「おもちゃ買ってあげる、なんて言えない…」〈年金月15万円〉66歳男性、実家帰省の長男家族が「もはや重荷でしかない」現実
年金暮らしのシニアにとって、孫の帰省は喜びである一方、重い経済的・身体的負担となる現実があります。ある男性の事例から、物価高やシニア層の生活事情が招く帰省負担についてみていきます。
待ち遠しかった孫の帰省
「昔はお盆や正月がただ楽しみで仕方がなかったんです。でも今は、それだけではない、複雑な気持ちになります」
東京郊外の一戸建てに一人で暮らす高橋正雄さん(66歳・仮名)。正雄さんは60歳で定年退職後、65歳まで嘱託社員として勤務しました。現在の収入は公的年金の月15万円のみ。それだけでは生活が苦しいので、たまにスキマバイトをして、月2万〜3万円ほど得ているそうです。
「もう組織で働くのはいいかなと思い、年金を受け取り始めるのと同時に退職をしたのですが、年金だけだと赤字の月もあって……貯蓄はできるだけ取り崩したくないので、単発バイトをやるようになったんです」
貯蓄は800万円。将来的に介護が必要になったときのために、できるだけ取り崩したくない、できるだけ死守したいと考えています。
内閣府の『令和8年版高齢社会白書』によると、日本の65歳以上の高齢者のうち39.0%が「収入を伴う仕事をしたい(続けたい)」と回答。その仕事をしたい主な理由として、48.2%が「収入がほしいから」と、最も多くなっています。また、同白書によると公的年金・恩給を受給している高齢者世帯のうち、それらが「総所得の100%(すべて)」を占める世帯は4割を超えます。年金のみでは突発的な支出に対応しきれず、多くの高齢者が就労を余儀なくされているのが現実です。
普段、重くのしかかるのが、関西に住む長男(34歳)家族。小学1年生と幼稚園生の孫とともに、盆や正月、大型連休に実家へやってきます。
「かわいい孫に会えるのに、嬉しくないわけがありません。ただ心からそう言えるかといえば、正直、ウソになります。妻を亡くして、家にいるのは私一人ですから、どうしても負担が大きいんですよ」
一人暮らしの自宅に長男一家4人が滞在する数日間、正雄さんの負担は精神面・体力面・金銭面のすべてにおいて急増します。
「普段は一人ですから、散らかり放題。人を迎えるのに、まずは家中掃除。大掃除が年2回以上ある、それを一人でやる、そう想像していただければ、結構きついことがお分かりでしょう」
布団も4組用意します。小さな子どもたちが喜ぶよう、あらかじめ“今好きなお菓子やジュース”をリサーチしておき、買いだめしておきます。普段はお弁当を買ってきて済ますことも多い食事も、このときばかりはそうはいきません。夕食は出前を取ったり外食をしたりしますが、朝食や昼食は料理が苦手ながらも高橋さんが用意します。義理の娘に手伝わせるわけにはいきません。普段は共働きで忙しくしているのですから、休んでもらわないとわざわざ関西から来る意味がないと考えているからです。
片道8万円ほども払って東京に来てくれているのですから、基本的に滞在中の出費は高橋さんが払います。それくらいは仕方がないと思っています。また関西に帰るときには、「少ないけど」と添えて、2人の孫にお小遣いをあげます。まだ未就学児だから「500円玉×2枚」。それでも「じぃじ、ありがとう」と喜んでくれる――孫は素直でいい子です。
思わぬハプニングと苦渋の選択
このような出費に備えるためにもスキマバイトをしているといっても過言ではありません。昨年の夏には滞在費が8万円を超えました。それだけで、3〜4カ月分のバイト収入がなくなります。でも仕方がないと思っていました。しかし、一大事が発生します。正雄さん、単発バイトもできないほど腰を痛めてしまったのです。
「腰を痛めてバイトに行けなくなり、収入が途絶えました。それなのに、次の正月には当たり前のように長男から『今年も帰るよ』と連絡が入ったんです」
「来なくていい」と言えるわけもなく、「待っているよ」と答えました。正月に向けては、死守したかった貯金を取り崩すことになります。物価高の影響で食品も日用品も値上がりしているなかの苦渋の決断――そう言っても過言ではありません。
こうして何とか長男家族を迎えることになりました。そのようななか、高橋さんはほぼ腰は治っているものの、まだ腰が痛むふりをしたといいます。
「正月には『遅めのクリスマス』といって玩具店に行くのが定番。しかし上の子なんかは小学生になって、欲しがるものも高くて……ゲーム機なんて何万円もするでしょ? とても『おもちゃ買ってあげる』なんて、威勢のいいことは言えないんです」
そのような懐事情を優先して、できるだけ外出をしないように、するにしても長男家族だけで――そのように仕向けたわけです。
「情けないですよ。そんな嘘をつかなきゃいけないなんて。今後、孫が成長するにしたがって、支出も増えていくでしょ。きっと長男は『無理をしなくていい』とは言ってくれるけれど、こちらもプライドがある。でも自由になるお金はない――嘘をつくしかないんですよ」
金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](2025年)』によると、60代単身世帯の50.7%が年金について「日常生活費程度もまかなうのが難しい」と回答しています。また、老後の生活資金源(複数回答)として「公的年金(73.2%)」に次いで「就業による収入(29.2%)」や「金融資産の取り崩し(25.1%)」を挙げる人が多く、働くことや貯蓄の取り崩しを前提とした生活設計となっています。
孫の成長は大きな喜びである一方、限られた年金で暮らす高齢者には切実な負担にもなり得ます。互いに無理のない帰り方や付き合い方をオープンに話し合うことが、これからのシニアの家計と絆を守る第一歩といえそうです。

