村元哉中&盒饗臺紂転倒前にあった小さな異変。「ガッと緊張が上がってしまった」

12月23日、全日本選手権リズムダンスで演技する村元哉中・郄橋大輔組
12月22日、全日本フィギュアスケート選手権開幕前日。アイスダンスの新星として"かなだい"と呼ばれる村元哉中・郄橋大輔組は、グランプリ(GP)シリーズ・NHK杯、ワルシャワ杯とパーソナルベストを更新してきたいい流れをつなげていた。
曲かけ練習、リズムダンス(RD)の『ソーラン節&琴』の衣装を着たふたりは、氷の上で混ざり合うような調和があった。それぞれが赤と黒を基調にした衣装だが、そこに白も加えて襟(えり)や帯で色をシェアし、一体となったイメージを強くさせた。
村元は気力に満ちた表情で語っていた。
「(帰国後の)隔離(生活)や先生(マリナ・ズエワ)が来られないとかあったんで、状況はベストじゃなかったですけど、できることをしっかりやってきて。(全日本選手権開幕前に)今はさいたまのリンクを見渡しながら、ワクワクすると言うか、いよいよ始まるんだなという感じです!」

途中転倒するミスがあり、得点は自己ベストから10点以上下回った
【全日本の"魔物"がふたりを襲う】
ズエワコーチは来日できなかったが、それぞれのシングル時代の恩師である濱田美栄コーチ、長光歌子コーチのふたりが助っ人に立つことになった。心強い味方だ。
「『リンクサイドに立ってくれませんか』っていうお願いを、喜んで引き受けてくれたのがうれしかったですね。なんだか懐かしくて、心強く、でも新鮮さもあって。不思議な感じですね」
郄橋も笑みを洩らしていた。順調なはずだった。
ただ、全日本には「魔物がすむ」ということか。
12月23日、5分間練習に立ったかなだいは、やや動きが固かった。村元が郄橋の目を見つめ、「楽しもう」と励ますと、郄橋も笑みを返していた。しかし、ほおは強張った印象を受ける。
【「もっといい演技を」という気負い】
「自分のなかでは緊張(度)が高くて、(5分間練習は)ちょっとバタついたかな、と」
郄橋はその心境を吐露している。
「北京オリンピック(をかけた戦い)というのは頭のどこかにあったと思いますけど。今シーズンは2戦を終えて、いい演技ができていたので、"それ以上のものを"という気負いもあったかもしれません。それに、全日本という舞台でいい演技を見せたかった。いろいろなことが重なったかなと......」
リンクに入って演技を始めるまで、前の組の採点に思った以上に時間がかかり、間が空いた。そして曲が始まって、すぐだった。村元が振り上げた足を郄橋が潜るシーンで、小さな異変があった。村元は「少しバランスを崩し、ガッと緊張が上がってしまった」と説明したが、そのミスとも言えないわずかな狂いが、"細部がものをいう"アイスダンスで命取りになるということか。
パターンダンス・ステップシークエンスで、予期せぬ事態が起こった。郄橋がツイズルに入るところ、お互いが「離れないように」という意識が強く、交差して重なり合い、ふたりとも転倒した。ふたりが触っていないといけない規定で、カーブの調整を「正確にできるように」と積み重ねてきた。それだけに不安要素のひとつでもあったが、練習では転倒するようなミスにつながったことはなかったのだ。
「慎重にいきすぎたかもしれない」
ふたりはそろって、悔しがった。そしてミスは、のちの演技にも響いた。
「やっちまったなって」
村元は、努めて明るい声を出した。
「少し動揺してしまったのか、そのあとにも引きずってしまって。バラけてしまったところがありました。比較的、落ち着いて臨めたとは思うんですが、全日本の特別な緊張感というのか、言葉で表しにくいんですが」
続くローテーショナルリフトも、シークエンシャルツイズルも、本来の出来には程遠かった。GOE(出来ばえ点)をたたき出せていない。ミッドラインステップシークエンスは盛り返したが、リカバリーに時間がかかってしまった。
「(キスアンドクライで長光コーチと何を話したか? という質問に)どんな言葉を交わしたのか、あまり覚えていなくて。悔しすぎて、耳に入ってきませんでした」
郄橋は正直な気持ちを打ち明けた。五輪出場をかけた全日本の怖さか、あるいは何かいたずらか。
「(シングルでは過去3回、五輪に出場しているが)ふたりでプレッシャーを分け合える点で、(アイスダンスは)違うかなと思いますが。お互いがひとりで(演技を)背負うのではなく、ふたりで調子を合わせないと、いいものはできないので。そこは違うんですが、でも、緊張しました......」
【起死回生に挑む】
得点は63.35点だった。ワルシャワ杯で75.87点という自己新を打ち立てただけに、満足できるはずはない。
ただ2位につけ、首位には4.81点差と、十分に逆転可能なスコアとも言える。
ーー逆転は可能か?
記者からの問いに、郄橋は一瞬、逡巡した。しかし、横に座った村元がすかさず「大丈夫」と念を押し、「自分たちの演技に集中したら、結果はついてくるはずで。やるべきことをしっかり」と笑みを作った。前へ突き進むことで、道を切り拓いてきたカップルだ。
そもそも、ここまでたどり着いたことがひとつの快挙である。郄橋に至っては、全く別競技に向き合って、2年目にすぎない。にもかかわらず、その体は筋骨隆々で、土台からアイスダンサーになって、全日本でも異彩を放っていた。
「全力で楽しみたい」
そう言っていたふたりが、その境地に立ち返れたらーー。小説や映画でも描けない物語を現実に作ることができるだろう。12月25日、フリーダンスは『ラ・バヤデール』で起死回生に挑む。
