W杯は冬まで来ない…/原ゆみこのマドリッド

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「今、調子が良くてもねえ」そんな風に私が遠い目をしていたのは日曜日、スペイン代表がアルバニアに勝った記事を読んでいる時のことでした。いやあ、ルイス・エンリケ監督のチームが試合をするのも去年の11月以来、しかもこの各国代表戦週間明けにCL準々決勝で対決するチェルシー(アスピリクエタ、マルコス・アロンソ)とレアル・マドリー(カルバハル)、マンチェスター・シティ(ロドリ、ラポール)とアトレティコ(コケ、マルコス・ジョレンテ)の選手たちが肩を並べてプレーしているとなると結構、興味が沸いたりするんですが、でも本番、2022年のW杯カタール大会は11月21日に開幕ですからねえ。

おまけにその前、6月と9月にはネーションズリーグのグループリーグ6試合があるため、負傷中や回復直後といった理由で今回は呼ばれなかったジェラール・モレノ(ビジャレアル)、オジャルサバル(レアル・ソシエダ)、アンス・ファティ(バルサ)、ガヤ(バレンシア)らも控えていることを考えると、実際のところ、3月のスペイン代表メンバーとW杯用のメンバーはかなり顔ぶれが変わるんじゃないかと思ったりもしないではないんですが…。

まあ、そんなことはともかく、今週は私も家でTV観戦ばかりだったんですが、先にマドリッドのクラブから各国代表に派遣されている選手たちの動向を見ていくことにすると。すでにW杯出場をグループリーグ首位で決め、お気楽な親善試合にいそしんでいるスペインとは違い、やはり大変だったのはグループ2位でプレーオフに回ったチーム。ええ、準決勝が一斉に行われた木曜にはポルトガルvsトルコ戦を見ていたんですが、うーん、オクタビオ(ポルト)とディオゴ・ジョタ(リバプール)のゴールで2点先行されたトルコもユルマズ(リール)が1点を返し、終盤には途中出場した弟分ヘタフェのエネス・ウナルがフォンテ(リール)に蹴られ、ペナルティをゲットしたんですけどね。

残念ながら、ユルマズがPKを外してしまい、最後はマテウス・ヌネス(スポルティングCP)に止めの3点目を決められて、3-1で敗退することに。まあ、ヘタフェにはまだ1部残留の厳しい戦いが控えているため、ウナルが早帰りできるのは有難いことですけどね。逆にCL出場権ゲットが懸かったリーガ戦とCL準々決勝マンチェスター・シティ戦が迫っている、後半26分から出場したアトレティコのジョアン・フェリックスは火曜の決勝までポルトに滞留。後半ロスタイムにトライコフスキ(アルファイハ)のゴールでイタリアを2大会連続となる予選敗退に追い込んだ北マケドニアとの決勝に挑むんですが、あちらのゴールを守っているGKディミトリエフスキも今年になって、1つも白星がないせいで、なかなか残留が決まらないラージョのことが気になっているかも。

え、そんな中、在籍クラブのことなど、まったく気にかけず、母国代表一途になっている選手がいるんじゃないかって?いやあ、paron(パロン/リーガの停止期間)直前のクラシコ(伝統の一戦、マドリーvsバルサ戦のこと)では0-4とgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)を喰らったものの、マドリーは2位に勝ち点差9をつけて首位を独走。CLにしたって、16強対決PSG戦2ndレグで見せた強さを持ってすれば、幸い、イギリス政府とUEFAの計らいでロシアのウクライナ侵攻以来、元オーナーのアブラモビッチ氏への制裁処置でチケット発売禁止にされていたスタンフォード・ブリッジでの1stレグにもマドリーファン2000人超が駆けつけることが可能になりましたからね。今回、フランス代表に行っていないベンゼマが予定通り回復すれば、ベイルが何をしようが、マドリーにほとんど支障はないというのは事実とはいえ…。

ただ、物事には限度というものがあって、彼は今年の6月に契約が満了するまで、年棒1300万ユーロ(約17億円)ものお給料をクラブからもらっている選手。それが日曜のクラシコ当日、背中の痛みでベンチ入りを見送った後、火曜にはウェールズ代表で普通に練習、それどころか、木曜のオーストリアとのプレーオフ準決勝では直接FKで先制点、2点目も挙げて、2-1の勝利の原動力となっているんですよ。バルサ戦ではフル出場、マドリーファンに大敗を謝るため、サンティアゴ・ベルナベウのピッチをクルトワ、ミリトン、バルベルデらと一周していたオーストリア代表キャプテンのアラバなど、試合後は普通にベイルに挨拶していたものの、正直、思うところはあったのでは?

