無一文の大学生が町家を水族館に!? 福井・小浜の珍しい水族館、世界に一つだけの塗り箸制作体験、鯖街道の御食国など 小浜観光レポ 第2弾

福井県小浜市は、歴史的な建物が多く残る小浜西組周辺など、家族や友人たちとの週末観光に訪れるには非常に魅力的な場所です。そんな小浜の古い町家に、2026年5月、畳の部屋に水槽が並ぶ小さな水族館ができました。つくったのは福井県立大学の学生。「無一文だけど水族館をつくりたい」と言い続けた学生と、空き家を持て余していた物件オーナーの願いが偶然出会って動き出したプロジェクトです。
さらに、京都と若狭を結んだ「鯖街道」の歴史を深く学べる入館無料の「御食国若狭おばま食文化館」や、自分だけのオリジナル箸を作る「若狭塗箸研ぎ出し体験」など、小浜に行った際に楽しんでほしい観光情報をお届けします。大人も子供も夢中になれる、歴史と若き情熱が交差する小浜の街歩きモデルコースとしてご紹介します。
【参考記事・前回のレポ】 福井なのにゴリゴリ関西弁? 800年生きる人魚伝説、レトロ建築の町並み「小浜西組」、町家カフェで非日常を!週末観光に最適な小浜の歩き方
https://tetsudo-ch.com/13033162.html
古い町家の畳に水槽!学生達で運営する「おばま水族館」
小浜西組の三丁町に、2026年5月1日に「おばま水族館」が開館しました。古い町家をそのまま使った建物を活用しています。

1階の展示スペースは、土間を打ちっぱなしのまま水槽が置かれています。

階段を上がった2階は、展示スペースが続きます。2階は畳敷きの和室に小さな水槽を並べて座って眺められるようにしてあります。

水族館全体で、水槽は約30個、展示する生きものは約60種いるそうです。
小浜湾のフグ、市内の河川にすむアラレガコのほか、クマノミなどの熱帯魚もいます。イサザ漁で実際に使われていた網も展示されており、魚の形をかたどったドアなど、遊び心のある造作も見どころです。

「無一文でありながら、水族館を作りたい」
この水族館を立ち上げたのは、福井県立大学 海洋生物資源学部 先端増養殖科学科の眞壁喜一郎(まかべ きいちろう)さんです。取材時点で大学4年生。大阪・高槻の出身で、小浜に来て2年ほど経ったころ、きっかけは2つの願いが偶然出会ったことでした。

三丁町のこの建物周囲はほとんど空き家になっていたそうで、通りの正面にある物件のオーナーは「このままではだめだ。何かやりたいが、アイデアがない」と考えていたといいます。その一方で眞壁さんは「無一文でありながら、水族館を作りたい」と言い続けていたそうです。この2つがマッチングされ、プロジェクトが動き出したそうです。
外観の工事や水族館の設備にかかる費用は全てオーナー側が負担し、魚の調達やグッズなどの運営費は学生側が持つ、という形でこのプロジェクトが動き出し運営されています。

水槽ひとつひとつに、担当の学生がいます
この水族館の面白さは、福井県立大学の小浜キャンパスにいる学生たちが多く関わっているという運営の仕組みにもあります。館内にある水槽ひとつひとつに、担当の学生がついているのだそう。

水槽をレンタルして自分の好きな生きものを展示できるという仕組みもあるそう。だから水槽ごとに個性があり、手書きのポップが添えられています。

現在は、およそ40人の学生がこの水族館に関わっています。小浜キャンパスには2〜4年の3学年、各学年80〜90人いるので300人弱のうち1割以上の学生が、この水族館に何らかの形で関わっているそう。水族館の隣の建物が学生の居住空間になっており、1階にキッチンとシャワー、2階に居室があるそうです。

なぜ、水族館だった?
眞壁さんに、水族館を作ろうと思ったきっかけを尋ねました。
「ビーカーを持ってきて、メスシリンダーを持ってきて、こうやって魚を検査するんです」と説明しても、多くの人にはピンとこない。けれど、「魚を育てるという営みをいちばんわかりやすく見せられるのは、水槽を管理することではないか」と考えたのだといいます。学生の拠点として立ち上げた場所なので、”学び” からは絶対に外さない。その一点を見定めていった結果が、水族館という形だったそうです。

小さい頃から漁師になりたかったという眞壁さん。
漁師になったときの副業を持ちたい、漁師が暮らす場所で暮らしたい。その思いから、シェアハウスを立ち上げましたが、現在は後輩に引き継いだそうです。そして、同じようにこの水族館を立ち上げました。「50代になってから立ち上げたらいいな、と思っていたのが、偶然早まった感じですね。」

