●インタビューが“結婚会見”に!?

フジテレビの動画配信サービス・FODのドラマ『オールドファッションカップケーキ』(13日配信スタート ※全5話)で共演する俳優の武田航平と木村達成。出世欲も結婚願望もない、ルーティンな日々に憂鬱さを感じている野末(39、武田)と、そんな野末を入社時から尊敬し恋心を抱く、優秀な部下の外川(29、木村)という年の差10歳の2人が、スイーツ巡りをきっかけに距離を縮める様子を丁寧に描いた作品だ。

いわゆる“BL”というジャンルに、どのような気持ちで挑んだのか。さらに、役を通して感じた俳優としての現在地や、尊敬する先輩・後輩など、2人に話を聞いた――。

『オールドファッションカップケーキ』に出演する武田航平(左)と木村達成 撮影:蔦野裕

○■「楽しくなる匂いしかしない」「この人と僕はキスをするんだ」

――今回の作品のオファーを受けての心境はいかがでしたか?

木村:実年齢とも近い役ですし、もちろんうれしかったのですが、台本を読んだときの膨大なセリフ量と、伝えなきゃいけないメッセージの多さに、ちょっと一瞬ひれ伏したというか(笑)。「大丈夫かな…」と心配な匂いがしたんですけど、必死に本がボロボロになるまで読んで、台本を頭の中に詰め込みました。

武田:「いよいよ来たな」という感じでした。俳優をやらせていただいて長いんですけど、素の自分に近いというか、共感できる部分が多い役をやらせていただくことってなかなかないと思うんです。そういう機会を頂けるという意味では、ぜひハマり役にできればいいなという印象を持ちました。

――お互いの印象はいかがですか?

木村:僕、最初は全員怖い人だと思ってやってるので(笑)。だから、一歩ずつじゃなくて、土足で5歩くらい最初から登っていちゃうんですけど、それでも、どしっと迎えてくださったので、現場でものびのび、お芝居ものびのびさせてもらいました。

武田:最初に見た印象はクールでカッコいいイケメンな方だなと思ったんですけど、実はすごく明るくて、いろんなスタッフさんとかにも現場ですごく明るく振る舞ってくれるので、どんどん自然と距離が縮んでいったというか……なんかこれ、結婚会見みたいですね(笑)

木村:(笑)

武田:恥ずかしくなってきましたね…。えーと、自然と距離を縮めていけて、いつの間にか彼のことを頼りにできるような存在になっていきました(笑)

――ではその流れで、出会いの場は?(笑)

木村:(笑)。最初は衣装合わせです。本読みのときに、たしか航平さんが軽くボケたのかな。そこで笑いが起きて、「あ、これから楽しくなる匂いしかしないな」と思いました。

武田:すごくカッコよくてクールな印象がありましたし、「この人と僕はキスをするんだ」「きれいな目をしてるな」と思いましたね。これは素直な僕の意見なので、そのまま書いていただいて大丈夫です(笑)



○■でかい壁は「当たってぶち壊せ」

――原作は「ちるちるBLアワード2021」でBESTコミック部門1位に輝くなど、人気の高い作品ですが、実写化することへのプレッシャーはいかがですか?

木村:プレッシャーはあんまりなかったですね。緊張はもちろんしますけど、でかい壁は「当たってぶち壊せ」なんで。

武田:「当たって砕けろ」じゃないんだね(笑)

木村:そうですね。高い壁であるほど燃えます。

武田:BLというジャンルは、今すごく世間でも注目されていて、『仮面ライダー』という作品を一緒にやっていた仲間である赤楚(衛二)くんや犬飼(貴丈)くんなどがチャレンジしていく中で、「僕もちょっとやりたいな」みたいな気持ちもあったんです。そこで、すごく人気のある『オールドファッションカップケーキ』という作品にチャレンジさせていただけるということで、たくさんの方に喜んでいただけるようにしたいですね。やっぱり原作ファンの方の目線や思いというのがある思うんです。それに寄り添いながら、今回のこのチームでしかできないものを作って、原作ファンの人にもそうじゃない人にも届けたいなという強い思いを持ちました。

――原作を読んだ感想はいかがでしたか?

木村:BL作品はあまり見たことがなかったので、どういうものなのかなと興味を持ちながら読ませていただきました。イメージ的にはサラサラ・キラキラしている印象です。読みづらいこともなく、本当の恋愛もので、すごく胸に突き刺さるような感情を覚えたので、自分がやるときにどうなっていくんだろうという期待とドキドキがありましたね。

武田:(ラブシーンを)「どこまでやるのかな?」って思いました(笑)。漫画だと結構やってますよね。だから、見てくださったときに「こうなるんだ」と楽しみにしていただきたい思いもあるんですけど、僕が思っている恋愛においての性別関係ない向き合い方…例えば嫉妬であったり、好きという感情のあふれ方がすごくきれいな形で描かれているなという印象を持ちました。友情にも近いし、兄弟愛、家族愛にも近いような表現がたくさん詰まってるので、素敵な作品だなと読んだときに思いました。

●同性が見てもカッコいいスーツの着こなし





――おふたりのスーツの素敵な着こなしもこのドラマの魅力だと思いますが、こだわりなどはあるのですか?