更に間が悪いのはこのウェールズがいるプレーオフのグループで、もう1つの準決勝がスコットランドvsウクライナと戦争の渦中にある国のチームを含むため、この3月にはプレーできず。6月まで延期されているため、要はウェールズも決勝の相手が決まるまで待たないといけないんですが、うーん、となると、今季、マドリーで4試合出場しただけのベイルはそれまでバルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場で調整に専念することになる?何せ、このウェールズの試合では、当人、本気でプレーすれば、まだまだ決定的な仕事ができるFWだということがバレてしまいましたからねえ。とりわけ、ベンゼマの負傷欠場が響き、宿命のライバルに一矢も報えなかった後だけに、ファンが怒るのももっともだったかと。

ちなみに最近のマドリーでお給料とパフォーマンスが一致しないのはベイルだけではなく、同じくチーム内最高年棒をもらっているアザールも金曜に足首に入っている補強プレートの除去手術をすることを発表。ベルギー代表に呼ばれていなかったのはGKクルトワ同様、ロベルト・マルティネス監督の主力温存策のせいだったんですが、最近はベンチにいてもアンチェロッティ監督に使ってもらえないため、11月のW杯前に満を持して、2017年にケガして以来、度々、不具合を起こしていた部位を完璧に治すことにしたのだとか。まあ、彼の場合、前線の左サイドのレギュラーであるビニシウスが木曜のW杯南米予選チリ戦でブラジル代表初ゴールを挙げるなど、好調を維持していますからね。5週間程、リハビリでいなくても大丈夫ってことでしょうか。

そして金曜にはベンゼマだけでなく、エムバペもベンチ観戦だったフランスvsコートジボアールの親善試合でグリーズマンが後半30分までプレーするのを、ケガだけはしないようにと祈りながら見ていたところ、ペペ(アーセナル)のゴールでビジターチームが先制したものの、元アトレティコのテオ・エルナンデス(ミラン)のクロスをジルー(同)がヘッドで決めて同点に。終盤間際には、来季はマドリーが狙っているという記事をとりわけ、試合のないミッドウィークの紙面などで目にするチュアメニ(モナコ)がセットプレーから勝ち越し点を挙げて、フランスが2-1で勝利した後、いよいよ翌土曜にはスペイン代表がプレーしたんですが、スタメンにビッグサプライズがあったんですよ!

それは今回、いえ、長年、代表常連だったGKデ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)が呼ばれなかったのは先日、オールド・トラフォードでのCL16強対決2ndレグで古巣のアトレティコに負けたせいだけではないとは思うんですけどね。代わって第3GKとして、ダビド・ラジャ(ブレントフォード)が初招集されただけでも世間は意表を突かれていたんですが、まさか、試合当日、先発予定だった第2GKロベルト・サンチェス(ブライトン)が家族の事情で緊急離脱。そのせいでルイス・エンリケ監督が、ユース時代を会場のRCDEスタジアム(エスパニョールのホーム)の近所にあるUEコルネジャで過ごし、16才からイングランドに渡った26才の新人をいきなりデビューさせるとは!

いやあ、これには当人も「En la charla del míster dijo el once titular y me quedé un poco parado/エン・ラ・チャルラ・デル・ミステル・ディホ・エル・オンセ・ティトゥラル・イ・メ・ケデ・ウン・ポコ・パラードー(試合前ミーテインングで監督がスタメンを告げて、自分はちょっと固まってしまった)」と告白していた程だったんですけどね。相手にはセリエAでプレーしている選手が多いとはいえ、これまで1度も負けたことのないチームですし、アルバニアでは1000人に1人ぐらいの名字だったため、同国サッカー協会から声を掛けられ、曾祖父の代まで遡って、ルーツがないかどうか探したなんていう、直近親族がスペイン人ばかりのバリウをラージョから招集。それだけメンバー集めに苦労しているということですから、私も18年ぶりとなるカタルーニャ州(スペイン南東部、バルセロナのある地方)でのスペイン代表戦に嬉々として駆けつけた大勢のファン同様、すぐにゴールを見られると思ったんですが…。

