ブランドセーフティへの意識が低い広告主 。媒体社・広告会社と デジタル広告 の『買い方改革』をいかに実現するか
「ブランドセーフティにおいて、媒体社、広告会社と比較して広告主がもっとも認知率・対策率が低いのは、専門性のなさから問題に気づいていない、あるいは気づいていても対策がわからないからだ。加えて、対応する人がいない、コストもかけられない。これが、広告主の現場からの声」。そう話すのは、パナソニックコネクトのCMOであり、JAAのデジタルメディア委員会の委員長を務める山口有希子氏だ。12月6日、経済産業省が主催する「経営層も知っておくべきデジタル広告の『買い方改革』の必要性〜デジタル広告取引の健全化について、広告主・広告代理店・媒体社・行政機関が語る〜」がオンライン配信された。
3社それぞれの買い方改革は?
セミナーではまず、広告主、媒体社、広告会社の代表として登壇した3社から、現状のデジタル広告の買い方改革に関する取り組みが話された。山口氏からは、自社の取り組みの発端として「ある時、不適切なサイトに自社広告が掲載されていたことに気付き、危機感が増大した」と明かされ、そのうえで「元々は各事業部でバラバラにデジタル広告を出稿していたが、出稿する人を束ねてコアメンバーを形成し、そこにガバナンスを効かせる体制にした」と、自社体制の改革が話された。
パナソニックコネクトでは、デジタル広告を出稿する際、アドベリフィケーションツールをグループ全体で使うようにしており、さらに掲載メディアの選定も責任を持って行っているという。山口氏は「コストがかかっても行うという判断を会社で取り決め、体制を回している」と自社の状況について話しながらも、「相応の負担が必要となるコスト面やブランドセーフティの低い認知率にどのように対応していくかが課題だ」と、広告主全体の問題点を指摘した。
一方で、電通デジタルの杉浦氏からは、しっかりとガバナンスを効かせてデジタル広告の問題に取り組んでいる広告主は限られていることが伝えられ、広告会社として啓蒙しきれていない点を吐露した。広告会社の立場からは、もっとアドベリフィケーションへの注力を進めていかねばならないという。その結果、「マーケティング費用の無駄の極小化、広告主のブランド毀損の抑止、さらには健全なデジタル広告業界の発展につながる」と同氏は言う。
電通グループは、アドベリ戦略「Clear Code」を掲げている。これは、明快(クリア)な行動指針(コード)を軸とし、クライアントに運用広告のリスクを正しく伝え、最大限にリスクコントロールしたメディアプランの提案と運用を行っていくという戦略だ。杉浦氏は、「少ないながらも独自ブロックリストの更新や指標をレポーティングしていくことを業務フローに組み込んでいる広告主はおり、我々もそのオペレーションをサポートしている」とし、「実際にこうした施策を磨くことで、広告効果が上がるケースも出始めている。こうした施策がコストに見合うようになってきた」と、対策の現状を話した。
デジタル広告市場に危機感を持つ広告主や広告会社は、確実に対策を講じている。しかしながら、デジタル広告に対する大半の考えは、今も昔もさほど変わらない。BI.Garageの長澤氏は、改めて現在のデジタル広告の問題点を指摘。「デジタル広告はクリックされるためだけのマーケティングツールになってしまっている」とし、「ブランディングとして使うのであれば、生活者の受容性を重視しなければならない」と言い切った。
そのうえで、自身が事務局長を務めるクオリティメディアコンソーシアムによる、クオリティメディア宣言について話したうえで、同コンソーシアムが行うPMPを紹介。「こうした広域メディアに出稿できるPMPは、オーダーメイドを除いて日本で唯一。JICDAQの認証に併せて、コンテンツの質・編集の倫理規定もチェックされた2段階認証でリスク管理されており、現状のデジタル広告の問題の解決策になりうる」と、媒体社側が担う解決策のひとつを提示した。
それぞれの立場に思うこと
セミナーでは、3者からそれぞれの立場への提言あるいは助言も展開。山口氏は、「広告主全体が明確に理解している問題ではないため、専門家である広告会社には、そこに対する知見をいただきたい」と広告会社にお願いし、一方で「そもそも瑕疵のある掲載面を広告主に売らないでほしい」と訴えた。媒体社サイドに対しては、「MFAの増加に危機感がある」と語ったうえで、「真実性を持って、正しいコンテンツ、そして正しいリレーションが広告主と作れるようなメディアであってほしい」と伝え、「広告主は媒体社を通じて、そのユーザーや生活者ときちんとエンゲージメントを作りたいと思っている」と言い添えた。
一方、杉浦氏は「基本的な意識の底上げが大事だと思う」と指摘。そのうえで広告主に対し、「どのリスクを本当に回避したいのか、明確化して合意形成したほうがよい。たとえば、アドフラウドの被害だけは根絶したい、ブランドセーフティの基準だけでも作りたい、といった形だ」とリクエストする。「こうした点が曖昧では、運用レベルに落とし込むことはできない」。
加えて、「より収益を多く得るために、ある程度基準を下げてでも広告主の広告素材を受け入れる、あるいは掲載面を増やすということはネットワーク全体の品質が犠牲になっている」と媒体社サイドに伝え、「リスクとリターンのバランスは非常に難しいが、ある程度の基準を定めなければ、現在の問題は解決しない」と提言した。
長澤氏は、「とにかくもっとリスクに対して敏感になるべきではないか」と話し、「ひょっとしたら反社が関わっているサイトに掲載してしまうかもしれない。そうなれば反社の活動に手を貸していることにもなる。その認識をしっかり持つべきだ」と、広告主に向けて危機感をあらわにした。
また、「MFAが日本市場でも熟したら、インターネットの環境は大変なことになる。広告表現や掲載面のクオリティを軽視すれば、広告全体のイメージも悪化する。広告会社には、その質の問題を意識した新しいマーケットを作ってほしい」と、広告会社に呼びかけた。
行政も動きを見せている
広告主、媒体社、広告会社ぞれぞれの立場はあるが、これらの属性に準ずる会社が、デジタル広告市場の当事者であることにかわりはない。誰か、がやるべきことではなく、業界全体で解決しなければいけない問題だ。
そうしたなかで、行政もこの問題を重く見ている。デジタルプラットフォーム取引透明化法の推進や広告主の買い方改革における取り組みなど、経産省が中心となって進めているのだ。経産省デジタル取引環境整備室の仙田室長は、「議論の質を高めていくという観点から、いろいろな視点での声やお悩みをいただくことが大事だと思う。個別のアドバイスや事業者向けのヒアリングも行っているため、行政を大いに利用してほしい」と、デジタル広告利用者向けの相談窓口を推奨した。
こうした問題は今に始まったことではないが、AIの進歩によるMFAの増加、被害がとどまらないアドフラウドの問題など、未解決のままやり過ごすことが困難になってきた。一部の広告主・媒体社・広告会社、あるいは行政の積極的な対応も見られ、徐々に温度感は高まりつつある。では、危機感を持つべきは現場の担当者なのか? 前述されるとおり、この課題解決には経営視点での意思決定が必要不可欠だ。今、早急に対応を求められているのは、広告主、媒体社、広告会社の「意思決定者」なのかもしれない。
Written by 島田涼平