武田:スタイリストさんのセンスが抜群なので、もうそのまま身を委ねています。スーツもそうですし髪型もそうですし、衣装合わせのときからこの原作の世界観と、実写でできる最大限のものを準備してくださったので、そこの作り込みに関しては信頼していますね。

木村:タイトなパンツが結構あるんですけど、劇中でもスイーツをたくさん食べなきゃいけないので、体型の維持がちょっと大変でした(笑)。週3でジムに行ってる役で、上裸になって体を見せなきゃいけないシーンもあったので、合間にめちゃくちゃ鍛えたりしてましたね。

――サラリーマンの世界は芸能界にいらっしゃるとなかなか縁遠いと思いますが、その部分は演じてみていかがでしたか?

木村:僕、パソコンのいじり方が分からなかったんです。

武田:そうだったね。外川くんがパソコンを打ちながら周りの様子を見ているような描写だったんですけど、「ブラインドタッチができないからどうしよう…」という話をしていたのを耳にしました(笑)

木村:大学生のときはレポートを書いたりするときに結構打ってたはずなんですけど、思うように手が動いてくれなくて。だから、書類をずっと見てるというシーンに変えてもらいました(笑)

武田:僕は、サラリーマンの方が毎日スーツを着る生活というのは大変だなと思いました。やっぱりきれいにしなきゃいけないですし、そういう意味では素敵な衣装を用意していただいて、同性から見てもカッコいいと思ってくれるような着こなしを2人がしているので、そこも見ていただきたいなと思います。

木村:スーツへの憧れはありますよね。なかなか僕たちは着る機会がないので。



○■アラサー/アラフォーを演じる中で感じること

――今回はそれぞれアラサー、アラフォーと言われる年代の役ですが、そうした役を演じることによって俳優としてのキャリアを積み重ねてきた実感はありますか?

武田:僕はありますね。20代前半のときって、今36歳なんですけど、結構年上だなあと思ってたんですよ。いざ実際に自分が35を超えてくるとそんなこともないなと思ってたら、現場で20歳の方とかがたくさん活躍されていて、キャピキャピ感とかワイワイした感じについていけなくなっていたんです(笑)。静かに見守るという感じですね。今回演じる野末さんも「キャピキャピしてるのっていいよね」って憧れているシーンがあるんですけど、何の違和感もなく自分もそう思ってセリフを発していたので、僕もそういうところに来たのかなと思いました。

木村:僕は今28歳ですが、アラサーか…。でも、考え方は全く変わってないですし、このまま50代まで行って、一生ガキっぽさが抜けなくてもいいかなと思ったりします。でも、僕も現場で思いましたけど、年下の方が一生懸命働いている姿を見ると、ほっこりしますね。僕もそのくらいの頃に頑張って舞台とかでお仕事させていただいているときに、先輩たちから「あいつ頑張ってるな」って目で見られてたんだろうなという感情になりました。

武田:僕はさらにほっこりして見てるよ(笑)。今回も初めての助監督の方がいらっしゃったり、衣装部のスタイリストさんが初めての方だったりして、そういう人たちとみんなで一緒に作品を作ってるということにすごく新鮮な気持ちになったり、自分が初めて現場に入ったときのことを思い出しながらやったりしてましたね。

木村:でも僕、意地悪したくなっちゃうんですよ(笑)

武田:出たよ(笑)

木村:撮影で豆板醤とか、いろんな“醤”を使う料理が出てくる日があったんです。ヘアメイクさんに「今日は中華風な髪型にしてほしい」って言ってやってもらって、1日中それで過ごしてもらったり(笑)

武田:巻いてもらってかわいかったよね。

木村:でも、その日の現場はめっちゃ巻いたんですよ!

