米国のファーウェイ規制は失敗? テクノロジー世界を分断しはじめている全世界のHMSユーザー4億人の意味を考える

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●GMSを利用できないファーウェイの挑戦的戦略
ファーウェイは6月2日、オンライン配信にて「新製品発表会」を開催し、
・HUAWEI P40 Pro 5G:5G通信対応のハイエンドスマートフォン
・HUAWEI P40 lite 5G:5G通信対応のミッドレンジスマートフォン
・HUAWEI P40 lite E:安価なエントリークラススマートフォン
・HUAWEI Free Buds 3i:ノイズキャンセリング性能を強化した完全ワイヤレスイヤホン
・HUAWEI Matebook X Pro:極薄筐体と超狭額縁ディスプレイのモバイルノートパソコン
・HUAWEI Matepad Pro:画面占有率90%を達成した狭額縁10.8インチタブレット
これらの製品を発表しました。

超高性能機種からリーズナブルなローエンド機種まで幅広くラインナップするファーウェイらしいオールレンジ戦略ですが、その販売戦略に大きな影を落としているのは米国と中国の貿易摩擦です。

2018年頃より激化し始めた米中貿易摩擦は通信関連機器の輸出規制へと発展し、急成長を遂げていたファーウェイがその矛先となったことは記憶に新しいところです。

この規制によってファーウェイは米国メーカーとの取引や部品・ソフトウェアなどの供給を大きく制限されることとなり、現在もその規制は続いています。

ファーウェイ製品において、この規制で最大の問題となったのは「Googleの製品及びサービスを利用できない」という点です。

例えば今回発表されたタブレット端末やP40シリーズのスマートフォンでは、GMS(Google Mobile Service)を利用することができません。

GmailやYouTube、Googleドライブといった各種サービスはブラウザから利用することができますが、各種アプリや映画、音楽などの入手手段となるGoogle Playが使えないのは多くの人にとって大きな障害となります。


GMSはAndroidスマートフォンユーザーにとって最も価値のあるサービスとも言える


当然ながら、ファーウェイがこの問題に対して何も対策を行わないはずもありません。
規制緩和のための交渉を根気強く続ける一方で、独自のモバイルプラットフォーム「HMS(Huawei Mobile Service)」を立ち上げ、その拡充を急いでいます。

HMSは現在全世界で4億人のユーザーがおり、170カ国で利用されています。
アプリ数も急速に増加しており、その開発者数は140万人、HMS用開発キットを利用したアプリ数は6万を超えると言われています。


LINEやAmazon、メルカリなど、日本人にも馴染み深いアプリの多くはすでにラインナップされている



●米国の目論見は外れた? 三つ巴の戦いへ
そもそも、ファーウェイが米国から規制の矛先として吊るし上げられてしまった理由は、スパイ疑惑などよりも、テクノロジー企業としての急成長を背景とした、国家を巻き込んだ通信業界での覇権争いにありました。

米国政府は、ファーウェイ(および中国)が自国のサービスや製品を脅かす存在となりつつあることに対して、その影響力を下げる目的で規制をかけました。
しかし、その目論見は大きく外れたと結論付けても良いでしょう。

ファーウェイ製スマートフォンとタブレットの2020年第1四半期グローバル出荷シェアは、GMSが使えないにもかかわらず2位や3位となっており、通信基地局などのシェアでも非常に大きな比率となっています。

これだけ大きなマーケットシェアを確保していることから、HMSはアップルのApp StoreやGoogleのGMSに並ぶ「第3のサービスプラットフォーム」として十分に機能するほどになっており、世界を三つ巴の戦いに引き込む大きな流れも作り出しています。


HMSがGMSなどと並ぶサービスプラットフォームとして一般に広く認知されるようになるのも時間の問題だろう



新製品と人気アプリのタイアップによるキャンペーンなどで認知の拡大も図る



●貿易摩擦とサイバー冷戦時代への危機感
米国政府による規制措置は2019年より行われていたものの、その施行には一定の猶予が与えられ、これまで完全な規制には至っていませんでした。

しかし米国政府は5月15日に同社への規制を強化。6月30日にも「安全保障上の脅威」として改めて認定し、同社の通信機器を政府の補助金等によって購入することを禁じる新たな規制も施行しました。

この規制の強化はファーウェイだけではなく、同じく中国企業であるZTEにも及んでいます。

米国政府が規制を強化すればするほど中国との溝は深くなりますが、中国企業はすでに米国企業に対抗できるほどの技術力と体力を付けているため、ますますテクノロジー世界を分断させていく可能性が高まります。

今回の製品発表会ではHMSの説明に割く時間も多く取られ、開発者インタビューの映像なども多く紹介されました。HMSのマーケットとしての急成長ぶりも公開し、アプリ開発者支援にも積極的であることを強くアピールしています。


有力なアプリ開発企業を取り込み、着実に成長しているHMS



米国政府が規制を強化するほどにファーウェイも独自路線を強化し、テクノロジー世界は分断されることになります。それは恐らく世界のモバイル市場やテクノロジー業界にとって大きな損失につながるでしょう。

かつて1960年代から1990年代まで、日本と米国との間で様々な業界を巻き込んで長く続いた日米貿易摩擦がありました。
当時の日本もまた米国による規制や激しいバッシングに遭いましたが、それらに屈することなく世界へ進出し続け、一時は電子立国とまで呼ばれるほどの栄華を誇りました。

中国もまた、その道に習うことは間違いないでしょう。

テクノロジーの世界を舞台にした貿易摩擦は、その裏でサイバー冷戦時代への突入をも予見させます。日増しに世界の分断、対立という構造が強くなっていく中、今後の世界情勢に危機感を覚えるばかりです。


執筆 秋吉 健