記事のポイント

クリエイターが所有・運営するeスポーツチームが増加し、スポンサーシップ売上依存の軽減が期待されているが、依然としてスポンサーは不可欠。

クリエイター主導型のチームはブランドやスポンサーの注目を集めており、特に革新性やコンテンツ力に優れる点が評価されている。

クリエイターたちは新たな収益源を模索する一方、チーム運営費用の安定確保を目指しており、長期的な黒字化と持続可能性を追求している。


クリエイター所有のチームはかつて、eスポーツがスポンサーシップ売上への依存を脱するための有望な経路のひとつとされていた。しかし、そのビジネスモデルが成熟するにしたがって、明らかになってきたことがある。

クリエイターオーナーシップは、ブランドの関心を引くのにとりわけ効果的な方法ではあっても、業界が抱える病の数々に効く万能薬ではない、ということだ。

100シーブス(100 Thieves)などの有名eスポーツチームは過去、クリエイターによって部分的に所有・主導されてきた。しかし、ここ数年は、新たなタイプのクリエイター所有型eスポーツ組織が台頭してきている。

こうしたクリエイター所有のeスポーツチームが話の輪に加わるようになるにしたがって、こんな憶測も飛び交うようになった。彼らの方が、従来型のeスポーツチームよりも、昨年のようないわゆる「eスポーツの冬」の寒さの影響を受けにくいのではないか、という憶測だ。

つまり、こういうことだ。クリエイター所有型のeスポーツ組織は、スポンサーシップとサブスクリプションによる何百万ドルという売上を得ているインフルエンサーの情熱的なプロジェクトだ。そのため、彼らなら、スタッフをレイオフしたり、タレントを切ったりしなくても、スポンサーシップへの関心が低い時期も持ちこたえることができるだろうというものだ。

ここまでは、(ある程度までは)これでうまくいっていた。ところが現実には、こうしたチームもほかのeスポーツ組織と同じ核心的な問題を抱えている。スポンサーシップ契約は彼らにとって、いまなお不可欠なものなのだ。

こうしたチームがブランドやマーケターのeスポーツへの関心をつなぎ止めたおかげで、eスポーツの冬の氷もうまい具合に溶けてくれてはいる。しかし、だからといって必ずしも、この業界の存在を脅かすもっと大きな問題の解決策を、彼らが示しているわけではない。

別のアプローチ



この種のクリエイター所有型eスポーツ組織の最初の例は、ユーチューバーのチャールズ・“モイストクリティカル”・ホワイト氏が2021年に立ち上げたモイスト・イースポーツ(Moist Esports)だった。それ以来、ほかの有名ゲーム系ユーチューバーもホワイト氏の足跡をたどるようになった。

昨年、モイスト・イースポーツの共同所有者になったラドウィッグ・アーグレン氏。同じく昨年、eスポーツチームのディスガイズド(Disguised)を結成したジェレミー・“ディスガイズド・トースト”・ワン氏などだ。

ある意味、クリエイター所有型、クリエイターブランド型のeスポーツ組織の台頭は、eスポーツ業界の変わりゆく本質の反映といえるかもしれない。パブリッシャーが所有・運営するeスポーツリーグという、かつて業界を支配していたビジネスモデルは、よりオープンなエコシステムに押されて勢いを弱めるようになっている。そしてそのおかげで、クリエイターはチームの運営費をまかないやすくなっている。

ワン氏はこう語る。「100シーブスに起きたのが、まさにこれだ。設立者でCEOのマシュー・“ネードショット”・ハーグ氏は、超カリスマコンテンツクリエイターだった。しかし、ライオット・ゲームズ(Riot Games)が要求してくる金額を支払って、リーグ・チャンピオンシップ・シリーズ(League Championship Series:LCS)の一員として大会に出続けるには、何もわかっていない投資家たちに会社のほとんどを売り払うしかない」。

「低迷期にあるいま、構想の実現性はむしろ上がっている。だから、私やモイスト、ラドウィッグの存在感が大きくなっている。我々は10億ドル規模の組織と競合しているわけではない」と話す。

しかし、そのほかの点では、クリエイター所有型のeスポーツ組織も、先人たちと同じ課題をいくつも抱え、その解決に取り組んでいる。彼らはいまも、多くをスポンサーシップによる資金に頼っている。確かに、ワン氏はグッズなどの新たな収益源へとディスガイズドを拡大することに成功した。しかし、その一方で、同氏率いるeスポーツチームはまだ、前月比でコンスタントに利益を出すところには到達していない。

