【今日で事件から1年】「勝ち組の典型にみえた」小田急線無差別刺傷 加害者が20代女子大生を執拗に刺したワケと犯行直前の“ある事件” から続く

 1年前の8月6日、小田急小田原線の電車内で刃物を持って複数の男女を襲い逮捕された対馬悠介容疑者。「幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思うようになった」などと動機を語る一方で、日々ナンパに明け暮れる面も持つなど歪んだ女性観に注目が集まった。真相解明の一助になることを願い、当時の記事を再公開する。(初出:2021年8月8日 年齢、肩書などは当時のまま)

【画像】サラダ油を電車内に撒いた対馬容疑者 事件直前に“ボヤ騒ぎ”が起きた自宅とは

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 8月6日午後8時半頃、小田急線成城学園前から祖師ヶ谷大蔵駅へと走行中の快速急行の電車内で、川崎市多摩区の職業不詳・対馬悠介容疑者(36)が計10人を刺傷した事件。警視庁は7日、対馬容疑者を殺人未遂容疑で逮捕した。

 現場となった車内は、突然の凶行に騒然とし、乗客はパニック状態になっていた。居合わせた人はTwitterにこう書き込んでいる。

「医療従事者はいらっしゃいませんか!」

《居合わせた医療従事者の女性と思しき方の「他に医療従事者の方はいらっしゃいませんか!」「タオルを持っている方、貸していただけませんか!」と手当てしながら協力を求める声が印象的だった》


祖師ヶ谷大蔵駅のホームを調べる警察官 ©時事通信

  捜査関係者が語る。

「対馬容疑者はトートバックから刃渡り約20cmの牛刀を取り出し、振り回した。しかし途中で牛刀の柄が折れたため、トートバッグにいれていたサラダ油を取り出し、周囲に撒いた。チャッカマンで火をつけようとしたが上手くつかず、位置情報がバレないように慌ててスマートフォンを投げ捨て、現場から逃走した」

 けが人は20代から50代までの男女合わせて計10名。命に別状はないものの20代の女子学生が腹部や背中など7カ所を切りつけられ、重傷を負った。

 

 対馬容疑者は容疑を認めており、「誰でもよかった」「殺せなくて悔しい」と供述する一方、「(重傷の女子学生が)勝ち組の典型にみえた」「男にチヤホヤされてそうな女性を殺してやりたい」とも吐露しているという。対馬容疑者はどんな人物なのか、そしていつから「勝ち組の女」に恨みを募らせたのか――。

「常識ある人だと思っていたが…」

 対馬容疑者の自宅住所を訪ねてみると、坂を上った先にある閑静な住宅街にたどり着いた。ゆるいカーブの細い道を進んでいくと、2階建ての白いアパートが現れる。アパートの住民によると「家賃は2万5千円くらい」で、対馬容疑者の部屋入り口には洗濯機が置かれていた。3か所に取り付けられた窓にはすべてカーテンがつけられており、中の様子は見えなかったが、一番大きな窓ガラスは激しく割れており、ガムテープのようなもので張り付けられているのが分かる。

 取材を進めていくと、対馬容疑者がこのアパートに引っ越してきたのは「少なくとも4年以上前」(近隣住民)だという。近所付き合いをしているような親しい人物はいなかったが、近隣での対馬容疑者の評判は悪いものではないようだった。容疑者と同じアパートに住む住人は驚きながら、こう語る。

「積極的に挨拶をしてくれようなことはなかったけど、礼儀正しい感じの人でしたよ。ただ1週間くらい、深夜2時ごろに家具を倒すような音がしていたことはあって、ちょっと気になる人ではありました。とはいえ大きな物音があったのはこれくらいで、床に粘着シートをコロコロ転がすような音がよく響いていたので、掃除好きなのかなと思っていた。特に大きなトラブルもなかった」

対馬容疑者が大家と一緒に謝罪に来た

 対馬容疑者と直接言葉を交わしたことがあるアパートの住民にも話を聞くことができた。その住民も「事件をおこすようには見えなかった」と首をかしげ、こう述懐した。

「一度、アパートで対馬容疑者の部屋から水漏れが起きてしまったことがあったんです。その時に大家さんと一緒に『ご迷惑をおかけしました』とわざわざ謝りにきてくれたのが印象的でね。大家さんに任せてしまってもいいのにね。常識のある人だなと思っていましたよ」

 近隣住民の証言からは対馬被告の“異常性”は感じられない。至って普通のどこにでもいる青年だと認識されていたようだ。しかし事件の約1週間前、対馬容疑者が周囲の人々から注目を集めたことがあった。対馬容疑者の部屋から白い煙が上がり、“ボヤ騒ぎ”が起きていたのだ。

対馬容疑者が起こしていたボヤ騒ぎとは

 ボヤ騒ぎがあったのは8月1日。日曜日の閑静な住宅街にサイレンが響き渡り、「消防車が2台とパトカーが来ていました。消防の人が何かが燃えた形跡はなかったと警察の人に説明していました」(別の近隣住民)という。火事にいち早く気づき、通報した近隣住民は、当時の様子をこう話す。

「夕方ごろに主人が外で草むしりをしていたんです。そうしたら、こげくさい臭いがしてきて、見るとアパートの一室の窓から白い煙が出ているのが見えて火災報知器の音も聞こえてきたようなんです。火事だったら大変だと思って、外にいた主人の代わりに私が119番をしました」

 この女性は、消防車が来るまでに火が燃え広がってしまわないかが不安で、対馬容疑者の部屋の窓をじっと見ていたのだという。

「すると突然、窓がガラッと開いたんです。中にいる方……おそらく対馬容疑者だったと思うのですが、姿が見えたので『大丈夫ですかー』と声をかけました。でもこちらの呼びかけには全く応じずに、部屋の中に戻っていきました。どんな人が住んでいるか知らなかったので、その時に初めて顔を見ました。ひげを生やしていて、なぜか上半身裸だったのを記憶しています」(同前)

 対馬容疑者は今回の事件で、電車内にサラダ油を撒き、火をつけようとしている。このボヤ騒ぎはたまたま起きたのか、それとも――。

「常識ある人に見えた」という対馬容疑者だが、心中には狂気が芽吹いていたのかもしれない。捜査関係者によると、対馬容疑者は取り調べに対して「大学時代のサークル活動で女性にバカにされたり、出会い系で女性にデートの途中で断られたりした」と恨みつらみを語っているという。

【今日で事件から1年】《小田急線無差別刺傷》「成功率数%でも中高生をホテルへ…」15年前に垣間見えた“自称ナンパ師”対馬容疑者の異変 へ続く

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))