◆現在の生活のルーツは台湾に

 今年の1月、日本を飛び出し2ヵ月ほど台湾で過ごしていたシュラフ石田さん。そこでも日本と同じように家主を見つけて泊めてもらう毎日を送っていた。これが世界一周の序章なのかと思いきや、意外な事実が存在したのだ。

「実は一番最初にフリップを持って立ったのが台湾だったんです。学生の時に行った初の一人旅でやってみたら、みんな泊めてくれるし家庭料理なんて普通の旅行では食べられないし、台湾料理は全部美味しいし、なんなら次の日に遊びに連れてってもらえたりして、すごくいい経験をしました。だから、どちらかというと僕にとって台湾はある意味ホームなんです」

 自分にとってホームなだけに、非常に居心地が良かった台湾。しかも、現地ではちょっとした有名人になっていたという。

「やっぱり国民性の違いなのか、すごくオープンな感じがあって『なんか日本人がおかしなことやってるぞ』って面白がってくれるので、日本よりも断然泊まりやすかったです。しかも、台湾のSNSやニュースでも取り上げられたので『ニュースを見ました』と声を掛けてくれる人もいました。まあ、逆にネットで叩かれたりもしましたが(笑)」

◆これまでに唯一恐怖を感じた家主

 このような生活を送っていたら、なかには少々変わった人の家に泊まることもあるだろう。そこで、これまでに泊めてもらった家主さんで、もっとも強烈だった人について聞いてみた。

「一人暮らしのおばちゃんの家に行った時なんですが、リビングに案内されたら『この部屋は盗聴されているから気を付けて』、『私、ストーカーもされているの』と言い始めまして……。あぁ、ちょっとお変わりになられてる方なんだなと思いつつも、お酒を飲みながらお話を聞いていたんですが、その間ずっと片手にハサミを持っているんです」

 常に刃物を持って意味不明な会話をする家主さん。さすがに少々危険を感じたので早々に寝袋を出し寝ようとしたところ、シングルベッドで「一緒に寝よう」と誘われたというのだ。

「その時も片手にはハサミを持っているんですよ。断って逆上されたら怖いので、一緒にベッドに入って寝たフリをしました。そしたら『隣で女性が寝ていたら腕枕するのが常識だ』と言ってブチ切れ出して。でも、腕枕をするのは嫌だったので断ったら『もっと困らせてあげようかしら』ってヒートアップし始めたんです。これはマズいと思い、とっさにゲイのフリをしてその場は乗り切ったのですが、さすがにしんどかったので途中で水を飲みに行くフリをしつつ荷物を持って家を出ました。泊めてもらったのに途中で家を出たのは、それが最初で最後でしたね」

◆この生活ならではの人間関係が魅力

 そんな恐怖体験をしつつも、この生活について「ヤメようと思ったことは一度もないです」と話すシュラフ石田さん。

 最後に「この生活の最大の魅力は?」と聞いてみたところ「いろんな人に会える、話を聞けるところです」と答えた。一般的に交友関係は住んでる場所や年齢、趣味や職業といったものに紐づいて形成されるが、彼と家主さんの関係においてはそれが一切ない。そこが一番の面白味であり魅力だと語っていたのが非常に印象的であった。

 もし、駅前で「今夜泊めてください」のフリップボードを持った彼を見かけたら……アナタだったらどうしますか?

取材・文/サ行桜井

【サ行桜井】
パチンコ雑誌『パチンコ必勝ガイド』『パチンコオリジナル実戦術』の元編集者。四半世紀ほど勤めた会社を退社しフリーランスに。現在は主にパチンコや競輪の記事を執筆している。