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2軍から「上で通用する戦力」を次々に上げている入来コーチ。その育成方法の在り方とは?(C)萩原孝弘

異例の「初勝利11人」

 今シーズンのDeNAベイスターズの投手陣を象徴する数字がある。それは、NPB初勝利を挙げた人数だ。篠木健太郎、岩田将貴、橋本達弥、深沢鳳介、片山皓心、ハンセル・マルセリーノ、オースティン・コックス、ホセ・ルイーズ、ショーン・レイノルズ、島田舜也、オスバルド・ビド。実に11人に上る。

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 新外国人を除いても7人。主力投手や先発ローテーションの離脱が相次ぐ苦しいシーズンにあって、次々と新しい戦力が1軍で結果を残し、白星を積み重ねているのだ。

 この数字は偶然ではない。2軍施設のある横須賀で課題と向き合いながら1軍で挑戦をし、壁にぶつかれば再び横須賀へ戻る。そうして、さらなる磨きをかけてもう一度横浜へ帰ってくる。今年のベイスターズには、1、2軍を結ぶ確かな育成サイクルがある。その中心で投手たちを手塩にかけて育成しているのが、入来祐作ファーム投手コーチだ。

「今、上は“横須賀ベイスターズ”ですから。こうなることは、もう目に見えてたので」

 春季キャンプの段階から「今年は総動員になる」と見据えていた入来コーチは、その日が来ることを想定しながら、横須賀で投手たちを鍛え続けてきた。

 選手たちへ最も強く求めているのは、“勝つための練習”の積み重ね、だ。

「投球練習をただの調整にするんではなく、そこにプラスして技術練習といったものをしっかりやらなきゃいけないと伝えてるんです。ただ肩の調子を整えるだけのピッチングをするのはやめてくれと。10球でも、20球でもいいので、とにかく傾斜に入って技術練習を増やしていきなさいと。技術はすぐにはものにできませんからね」

 2軍で結果を残しても、1軍で通用する保証はない。しかし、入来コーチは、その差を特別なものとは考えていない。

「(1軍と2軍の)違いは、たくさんのお客さんがいる、レベルの高いバッターがいる、それだけの違い」

 だからこそ、ファームでも徹底して勝負へのこだわりを植え付ける。

「僕は2軍でもしっかり勝つためのゲーム作りをしてますので、調整で投げさせるってことはしていません。勝つための意識を常に持たせた過ごし方をさせている。ファームでも勝つためのピッチングをするためにはどんな技術が必要なんだろうっていうことを個々にしっかり話をしてます。その辺のところを徹底しているので、みんな考える力を持ってくれてる。なので、上に行った時にしっかり勝負ができる」

変則左腕の岩田。凄まじい球威の速球を持っているわけではない彼がどうしてブレイクを遂げたのか。その背景には、入来コーチの言う「技術」があった(C)産経新聞社

技術とは“見る力”。その意味は――

 入来コーチの指導は、単に球速や球威だけを追い求めるものではない。群雄割拠のプロ野球という世界で、圧倒的な力で打者をねじ伏せられる投手は、ごく一握り。だからこそ、多くの投手には”技術”が必要だという。

 今シーズンにブレイクを遂げた変則左腕の岩田も、入来コーチの考え方を象徴する一人だった。

「すごい球があるわけじゃない。なので、どうやっても球数を要するんです。それを覚悟の上でやりなさいと」

 カウントが悪くなれば終わりではない。そこからどう打者を観察し、自分の技術を使ってアウトを重ねるか。そんな駆け引きの積み重ねこそが、プロで生き残る術だと説く。

「結局は『根負けするな』ですよ。根負けするなって言ったら精神論に聞こえますけど、そうじゃなくて、それは技術なんです。絶対バッターには隙がある。カウントによっても、ランナーがいてもいなくても、バッターの様子って変わるんです。そこで自分が持ってる技術の中でどう攻めたらアウトにできるか。もうとにかく『網の目をくぐるような思いで野球を見なさい』と常に言ってます」