「町家の文化財としての雰囲気と、学生たちの魚への無邪気な情熱。その2つがちょうど融合した施設だと自負しています」と話してくれました。
おばま水族館は「小浜西組の街歩きのベース」に最適!
学生たちが運営する「おばま水族館」の入館料(一般700円)は、当日中であれば何度でも再入館(外への出入り)が可能です。
小浜観光の一番の目玉ともいうべき小浜西組の古い町並みやカフェを散策する合間に、涼みがてら水族館に戻って休憩する、といった賢い使い方ができるのが最大のメリットです。
「おばま水族館」
住所 福井県小浜市小浜香取55
開館時間 10:00〜16:00(最終入館16:00)
休館日 月・火・水曜(木・金・土・日のみ開館)
入館料 一般700円/高校生以下300円/未就学児無料/小浜市民100円
入館後も当日中であれば再入館(外への出入り)が可能。

学生達が学ぶ福井県立大学の海洋生物資源学部では、海産物や水産資源に関する研究などが行われています。小浜がある若狭地方は、複雑に入り組んだリアス海岸などの天然の地形や入江を活かした良港がある場所として古くから栄えてきました。
「御食国(みけつくに)若狭おばま食文化館」食の国を感じる!
古くから多くの海産物が水揚げされてきた小浜・若狭地方は、京都から一番近い漁港という地理的な特徴もあり、朝廷に海産物などの食材を献上する「御食国(みけつくに)」として京都や奈良の都を食で支え、志摩(三重県)、淡路(兵庫県)と並んで三国に数えられていました。
このような若狭地域の食文化がわかる施設が「御食国若狭おばま食文化館」です。見学料無料で若狭地方の食に関する展示が楽しめるという、夏の暑い時期には特におすすめの施設です。

実際に小浜で水揚げされた海産物を都へ運んだ道として活躍したのが、「鯖街道」と呼ばれる通りです。
なぜ小浜が「食のまち」なの?鯖街道に迫る!
若狭湾の豊かな港町である小浜は、「鯖街道」(若狭街道など)という陸路で都と深く結ばれていた地域です。
下写真にある「京は遠ても十八里」という言葉は、重い荷物を担いで山道を歩く行商人が「小浜から京都までは遠いといっても、せいぜい十八里(約72km)しかないので大したことはない」と、若狭の人が自分を励ますために言ったものです。多くの人が常に行き来をしており、京都と若狭は強く結びついていました。

この鯖街道にはいくつかのルートがありましたが、熊川宿などを通る若狭街道(朽木ルート)が最も多くの物資が往来したメインルートでした。その他に、急峻な針畑峠を越えて朽木へ抜ける、最短距離の針畑越えや、琵琶湖の西岸を行く西近江路などがあります。

[参考] 三方五湖&日本海の絶景ポイント、江戸時代の町並みが残る日本遺産「熊川宿」、ヨーロッパへの玄関港だった敦賀など 北陸・福井の観光情報
https://tetsudo-ch.com/12982869.html
歴史の話に聞こえますが、この街道は現在も使われています。鯖街道ウルトラマラソンは、小浜から京都・出町柳までの約77kmを走る大会です。標高800m級の山を3つ越えるハードなコースで、2026年5月に第31回が開催されました。さらに地元では、小学生が1泊2日をかけて京都まで歩く行事が続いているといいます。

かつて魚を担いで京都を目指した道を、今も人が自分の足でたどっている。そう考えると、街道の見え方が変わってきませんか?
「食」文化を地域全体で支え、唯一の日本遺産プレミアムに!
広い館内には、この地域の昔の家屋も展示されていました。建物の作りは、前回の記事で紹介したような町家の作りそのもので、隣家との境界の防火のための壁も再現されています。

この家の前では、魚を干している様子も再現されており、少し前の「昔食生活」の様子がうかがえます。この地域では、周辺の海で獲れた豊富な魚介類を上手に活用して生活していたという様子がわかります。
室内の食卓には、鯖を醤油ベースの特製ダレに漬け込み干した鯖の醤油干しのおかずにした食事が並びます。

小浜市は2000年8月から、地域振興策として「食のまちづくり」に取り組み始めました。食にかかわる生産・加工・文化を一体でとらえる考え方です。そして2001年に食をテーマにした条例としては日本初となる「食のまちづくり条例」を制定しました。その拠点施設として2003年9月に開館したのがこの食文化館です。つまりここは、観光客を集めるために建てられた施設ではなく、食によるまちづくりの中核施設としてつくられた場所となっており、「小浜の食の歴史」を展示でも扱っています。
宇宙に行った鯖缶が、ここにあります!
この地域にとって「鯖」は、大変身近な食材で、普段の食事から行事の際の料理まで、様々な鯖料理を味わうことができます。「浜焼き鯖」は、脂の乗った鯖を一本丸ごと串に刺して、味を付けずにじっくり素焼きにした郷土料理です。
福井県立小浜水産高校(現在は福井県立若狭高等学校)の生徒たちが長い期間にわたって研究を重ね、2018年にJAXAの「宇宙日本食」認証を取得した鯖缶もここにはあります。宇宙食には、無重力でも汁が飛び散らないとろみや、長期保存に耐える品質など、地上の缶詰とは別の条件が求められますが、それを高校の授業の中で実現させました。この宇宙鯖缶の誕生のストーリーは、フジテレビで2026年1〜3月でドラマ化されました。

