ブースを囲む約15センチのコンクリート壁の厚みが、外部から完全に遮断して一人になってホッとできる空間を作ると説明する設計者の小林さん。16日、東京都千代田区のJR秋葉原駅中央改札口横の有料公衆トイレ「オアシス@akiba」で。(撮影:佐藤学)

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総工費約9000万円をかけて建設、東京都千代田区が外部業者に管理・運営を委託する有料トイレ「オアシス@akiba (オアシスアットアキバ)」が16日、電気とITとオタクの街秋葉原にオープンした。管理者がカウンターに常駐し、利用料金100円で「安心」と「清潔」が買える都内初の区営有料トイレだ。

 「1回の使用料100円。1日の利用客を80人から100人を見込んでいますが、もちろん採算は取れません」と区の担当職員は言うが、物珍しさも手伝ってか、開業初日はオープン後5時間で140人が利用したという。同区が初めて有料トイレを設置した背景には、公衆トイレでは、毎日清掃しても、一部のマナーの悪い利用者のために、ほかの利用者が安心して使える快適で清潔なトイレを維持することはできないという結論がある。

 同区環境土木部の道路公園課・土本惠介課長は「区は毎年、区内30カ所の公衆トイレの維持に約5000万円の費用をかけ、毎日1─2回、1年365日の清掃を続けてきましたが、その努力は、一部の心ない人による落書きや破壊行動などの繰り返しによって踏みにじられてきました」と公衆トイレの現状を語る。2003年に区民と学識経験者によって作られた「公衆トイレに関する検討協議会」の調査によると、女性の利用者は3%に過ぎず、公衆トイレは「暗い・くさい・汚い・怖い・壊れている」の5Kという言葉で表現されていた。

 治安の悪化、老朽化、バリアフリーの不十分さなど数多くの課題が挙がり、これからの公衆トイレのあり方として、欧米などで一般化している有料トイレの導入が提案された。管理者を常駐化させることで、「安全」と「清潔」がある程度保証される代わりに、いかにして多くの利用者に有料トイレを受け入れてもらうかが今後の焦点となる。人件費を含めた管理コストを抑えることは言うまでもない。

無料の電気店と有料の「オアシス@akiba」  
 
 有料トイレの利用について、アキバで働くメイド姿の女性は「電気店の中に、新しくて清潔な無料トイレがありますから、アキバに来る人が有料トイレを使うかはなんともいえません」と「オアシス@akiba」と道を挟んでそびえ立つ大手電気店を指さした。新しくて清潔、しかも無料で利用できるトイレがすぐそばにあるのに、100円払ってでも有料トイレを利用してもらうためには、当然そこに何かしらの付加価値が求められる。

 この課題に対し、同区が出した答えは、協賛・協力企業を募ることで管理コストを圧縮し、企業が提供するサービスでトイレ利用客以外にも、人が集まる魅力的な場所にするということだ。16日に開業した区営有料トイレには、協賛企業などの情報カウンター、喫煙室、メッセージウォールが設置されており、将来的には広告・宣伝による収入などでトイレの管理費を圧縮しようという考えもあるという。
 
 また、付加価値という点では、「オアシス@akiba」の設備を挙げることができる。これまで数多くのトイレ設計に携わってきた設計事務所「ゴンドラ」の小林純子さんは、商業施設のトイレとはひと味違った設計思想を、この最新の有料トイレで表現してみせたという。一歩内部に足を踏み入れると、高い天井に向かって伸びる細長い磨りガラスの窓と、そこから差し込む自然光に、利用者はある種の開放感を覚える。さらに、商業施設のトイレとの大きな差は、個室空間の広さだ。

 独立した個室をデザインした小林さんは、ブースを囲む約15センチのコンクリート壁の厚みを指して、「コンクリート壁で完全に独立した空間に仕切るデザインが可能になったのは、管理者が常駐し、安全が確保されたおかげ」と語った。高級感あふれる壁面素材が張られた個室内に入ると、外部からは完全に遮断され、ホッとできる。一般的に、商業施設のトイレは、全体として部屋のように設計されてはいるが、壁の厚さは通常4センチほどで、中には薄いパネルを挟んで複数のブースが隣同士に並んでいるところもあり、独自の個室空間と呼ぶにはほど遠い。

 開業したばかりの有料トイレの女性用には、化粧コーナー、姿見、着替え台などが備え付けられている。オープニングセレモニーを前に、見学に訪れた女性に、有料トイレと電気店などのトイレのどちらを利用するかをたずねると、「とにかく、ここを1度利用して、比べてみる必要がありそうね」と答えた。【了】

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