武田:現場が巻くのと、髪の毛巻くのは全然関係ないから(笑)



――今回演じられるのは、それぞれ29歳、39歳と、次の年代に上がる前のステップの年齢だと思います。

木村:僕は19歳のときから早く30代になりたいと思っている人間だったので。子供って言われるのが嫌で、言い方悪いですけど、「おまえらよりしっかりしてるぜ!」って思っていたんですよね。でも、実際に年が上がると、あのときに戻りたいとも思います。何の根拠もない自信というものが今よりもめちゃくちゃあったから、もっと無邪気に挑戦できたし、果敢に攻めていけたしと考えると、ちょっと奥手になってきているのかなと思います。

武田:いやいや、全然奥手じゃないから大丈夫ですよ(笑)。でも、僕もこれから39歳、40代を迎えるというところで、野末さんが悩んでる「もう若くない」とか「若い子と同じようにできない」というところを、役を通して寄り添ってみて良かったなと思います。若い頃みたいにうまくいかないっていうコンプレックスを持ってしまうこともあると思うんですけど、野末さんがそこに立ち向かったり、外川くんが引っ張って心を開かせていく過程が今回の作品では事細かく描かれているので、年代が変わったり、チャレンジできないなんて思っている方が見たときに勇気をもらえたり、チャレンジしてみようって何か一歩踏み出すようなきっかけになると思います。

●Snow Man岩本と「お互いキュンキュンだね」



――今回おふたりは、先輩・後輩の役柄ですが、実際に尊敬されている先輩、かわいがっている後輩を挙げるとすると、どなたかいらっしゃいますか?

木村:僕は作品に取り組んでいるときは無礼講だと思っていて、年齢の差はないと思って取り組んでいるので、あんまりそういうことは考えたことないのですが、声をかけられた言葉に燃えたのは市村正親さんです。舞台で息子役を演じさせてもらったんですけど、稽古にいらっしゃって初めて僕の芝居を見て、「20点」と言われたんですよ。僕も尖っていたので、「なにくそ!」という思いで20点から挽回するために、めちゃめちゃ精進したんです。それで千秋楽のときに「80点」と言ってくださって。そこで、「100点を取ったら終わるから、80点くらいがちょうどいいぞ。完璧なものほど面白くないから、そこに励んでいる姿がいいんだよ」っておっしゃってくださったのがずっと心の中に残っています。「先輩」というのはおこがましいですが、尊敬するのは市村さんですね。

武田:僕は後輩というわけではないんですが、Snow Manの岩本照くんですね。昔『理想の息子』(12年、日本テレビ)というドラマで僕はレギュラーキャストで出させてもらったんですけど、照くんは当時まだ1シーン出て帰ってという感じで、セリフもほとんどない役だったんですね。そのときに照くんが1人で待っているときに僕が話しかけたのを覚えてくれていて、何年か経って再度共演したときに「航平くんお久しぶりです。あの時はありがとうございました」と言ってくれたんですよ。そこから、連絡を取り合うようになって、今回の撮影のときには、照くんから「今キュンキュンものの映画やってます」って来たので、「僕も実はキュンキュンやってるんだよ」って返して、「お互いキュンキュンだね」「キュンキュンしながら頑張ろう」ってエールを送り合って撮影に臨んでいました(笑)。でも、木村くんもそうですけど、年齢や先輩後輩関係なくとても尊敬できるので、自分も刺激を受けていけたらなと思いますね。



○■全世代の人が共感できる作品に

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。では最後に、今回の作品の見どころをお願いします。

木村:たくさんあるんですよね。僕が関わってないところで言うと、何かに向かって全力で走ってる野末さんがカッコよすぎました(笑)。あとは外川の一節一節のセリフが本当に責任感のある言葉で、一歩間違えると僕が非難されてしまうようなものもあるので、大切に大切に言いました。野末さんに対して真っ直ぐ投げたようなセリフがたくさんあるところも魅力です。

武田:男女問わず、「こんな経験あったな」とか「こんな経験したいな」と思えて、全世代の人が共感できる作品になっています。友情であったり恋愛であったり家族愛というところに通じるような日常を描いてますので、一挙手一投足、一節一節を見逃がさずに見ていただけたらうれしいです。そうやって何度も見て楽しめるところがポイントかなと思います。





●武田航平1986年生まれ、東京都出身。01年に第14回JUNONスーパーボーイコンテスト審査員特別賞を受賞。08年『仮面ライダーキバ』に主人公の1人、紅音也/仮面ライダーイクサ・仮面ライダーダークキバ役で出演。その後、『精霊の守り人 最終章』『軍師官兵衛』(NHK)、『ここが噂のエル・パラシオ』(テレビ東京)、『戦国BASARA -MOONLIGHT PARTY-』(MBS)などのドラマ、『クローズZERO』『ROOKIES -卒業-』『HiGH&LOW THE MOVIE』シリーズといった映画などに出演する。

●木村達成1993年生まれ、東京都出身。12年に『テニスの王子様 2ndシーズン』でデビュー。『ラ・カージュ・オ・フォール』でグランドミュージカル初出演。近年は『エリザベート』『銀河鉄道の夜2020』『プロデューサーズ』『ジャック・ザ・リッパー』『SLAPSTICKS』『四月は君の嘘』など舞台を中心に活躍。『卒業タイムリミット』(NHK)などのドラマ、『お茶をつぐ』といった映画などにも出演する。