 その言葉が示すのは、相手を観察する力、状況を読む力、自分の武器を正しく理解する力。奥深い“技術”こそが、プロの世界で生き抜く鍵と、入来コーチは掲げている。

 またDeNAが得意とするデータ集積も「重要な武器」と言い切る。

「データは大切です。データを参考にしながら、どういう風にこのバッターの特徴があって、どういう風に抑えていけばいいのか。これをミックスさせていかないといけない」

 1軍で結果を残せなかった選手には、課題をできるだけシンプルに整理し、一つずつ克服させる。その取り組みで花を咲かせた代表例が深沢鳳介だ。4、5月での3先発で0勝1敗と苦しんだが、7月5日に初勝利をマーク。すると、同月18日には初完封と一気に跳ねた。

「深沢は簡単です。真っすぐが通らなかった。真っすぐが1軍のレベルに到達してなかった。だから、そこにフォーカスして2軍での日々を過ごしなさい。それだけです」

 求めさせたのは、ストレートの改善のみ。「技術はある」と睨んでいた入来コーチは、課題のストレートを平均球速は2〜3キロ向上に目を向けさせ、1軍で通用するレベルまで引き上げた。その努力が目に見える結果に結びついた。

 今季は深沢だけではなく、片山皓心、武田陸玖、庄司陽斗らも1軍で壁にぶつかり、再び横須賀へ戻った。しかし、それは後退ではない。1軍を経験したからこそ、己に何が足りないのかを理解し、課題へ向き合えるステップのひとつである。

「ファームで、いくら『こうなるよ』と言っても最初は分からない。でも、それは必ず上に行った時に直面するので、みんな僕の言うことにしっかり聞く耳を持ってもらってるんだと思います」

 課題を向き合う日々の積み重ねが、選手たちが再び1軍で結果を残す土台になっている。

横須賀で育て、横浜で勝たせる育成サイクル

 厳しい要求を突き付けながらも、選手たちが入来コーチについていくのには、「理由」がある。

「一緒に野球やってたら厳しいと思いますよ。だけど、それが彼らの技術になって、上に行っても投げれる選手になる。僕なりの判断で『こういう風にすれば絶対に上で通用する』ということを個々に伝え続けている。それを選手たちが僕のこと信じて、ちゃんと行動に移してくれる。信じてもらってるってのが、ありがたいですね」

 未来を見据え、1軍で勝てる投手へと育てるための厳しさ。それは優しさとイコールだと選手も理解しているからこそ、強固な信頼関係が築かれる。

 横須賀で磨かれた投手たちを、1軍で受け止める小杉陽太投手コーチも、今季の若手投手陣の活躍について問うと、真っ先に2軍組織への感謝を口にした。

「ファームでしっかり結果を出して上がってきた選手が良いパフォーマンスを出してくれている。村田(修一)監督、入来さんを含め、コーチ陣やスタッフの皆さんの日々の努力の賜物だと思います」

 R&D(データ分析、および最新テクノロジーを駆使しチーム戦略の企画、実行を担う部署)スタッフを含め、多くの人間が選手の課題解決に関わる。1軍首脳陣の役割を「上がってきた選手に機会を与えてあげることしかできない」と語る小杉コーチは、「そういった人たちが作ってきてくれたものを僕らはあとは背中を押すだけ」とファームスタッフに最敬礼する。

 先発陣だけではない。若松尚輝、浜地真澄、松本凌人らがブルペン陣を厚くしている。彼らが結果を出してくれるからこそ、坂本裕哉、ルイーズ、中川虎大らを早めにファームでリフレッシュさせられる一種の相乗効果もある。「不調になればファームで再調整し、状態が良い選手が1軍へ上がる」という好循環こそが、チームの底上げに直結していると小杉コーチは指摘する。

「1軍で不調になって、ズルズル引きずるよりは一旦ファームに行って、しっかりコンディションだったり課題に取り組む時間を全員が作れている。このサイクルがすごく大事だと思う。そういう土台を作ってくれているのが今の形。今年だけじゃなくて、長い将来を見据えても、やっぱり戦力の底上げっていうのはすごく大事なことなので。それが出来ているのはすごく良いのかなと思います」

 余裕を持った投手運用は、同時に怪我防止や勤続疲労のケアにもつながる。それはチーム作りの根幹にも関わってくる。

 当然ながら、初勝利11人という数字は、苦しい投手事情にも関連している。ただ、一見ピンチに見える運用を、チャンスに変えた証拠でもある。入来コーチの「勝つための技術」という哲学。そして、その成果を花開かせる1軍首脳陣。誰がマウンドに立っても勝負できる体制へと変わりつつあるベイスターズ投手陣は、後半戦も総動員で戦っていく。

[取材・文/萩原孝弘]