開始からしばらく、ほぼボールを独占していたスペインだというのに前半はまったく冴えなくてねえ。ええ、フェラン・トーレスやペドリら、バルサ勢がシュートを撃っていったんですが、もしや、前日、ラス・ロサス(マドリッド近郊)での練習中、ジョレンテとの接触プレーで、ご当地選手であるRdT(ラウール・デ・トマス)が肩を痛め、離脱してしまったのが大きかった?フェランと3トップを組んだモラタ(ユベントス)、サラビア(スポルティングCP)も頑張ったんですが、彼らの攻撃力が発現するには後半19分以降、5人の選手が交代するまで待たされることになりましたっけ。

それは30分、モラタから代わったジェレミー・ピノ(ビジャレアル)のラストパスをフェランがtaconazo(タコナソ/ヒールキック)で撃ったシュートはGKベリシャ(トリノ)に弾かれてしまったものの、諦めずにまたピノがスルーパスを入れたところ、今度はフェランもネットを揺らすことに成功。この時点で、1-0ではちょっと寂しいとはいえ、スペインの勝利を確信したファンは多かったかと思いますが、一筋縄ではいかないから、サッカーは面白い。何と35分にはエリア内に落ちて来たボールをクリアしようとして、パウ・トーレス(ビジャレアル)がヘッドに失敗。これがウズニ(グラナダ)の顔に当たって、同点ゴールになってしまうなんて、ホント、「no es ni un fallo, sino mala suerte/ノー・エス・ニ・ウン・ファジョ、シノ・マラ・スエルテ(ミスじゃなくてアンラッキーだった)」(ラジャ)ですよね。

でも大丈夫。地元開催のメンツがあったか、45分にはペドリから、途中出場の大先輩、今回はブスケツ不在で代表キャプテンも務めるジョルディ・アルバにボールが通ると、やはり近所のオスピタレンセでサッカーを始めた左SBが、エスパニョールとバルサのカンテラ(下部組織)で育ったダニ・オルモ(ライプツイヒ)に繋ぎます。そのvaselina(バセリーナ/ループシュート)がすっぽりゴールに入ってしまうんですから、ビックリしたの何のって。スペインが2-1で勝ったため、「Me hubiera fastidiado mucho no ganar por el ambiente único que hemos vivido/メ・ウビエラ・ファスエィディアードー・ムーチョ・ノー・ガナール・ポル・エル・アンビエンテ・ウニコ・ケ・エモス・ビビードー(負けていたら、自分たちが体験した唯一の雰囲気に申し訳なくて、とてもイラついていただろう)」と、ルイス・エンリケ監督も面目を保てましたっけ。

そして試合後、バルセロナ泊となったチームは日曜にもRCDEスタジアムで練習。お昼は街中の洒落たレストランで代表合宿恒例の外出ランチをした後、せっかくグラウンドに新機軸の大型スクリーンを設置して、その場でビデオを見て動きの修正ができるようになったマドリッドの協会施設には戻らず、月曜には次の親善試合が待つラ・コルーニャ(スペイン北西部)に移動することに。リアソル(RFEF1部のデポルティーボのホーム)での前日セッションを終えてから、火曜午後8時45分(日本時間翌午前3時45分)のアイスランド戦に臨むことになりますが、ちょっと気になるのはアルバニア戦に出なかったアトレティコ勢のコケとジョレンテは多分、こちらでの出場になりそうなこと。

いやまあ、累積警告のコケは現在、アルゼンチン代表参加中のコレアと共に土曜のアラベス戦は出場停止ですし、木曜に父親が亡くなったシメオネ監督がずっと不在だったマハダオンダ(マドリッド近郊)での先週のセッションにはもうクーニャとヴァスも負傷が治って参加していますからね。特に問題になることもないはずですが、何より怖いのは代表戦で新たにケガすることかと。その辺に関してはどこも同じなんですが、できれば、木曜のペルー戦で1-0と勝ち、滑り込みでW杯参加を確定させたウルグアイ代表のルイス・スアレスやヒメネスやヘタフェのダミアン・スアレス、オリベイラらには早く帰って来てもらいたいところかと。

ちなみにお隣さんではビニシウスが累積警告になったそうで、もう月曜にはブラジルからマドリッドに着くようですが、カセミロ、ミリトン、ロドリゴはまだ大西洋の向こう側。この先はノンストップでタイトルレースが始まるため、どのチームの監督も今は選手たちが無事に帰還してくれるのをひたすら祈っているんじゃないでしょうか。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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