鯖ずしは、塩や酢で締めた鯖を酢飯にのせ、棒状や型などで押し固めて作る日本の伝統的な寿司(棒寿司や姿寿司など)として知られています。冷凍技術がない時代に、若狭湾の海沿いから京都へ鯖を運ぶ「鯖街道」の道中で、塩蔵した鯖が適度に酢で締まったことがルーツといわれています。

館内には、地元である若狭周辺の食を紹介する展示が多く並んでいました。取材時には、和食の代表ともいえるお寿司のルーツなどを紹介する展示や、全国各地で味や食材が異なる「おせち」を一堂に集結させての展示など、食に関わるミュージアムとしても楽しむことができるようになっていました。

「御食国若狭おばま食文化館」ミュージアム
住所 福井県小浜市川崎3-4
開館時間 9:00〜18:00(11月〜2月末は9:00〜17:00)
入館料 無料
休館日 水曜(祝日の場合は開館)、12月28日〜1月5日
アクセス JR小浜駅から徒歩20分/小浜ICから車で8分・駐車場あり
若狭の鯖料理を実際に味わいます!
食文化館で、鯖を使った料理が小浜周辺では大変親しまれていることをあらためて確認した後、近くにある「若狭フィッシャーマンズワーフ」を訪れました。海に面したこの場所は、有名な景勝地である蘇洞門(そとも)をめぐる遊覧船が発着する場所であり、小浜や福井県のお土産を扱うショップがあります。

福井県小浜市の特産品である小鯛のささ漬や鯖寿司、伝統工芸品である若狭塗箸など、この土地ならではのお土産品が揃います。

2階にあるレストラン海幸苑(かいこうえん)では、港直送の新鮮な海の幸を使った料理が堪能できます。

今回は、先ほどのミュージアムでも見かけた名物料理である「浜焼き鯖定食」(3,300円)を頂きます。脂の乗った鯖を一匹丸ごと竹串に刺して、炭火でじっくり焼き上げるという豪快な小浜の名物料理です。

鯖は味付けをしない素焼きの状態で提供され、しょうが醤油をつけて味わいます。油のたっぷり乗った鯖を”しょうが醤油”でさっぱり食べるというのが、さっぱりしていて絶品の定食でした。
その他にも、小浜丼(2,500円)など、漁港が近い場所ならではの料理を堪能することができます。

「蘇洞門(そとも)めぐり遊覧船」
今回の取材では、天候の都合で行けなかったのですが、この若狭フィッシャーマンズワーフの前から船が出る「蘇洞門(そとも)めぐり遊覧船」も非常におすすめです。

この小浜の周辺には、日本海側では珍しいリアス海岸が広がっています。ダイナミックな断崖や洞門が続く名勝「蘇洞門(そとも)」へと、長さ6キロのも続く断崖美を眺めながらの約60分のクルージングになります。

ここからは再び、食文化館の2階へ戻り、この地域の伝統工芸「若狭塗」の体験を紹介します。
自分で完成させる「世界で唯一のお箸」若狭塗箸の研ぎ出し体験!
御食国若狭おばま食文化館の2階では、若狭塗(わかさぬり)という塗り箸の削り(研ぎ出し)体験も楽しめます。休みの日を中心に大変な人気となるこの若狭塗箸の制作体験、今回は筆者も体験をさせて頂きました。
若狭塗は、江戸時代初期に小浜藩の塗師が、若狭湾の海底の様子をデザインしたのが始まりだとされます。宝石のような美しい模様の若狭塗は一部の公家や武家、裕福な商家で使う調度品のみで扱われたという小浜市の伝統的な漆器で、お箸やお盆などがあります。若狭塗の箸は、塗り箸として日本一の生産量を誇り、国内の8割のシェアを持ちます。

若狭塗は、貝殻や卵の殻、松葉、金銀箔などを用いて表面に凹凸をつけ、その上から色漆を十数回も重ねるところから始まります。その後、石や炭で研いでいくと、漆の下に埋もれていた模様が浮かび上がってきます。
体験ができるのは、この工程の最後の部分「研ぎ出し」の部分です。
若狭塗の先生がつき、やり方を教えてくれながらの体験なので、初めての方でも安心して参加できます。

