約825億円の賠償金以上に痛かったのが、株価への影響と“パクリ”メーカー扱いされたことによるイメージダウンだ

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8月24日、スマホのデザインや技術特許を侵害したとして米アップルと韓国サムスン電子が互いに訴えていた裁判で、米カリフォルニア州北部連邦地裁はアップルの主張をほぼ全面的に認め、サムスンに約825億円の賠償支払いを命じる評決を下した。

アップルがサムスンに侵害されたと主張していた7件の特許のうち、iPhoneの形状のデザインなど6件が認定され、一方、サムスン側の通信機能に関する特許侵害の訴えは棄却。この判決を受け、アップルは対象となるサムスン製のスマホの販売差し止めの仮処分申請を行なった。

これにより、米国内でサムスン製品はアップルの「模造品」と判断されたことになる。825億円という巨額の賠償金もさることながら、世界最大のスマホ&タブレット市場であるアメリカでのイメージダウンによる打撃はその比ではない。大手証券会社アナリストのA氏がこう話す。

「この判決を受け、サムスン株は一時8%も下落。時価ベースで約1兆円が一瞬で吹き飛んだことになります。時価総額13兆円ほどのサムスンにしても1兆円の損失は痛いですし、この株価暴落により『サムスン株は危険』と投資家を遠ざけることになれば、ダメージはますます大きくなる。同社株を買い支える韓国系資本や銀行、投資家にとっても耐え難い損失となるでしょう。しかも、今回の判決では『意図的侵害』と認定されているため、懲罰的な意味も含め、最終的な損害賠償額は3倍近く膨れ上がる可能性もあります。そうなれば、また株価に影響する」

さらに、このアップルとの訴訟での苦戦は、サムスン最大の後ろ盾、韓国の李明博現政権の失策として大きな火種となりかねない。

「サムスンは、李明博政権が国中の富をつぎ込んで世界企業に成長させた国策企業であることは世界中の知るところ。つまり、憎きニッポン家電メーカーを追い落とし、世界一の家電メーカーとなったサムスンの成長は、現政権の最大の成果といってもいい。その威信をかけたフラッグシップ製品であるスマホがパクリ扱いの判決を受け、大損失を被ったことは、現政権の無能さを示しただけでなく、韓国という国そのものを“ニセモノ”と否定、侮辱されたに等しいのです」(A氏)

確かに、国民感情はそうなるかもしれない。しかし、「国営企業」と皮肉られるほど密接な関係を持つだけに、今回のピンチも国が助ければいいのでは?

「今年は韓国大統領選挙の年。韓国では前任大統領に死刑判決を下すこともあるほど、選挙後には利権や産業構造が激しく入れ替わる。今年もすでに李明博大統領の側近や実兄が収賄で逮捕されるなど、その兆候が見られます。政権交代後、サムスンへのいきすぎた支援と損失に対して非難が集中し、投資や支援が大幅に減らされる可能性もあるでしょう」(A氏)

今後のサムスンの訴訟の行方が、李明博政権の命運をも握っているのだ。

(取材・文/近兼拓史)

■週刊プレイボーイ39号「サムスン大崩壊のシナリオ!!」より