実力者同士の一戦において、近い距離で密着した打撃戦に終止符を打ったのは、脳を揺らす渾身の右フック。ダウンを喫し、ゴングが打ち鳴らされた後の敗者の「何があった?」とキョトンとした表情と、「一発で終わってしまった」「本人もわかっていない感じ」実況陣が思わずこぼしたコメントが衝撃のTKOシーンを物語っていた。

【映像】意識を刈り取った戦慄の右フック

 2月16日に後楽園ホールで開催された「Lifetime Boxing Fights 19」。谷口彪賀 (協栄)と石田凌太(角海老宝石)の試合は、3ラウンド1分14秒、石田が右のフックをコンパクトに叩き込みTKO勝ちを収めた。

 元日本ランカーで就職を経て現役復帰を果たした石田と、2019年の新人王で日本スーパーフェザー級ユース王者の谷口の対戦。谷口は協栄ジムに移籍して2年ぶりの試合となる。

 オーソドックスの石田、サウスポーの谷口。ゴングとともに至近距離でボディ、顔面と散らしながら手数の多い序盤。谷口はプレッシャーをかけボディ打ちと積極的だが、石田が右ボディから左フックを振り抜き早々にダウンを奪う。試合再開後、取り戻したい谷口もフックを連打して反撃に出るが、強いパンチのある石田が伸びる右ボディで応戦してラウンドを終える。
 
  2ラウンドも一発が重い石田がジャブやボディを振り抜き強気に攻める。一方の谷口も自身の距離で顔面にパンチを集めるが、石田が踏み込みからのボディで削って行く。

 3ラウンド、谷口が近距離でコンパクトなストレートをみせるが、石田が一歩踏み込んで右フックを多用しはじめると、ロープ際で踏み込んで右、左ボディ。さらに強烈な右フックを振り抜くと、谷口は足元から崩れ落ちてダウン。倒れた谷口は体を伸ばし、呆然とした様子で目は虚ろ。その後、何とか立ち上がったが、レフェリーが試合続行不可能と判断してカウントの途中でゴングを要求した。
 
  切れ味鋭く一気に踏み込んで振り抜いた右にファンからも「やばいのが入った」「効いたな」「いいフックだ」と驚きの声が。実況の西達彦アナウンサーが「本人もわかっていない感じですね…」と言及したように、試合後コーナーサイドで座り「何があったの?」というキョトンした表情の谷口の姿が、劇的な幕切れを物語っていた。

 この日の解説を務めたアマ13冠の前東洋太平洋フェザー級王者で、4月17日に後楽園ホールでWBA世界同級9位アンセルモ・モレノ(38=パナマ)と同級10回戦を行うことが発表された前OPBF東洋太平洋フェザー級王者の堤駿斗は「一発で終わってしまった」と試合を振り返り「やってる身としても“ボクシングは怖いな”と思いました。(谷口が)一瞬気を抜いたところに、石田選手が振ってきた」とコメント。リプレー映像では、渾身フックがノーガードでテンプルを捉え脳が揺れるシーンに実況陣が口を揃えて「うわぁ…」と思わず声をあげていた。