オーディオ機器は音や音楽を出すというシンプルな用途ながら、心配になるような激安で売られているものから目が飛び出るような値段が付いているものまで多種多様です。オーディオ関連企業に数年間勤めた経験があるというインターネットユーザーが、オーディオ機器レビュー向けのフォーラムに、業界についての裏話を投稿し話題になっています。

"Secrets" about the consumer audio business you may find interesting | Audio Science Review (ASR) Forum

https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/secrets-about-the-consumer-audio-business-you-may-find-interesting.37344/



kemmler3Dというユーザーが2022年9月13日に、「消費者向けオーディオビジネスの秘密」と題して、一連の書き込みをAudio Science Review Forumに投稿しました。

kemmler3Dの自己紹介によると、同氏は2012年から2015年と2017年から2020年の間、コンシューマー向けオーディオ機器関連の会社に勤めていたとのこと。その会社は従業員数は10人ほどの小さなスタートアップで、100〜300ドル(約1万4000円から約4万3000円)というオーディオ機器としては主流な中価格帯の製品を手がけていたそうです。

中小企業で働いていたことから、「大企業やハイエンド機器の会社には当てはまらないでしょう」と前置きした上で、kemmler3Dは「オーディオビジネスに関して的外れな言説が散見されるので、私の経験が『ベールをはぐ』のに役立つかもしれません」として、オーディオ業界について知っておくと役立つポイントを次の10点にまとめました。

◆01:コンシューマーオーディオ製品の製造コストは一般的に小売価格の30%以下

kemmler3Dによると、主要な小売店で販売されている商品の売上原価は、事実上30%が上限とのこと。アメリカでは、小売店の取り分が小売価格の半分以上を占めることが一般的であるため、オーディオ企業は残りの半分から原価を回収し、その上で自分たちの給料や電気代といった諸経費を払わなくてはならないからです。

また、kemmler3Dは個人的な感覚とした上で、原価が売値の10%を下回るようなことでもない限り、不公平とは思わないと述べています。企業には従業員の健康保険から世界各国の規制対策まで、製品を売る上で必要になるコストがいくらでもあるのがその理由です。



◆02:小売価格は原価から無限に上乗せされうる

オーディオ機器の原価率の上限は30%ですが、下限はないと言われています。その例として挙げられているのが、Beatsのヘッドフォンです。kemmler3Dによると、Beatsのヘッドフォンの部品代がMPOWやAnkerより高いということは絶対にないとのこと。「それでも人々がより多くのお金を支払うので、企業はより多くのお金を請求します。人々がいくら支払うかは、いくらかかるかよりも重要なのです」とkemmler3Dはコメントしました。

◆03:マーケティング費用は原価率や品質とはほとんど関係ない

高い割に性能が低い製品は、よく「マーケティングに資金を費やしすぎて研究開発がおざなり」と評されます。しかし、これが当てはまるのは一部の巨大ブランドだけで、売上が1億ドル(約143億円)を上回らないようなほとんどのブランドにおいては、マーケティングの費用が高すぎるということはないとのこと。

この点について、kemmler3Dは「知名度だけではとても商売になりません。ソニーやAppleを2年以上出し抜けるのでもない限り、その戦略は忘れたほうがいいでしょう」と述べました。



◆04:自社工場を運営しているオーディオブランドはほとんどない

kemmler3Dによると、有名な大企業を含めて、全てのパーツを自社で製造しているオーディオメーカーはほとんど存在せず、大抵は海外の工場に委託するなどしているとのこと。もっとも、オーディオ機器にはドライバーやケーブル、ハウジングなどさまざまな部品が必要であり、それを1社だけで生産するのは困難かつ非効率的なので、これは決して悪いことではないとkemmler3Dは述べています。

◆05:ほとんどの中国の工場や技術者はもっとハイエンドな製品を作ることができる

消費者の間には中国製のものは安物だというイメージが根強くありますが、多くの中国のメーカーは高性能な製品を作ることができるとのこと。そうなっていないのは、製品ごとに生産ラインを切り替えるコストなどを踏まえると、売れるかどうかも分からない高品質なものを少数生産するより、よく売れるものを安く大量に作った方がもうかるからです。

kemmler3Dは、Hi-Fiに近いアイテムが置かれているブースで、ある男性が女性係員に「安くて、大きくて、うるさいのを見せろ」とぶっきらぼうに言い放ったのを見て悲しい気持ちになったという香港での経験から、「特定の国のオーディオは低品質だという意識は実は消費者の中にあるのです」とコメントしました。

◆06:スケールメリットは確かに重要

kemmler3Dによると、小ロットで生産する工場は品質管理の問題が発生しやすく、価格も高くなる傾向があるとのこと。



◆07:オーディオメーカーは消費者が思っているほど高度な技術を持っているわけではない

オーディオ機器を設計したり製造したりしている企業は非常に洗練された技術を持っていますが、前述の通りオーディオブランドの多くは自社で製品の生産や設計をしていないので、そうした企業自身は消費者のイメージとは違って技術力を持っていません。

kemmler3Dは「商品開発やマネジメントといったスキルはオーディオ企業にとっても重要な仕事ですが、そうした仕事をする上でオーディオの専門知識は必要ないわけです。ですから、もし『出荷前に自社でちゃんと検査したんだろうか』と疑問に思ったら、その答えは実際に『ノー』かもしれません」と述べました。

◆08:配送料は大きい

kemmler3Dは、この点を意外に思う人はいないだろうと前置きしつつ、特にハウジングやマグネットなど重くかさばる部品を持つスピーカーのようなオーディオ機器は物流コストが膨大なものになりがちだと強調しました。

◆09:パッケージングコストも重要

中低価格帯のインイヤーモニター(IEM)の中には、中身よりパッケージの方が高いものもあります。「Amazonでは、2ドルで調達したIEMを3ドルの箱に入れたのが20ドルで売られていることがありますが、不思議とみんな幸せそうなんですよね」とkemmler3Dはコメントしました。



◆10:大手小売店には音質にこだわることも最先端技術の製品を売ることもできない

kemmler3Dによると、Target・Best Buy・Walmartなどの大手小売店は、オーディオマニアが求めるような超高音質の製品を扱うような体制になっていないとのこと。もちろん、これらの企業の仕入担当が無能なわけでも耳が悪いわけでもありませんが、そうした人たちの仕事は最高級品を売ることではなくオーディオ機器に割り当てられた販売スペースを有効活用することです。従って、売れるかどうか分からない高価なSOTA製品ではなく、定評があって売れることが分かっているブランドのオーディオ機器がよく選ばれます。

そのため、kemmler3Dは「小売店は、売れる商品がたまたまいい音を出すのであればそれを仕入れるし、同じくらい売れる商品が複数あったら音で勝負することもあるでしょう。しかし、彼らは最高の音を伝えるのを仕事にしているわけではないのです。もしいい音を求めるなら、専門店やAmazonなどのマーケットプレイスで直販しているメーカーを当たるといいでしょう。また、もし小売店の人にオーディオについて詳しくなってもらたいのであれば、このフォーラムの人がよくアドバイスしているように、地元の専門店を応援するべきです。そのような余裕があるのは、彼らだけなのですから」と述べました。

kemmler3Dの投稿には、同氏自身の返信も含めて記事作成時点で213件もの投稿が寄せられているほか、ソーシャルニュースサイトのHacker Newsのスレッドでも300件以上のコメントがつくなど話題となりました。