1年前はプロ志望ではなかった― 楽天が1位指名へ、平沢大河がつかんだ自信
いよいよ運命のドラフト会議、仙台育英・平沢の思いとは?
ドラフト会議を翌日に控えた21日、仙台育英・平沢大河は約4時間、身体を動かした。
仙台育英の野球場周りは1周600〜700m。それを平沢はこの日、20周も走った。最後はフラフラになりながらも完走。ちょっと落ち着くと、後輩に混じってノックを受けた。ポジション別のノックで、ミスをした人がノッカーを務めるルール。ショート組に入った平沢は1度、ノッカーを務めた。
その後、新聞社の取材を受けていたが、その間も手にはバットが握られていた。取材が終わると、正捕手だった郡司裕也とティーバッティングに励んだ。
「スイング、遅い。重過ぎ」
「キツイよ、キツイよ」
「エグい、エグい」
時折、顔を歪めながらも、そんな気持ちを振り払うかのようにフルスイングを繰り返した。
「オレら、まだ試合してたもんな」
東北大会準々決勝で敗れた後輩たちはすでに“冬”に突入。トレーニングメニューが多くなった。そんな後輩たちを郡司と眺めながら、平沢は1年前を思い返していた。
昨年の今頃、平沢はまだプロ志望ではなかった。自分の技量に自信がなかったのだ。それが、11月の明治神宮大会で放った本塁打をきっかけに自信をつかみ、プロへの思いが湧いてきた。そこからは、注目の的にもなり、今夏の甲子園でかけた3本のアーチは強烈なインパクトを与えた。まだ荒い部分はあるものの、守備力も向上。時々、抜くこともあったが、隙を突いた走塁もできる。
1年前から見違えるほどになった平沢の「野球力」
「夏までは短かったなと思いますね。でも、夏が長かったので、明日がドラフトかと思うと、早いな、という感じはありません」
甲子園決勝まで戦い、U18日本代表ではショートのレギュラーとしてクリーンナップも打った。国体にも出場。長い長い“夏”を送り、ほんの1年前まで自信を持てなかった「野球力」は、見違えるほどになった。
17時30分。約24時間後には名前が読み上げられている可能性がある。
「ドキドキ感は、ないですよ」
冷めているわけではない。地元の楽天が1位指名を明言しており、育成方法まで報じられ、「楽天なのかな」と気持ちは落ち着いているようだ。
「評価だけが上がっていく感じですよね」と、報道には戸惑いの方が大きかった。それが素直な心境で、「プロってどんな感じなんだろう?」と不安も抱いた。それでも、ここ数日は「入寮っていつですか?」、「新人合同自主トレってきついんですかね?」といった、プロ入り後をイメージした発言が増えてきた。
よほど、疲れ果てたのか、この日の練習の終わり頃には「帰るの、しんどい」とも言った。それでも、最後に7メートルほどのロープを5回も上り下りした。
「よく、眠れそう?」の質問に「ぐっすりですね」と答えた平沢。ドラフト前日とは思えない、ハードな練習を終え、自転車で自宅へ帰って行った。
指名を受けることは確実。公言している楽天の単独指名となるのか、はたまた――。
高橋昌江●文 text by Masae Takahashi