「私の当面の最終目標は、自立できるようになること、つまりスタッフ15人分の人件費をまかなえるようになることだ。それがeスポーツの持続可能な未来への第一歩だからだ」と、ワン氏は語る。「投資家やエンジェル投資家からの出資を当てにしているようでは、eスポーツを永続させることなどできるわけがない。違うだろうか」。

無形価値



モイスト・イースポーツにとっては、黒字化はそれほど重要なことではない。eスポーツチームの運営によって生み出される興奮とコンテンツ。そのためなら、このベンチャーで何十万ドルを失おうがかまわない。

そのように同チームのオーナー陣は公言している。ホワイト氏は、自身のeスポーツチームを直接の収益源に変えることを目指すのではなく、それを使って自身のブランドの無形価値を高めてきた。そして、モイストクリティカルの世界に魅了されるファンと潜在的なスポンサーを増やしてきた。

モイスト・イースポーツの共同設立者で、モイストクリティカルのマネージャーを長年務めるマット・フィリップス氏は、「モイスト・イースポーツといえばチャーリー(・ホワイト)。いまではそう認識されるようになっている。チャーリーを見たことがなかったモイスト・イースポーツのファンもおり、これによってまったく別のファンベースが開拓されている」と話す。

「その大きな効果で、全ブランドが協力して、お互いを支えるという、このエコシステムが生み出されている。帳簿をたどって、『あれのおかげで〇〇ドル稼げた』というのは、とても難しい」。

実のところ、eスポーツ業界の全ステークホルダーのなかで、クリエイター所有型のeスポーツチームの台頭をうまく利用する準備がいちばん整っているのは、ブランドとスポンサーかもしれない。

ゲームコミュニティーに精通するにしたがって、マーケターたちは業界内の個々のインフルエンサーが誇る優位性に着目するようになった。

また、ブランドのなかには、インフルエンサー市場に力を注ぐために、あからさまにeスポーツ手を引いているところもある。クリエイター所有型のeスポーツ組織のスポンサーになれば、ブランドは競技ゲームとのつながりを保ちつつ、このアプローチを強化できる。

ゲーミングハードウェアおよびライフスタイルブランドのレイザー(Razer)でグローバルeスポーツ部門のディレクターを務めるジェフ・チャウ氏は、「こうしたクリエイター主導型の組織との提携を弊社は切望している。彼らの方が独創的で革新的だからだ」と述べている。

「(名前は出さないが)これまでにもさまざまな組織と提携して、大型契約を結んできた。だが、彼らはビジネスのことしか考えていない。独創性を高めてコンテンツを盛り上げることなど、彼らの頭にはない。こうした活性化、こうした革新性こそ、我々が求めているものだ」。

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クリエイター所有型のeスポーツ組織へのブランドの関心。それが深まるにつれて、そこに参戦するデジタルクリエイターも増えてくるだろう。その最新の例が、有名コンテンツクリエイターのケイトリン・“アモーランス”・シラグサ氏だ。ことし6月、Twitch(ツイッチ)ストリーマーである同氏は、テキサス州のeスポーツチーム、ワイルドカード・ゲーミング(Wildcard Gaming)の株式を購入した。

ワイルドカード・ゲーミングへの投資というシラグサ氏の決断は、ビジネスに関する的確な判断で名声を築いてきたコンテンツクリエイター(同氏は過去にガソリンスタンドも多数購入している)によるeスポーツビジネスへの支持表明だ。

ワイルドカード・ゲーミングの最高執行責任者で共同設立者のベン・メリット氏は、「北米には、ディスガイズドとモイストがある。もちろん、クリエイター主導型モデルのサービスをもっと求める声もある」と語る。「我々はこれを、『北米初の女性が主導するクリエイター集団になって、このニッチを勝ち取ろう。それを目指そう』と考えていた」。同氏によれば、ワイルドカード・ゲーミングは現在、黒字を計上しているという。

この発表以来、ワイルドカードはシラグサ氏を自社のコンテンツとブランディングのなかで大々的に取り上げるようになった。そのX(旧Twitter)のバナーもシラグサ氏の画像で飾られている。

シラグサ氏は、「ファンは私がすることなら何でも見てくれるのだろうけど、私には業界とのパイプがあるので、xQc、さらにはラドウィッグ、モイストクリティカルといった友人を呼ぶこともできる」と語る。

「彼らのなかにはeスポーツチームのオーナーもいるので、実際のトーナメントとは別に、ちょっとたきつけて、親善試合を企画するのも面白いかもしれない。ちょっとしたクロスオーバー系の宣伝で」。

[原文:How creator-owned teams are shaking up the esports industry]

Alexander Lee(翻訳:ガリレオ、編集:坂本凪沙)