両親と映っていた。

 ケンタが生まれた翌年にも男児を出産、さらに翌年にも女児を出産、その翌年にも女児を出産した。だが、いずれも「育てられない」という理由で、生まれた直後にコンクリート詰めにしていた。由美子は「1人は動いたので口にティッシュを詰めた。あとの3人は動いたり、泣いたりしなかった」と言う。もはや真実を確かめるすべはない。

 それから2年後の34歳のとき、第2子としてコウが誕生した。コウも途中でA氏に妊娠に気付かれ、「もうそろそろ生まれるやろ?」と言われたので、出産せざるを得なくなったのだ。

「2400円の自治会費」を分割払い

 だが、由美子のパチンコ狂が一向に直らないため、コウが生まれて3年後、A氏は愛想を尽かして出て行ってしまった。その後、由美子は生活保護と児童手当とパートでケンタとコウを育てることになったが、それでもパチンコ狂は直らなかった。子供会の費用も払えず、わずか2400円の自治会費を3回分割で払うという有様だった。

 それから年月は流れ、ケンタは21歳で結婚して家から出て行った。コウと2人暮らしになった由美子は、51歳のとき、転機が訪れる。それまで住んでいた文化住宅が取り壊しになり、事件現場となるマンションに引っ越すことになったのだ。

 そこでも家賃を滞納するほど困窮し、事件発覚の4カ月前からは全く払っていない状態だった。

 それに加えて、由美子はコウの将来について不安を抱えていた。過保護に育てすぎたためか、一人では何もできない。自分が一生懸命働いているのに、そのことを分かってくれない。この子は自分がいなくなってもちゃんとやっていけるんだろうか。そもそも自分は何のために生きているんだろうか。

 事件発覚の1週間前、由美子は自分が生きている意味さえ分からなくなり、自殺を考えた。だが…。

(もし、このまま自分が死んだら、いずれ遺体が見つかって、そのときにコウは何も説明できないだろう。やっぱり、このまま放置しておくことはできない…)

「お母さん、ボク、これからどうなるの?」

 由美子は警察に自首する決意を固め、すでに18歳になっていたコウを呼んだ。

「ずっと黙っていたけれど…、私は警察に行かなければならない理由がある」

「えっ、どういうこと?」

「この家には私が産み落とした4人の子供たちの遺体がある。ずっと言えなくてごめんね…」

 そのときのコウの衝撃たるや、想像に難くない。

「お母さん、ボク、これからどうなるの?」

「分からない…」

「いつ帰ってくるの?」

「それは…、本当に分からない。17年か、18年は帰れないかもしれない。だけど、アンタは頑張って生きていくんだよ」

 こうして由美子は近所の交番を訪れたのだ。

 警察は当時の交際相手だったA氏を捜しあて、事情を聴いた。A氏は事件の経緯を聞いて仰天した。

「出産も遺棄も全く知らなかった。私の子だったら、相談してくれれば何とかしたのに…」

 当局は4人の子供たちの死因も調べたが、結局、「殺人罪までは立証できない」として、由美子は死体遺棄罪のみで起訴された。

「4人のことは1日たりとも忘れたことがない。手放すことなんて、考えたこともなかった。いつも一緒に生活しているつもりで、4人には名前も付けていた。生年月日も覚えている。いくら謝っても謝り切れないが、本当に申し訳ないことをした…」

 由美子は号泣して謝罪。事件後、市は4人の遺体を火葬し、由美子は「必ず引き取りに行く」と約束した。

犯人も知らなかった「新事実」

 だが、警察の捜査で由美子も知らなかった新事実も明らかになった。

 乳児の存在を誰にも知らせず、自己の支配下に置き続けた場合、その行為は「葬送義務違反」という遺棄行為が継続しているとみなされる。つまり、死体遺棄の時効は成立しない。今回の事件も墓場まで持っていった方がよかったのかもしれないが、由美子にはせめてもの良心があったことが救いだろう。

(諸岡 宏樹/Webオリジナル(外部転載))