体験用に最初に選ぶお箸は、何層にも漆が塗り重ねられたものです。貝殻や卵の殻などを色漆で塗り重ねたものだそうなので、どういった模様が出てくるのか楽しみです。

やり方自体はそれほど難しくはなく、板の上に箸を置き、親指を上にしてスライドさせてサンドペーパーで表面をこすり削っていきます。先生のアドバイスを聞きながら、箸を回転させて少しずつ全体を削っていきます。
お箸に浮き出てくる線が一周きれいにつながったら、水をつけてその部分を仕上げていきます。思った以上に力を使う作業で、削る手を左右変えながらやらないと、片方の腕だけが疲れてしまうほどです。

削りかすが出てきたら、水で洗ったり布を使って表面をならしていきます。削ることを続けていくと、徐々に違う色のが見えてきます。よく見ると貝殻の模様が浮かんでくるのがわかります。
削る事10分ほど。削り始める前と比べると、模様がだいぶ浮かび上がってきました。

箸を濡らしながら更に作業を続けると、ようやく貝の模様がくっきりわかるようになりました。ここで1本目の作業を終了して次の箸に移ります。そして削りはじめてから25分、両方の箸が整ってきたところで、きれいに水で洗って作業終了です。
今回の体験取材で印象的だったのは、「削れば削るだけよいわけではない」という点でした。研ぎ具合によって現れる模様が変わるため、どこで止めるかで仕上がりが決まるそうです。そのため、同じ材料から始めても、二つとして同じものにはならないそうです。
最後は、職人さんが工具を使って作業をして、自分自身で削った若狭塗の箸を完成させてくれました。

自分自身で最後に完成させるという体験は珍しく、思い出にも残るお箸になりました。
食文化館の2階にも、色鮮やかな多くの塗り箸が売られています。値段はお手頃のものから少し高いものまでそろっているので、プレゼントにも最適です。毎日使うお箸を、お気に入りの少し贅沢なものに変えるだけで、食事をするときの気分もかなり変わるのではないでしょうか。

若狭塗の箸の研ぎ出し体験(食文化館2階 若狭工房にて)
・所要時間 約40分
・料金 1,500円台(要予約)電話またはWebの申込フォームから
その他、若狭めのう細工体験や若狭和紙の色紙漉き体験、はがき漉き体験なども楽しめます。詳しくはHPなどでご確認ください。
食文化館3階、露天風呂から海が見える温浴施設「濱の湯」
またこの「御食国若狭おばま食文化館」の3階(1階が受付)には、温浴施設「濱の湯」があります。なかでも名物の露天風呂・海草風呂は、不老長寿の湯という別名で人気です。お食事処やサウナもあるこの施設ですが、特に露天風呂から眺める夕日が絶景だそうです。

小浜を1日で歩くモデルコース
今回紹介した、おばま水族館・食文化館・浜焼き鯖・若狭塗箸を1日でまわる場合の目安です。
10:00 JR小浜駅着
10:00 →10:20 小浜西組・三丁町へ (徒歩 約20分)
10:20 おばま水族館(滞在 約40分)
11:00 小浜西組の町並み・カフェを散策 (徒歩圏内、約45分散策)
11:45 →12:00 川崎地区へ(徒歩 約15分・途中人魚像のあるマーメイドテラスや人魚の浜海水浴場があります)
12:00 若狭フィッシャーマンズワーフ(お土産屋、レストランで食事など、約60分)
13:00 →13:05 食文化館へ (徒歩 約5分)
13:05 御食国若狭おばま食文化館 ミュージアム見学(無料、約50分)
14:00 若狭工房で若狭塗箸の研ぎ出し体験 (館内2階・ 約40分、実施や開始時間などは要確認)
14:45 併設の日帰り温浴施設「濱の湯」でひと風呂・お土産探し(約45分)
15:30 →15:50 JR小浜駅へ (徒歩 約20分)
こちらはあくまで、おおよその移動や滞在時間の目安です。これに加え、「蘇洞門(そとも)めぐり遊覧船」への乗車や、前回記事でご紹介した、800年生きた尼が眠る洞窟のある「空印寺」、築100年の町家をリニューアルした町家カフェ「39食堂」等もおすすめですよ。
(おばま水族館:木・金・土・日・祝のみ開館(月・火・水は休館)、御食国若狭おばま食文化館・若狭工房:水曜が休館でそれ以外が開館、濱の湯:毎月第3水曜は休館)

学生たちの熱意が詰まった手作りの水族館から、鯖街道が育てた御食国の食文化、そして世界に一つだけのお箸を作る伝統工芸体験まで、小浜市の魅力的なスポットを抜粋してご紹介しました。ぜひこの夏休みの期間に、見て触れて、自ら体験する、福井県小浜への旅へ出かけてみませんか。
(文・写真:鎌田啓吾)
旅とおでかけ 鉄道チャンネル
