「出社回帰」の流れは加速するのか(写真:mapo_japan/Shutterstock.com)


 GMOインターネットグループ代表(会長兼社長執行役員・CEO兼グループCAIO)の熊谷正寿氏が、週1日の在宅勤務を推奨する方針を見直したことが大きな注目を集めました。ネット上では「出社の方が効率的」などと支持する声もあった一方、多く見られたのは批判的なコメントです。

 熊谷氏が「時間当たりのPCタイピング数は確実に減少」「トータルで在宅勤務はマイナス」「負ける要素は排除」などと断じたことが、在宅勤務を真っ向から否定しているかのように受け取られた感もあります。著名経営者によるSNS上での強い言葉は独り歩きしやすく、真意と異なるニュアンスで世間に伝わってしまった面は否めません。

GMOインターネットグループ会長兼社長執行役員の熊谷正寿氏(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)


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テレワーク実施率は半減、出社回帰はどこまで進んだか

 その後、熊谷氏は「在宅勤務という働き方自体を否定するものではない」と方針の趣旨を補足しましたが、在宅などでのテレワーク推奨をやめて出社を優先する動きは、他にもあちこちの職場で見られます。

 コロナ禍で真っ先に在宅勤務を導入したGMOが原則出社を推奨する方針へとかじを切ったことで、出社回帰の潮流はさらに勢いを増していくことになるのでしょうか。

 日本生産性本部が公表している「働く人の意識調査」によると、テレワーク実施率は最も高かったコロナ禍発生直後の2020年5月でも31.5%。直近の2026年1月調査では15.4%と半減しました。ピーク時でもテレワークで働いていた人は少数派であり、7割近くの大多数は出社勤務だったことになります。

 販売、飲食、医療、介護など、対面対応や現場での作業を中心とする職務では、業務全体をテレワークに移行することが難しい場合が少なくないのが実情です。出社回帰とは、あくまでテレワーク可能な職務に対してのみ当てはまる言葉に過ぎません。

 ただ、それでもコロナ禍中に政府から出勤削減が要請されていたころの通勤電車は、明らかに混雑度合いが緩和されていました。その点、いまの通勤風景はコロナ禍前にほぼ戻った感があり、出社回帰が進んでいる様子がうかがえます。

 テレワークという勤務形態は以前からあり政府も推奨していましたが、コロナ禍まではほとんどの人にとってあまり現実味のない働き方だった感があります。そのため、あえて出社勤務という言葉を使うまでもなく、勤務するといえば出張や客先への直行といった特別なケースを除いて「職場に出社すること」一択でした。

 ところが、コロナ禍後は出社勤務する場合の職場の在り方も一様ではなくなっています。同じ出社勤務という言葉であっても、意味するところは職場によって大きく異なるようになったのです。

テレワーク可否×柔軟性で見える、出社勤務「4つのタイプ」

 現時点でテレワークが「できない」か「できる」かを縦軸、職場の勤務ルールに対するスタンスが「一律適用重視」か「個別最適重視」かを横軸として分類すると、出社勤務の職場は別掲図のように大きく4つに分かれます。

 横軸の「一律適用重視」とは、勤務時間は9:00〜18:00、勤務日は月〜金曜日という具合に職場が決めた勤務ルールに全社員が合わせることを基本としているスタンスを指します。

「個別最適重視」とは、9:00〜18:00といった定時はあったとしても、必要な際には休みを取ったりフレックス勤務が利用できて勤務時間をずらしたりしやすいなど、できる限り個々の都合に合わせて柔軟に働けることを基本としているスタンスを指します。

 テレワークができず、かつ一律適用重視の職場での出社勤務は「従来型」です。コロナ禍前であればほとんどの会社にとって普通の勤務形態であり、いまも多くの職場が以前から何も変わることなく、このカテゴリーに当てはまるのではないかと思います。

 一方、テレワークできないものの、個別最適重視の職場の出社勤務は「途上型」です。いまは出社勤務一択になっていますが、個々の要望に合わせて柔軟な選択ができるよう、インターネット環境の整備やDX、業務の再設計などを進めています。準備が整えば、在宅勤務も含めたテレワークができるようになっていきます。

 また、レジ横の画面にアバター(分身)の画像を映し出して遠隔地にいるオペレーターが接客するなど、これまで出社が不可欠と思われていた職務でもテレワークできる範囲が広がってきています。今後、ロボットとAIを組み合わせたフィジカルAIや遠隔操作技術などの進展次第では、「テレワークできる仕事」と「できない仕事」の境界線が大きく変化していくことも考えられます。

GMOは「他律型」か、原則出社でも社員に選ばれる条件

 テレワークはできるものの、一律適用重視の職場での出社勤務は「他律型」です。社員がテレワークを希望して選択していたとしても、会社が出社回帰の方針を打ち出した場合には合わせることになります。自身の意思で選択するのではなく、会社の方針に従う形で出社勤務します。

 一方、テレワークができて個別最適重視の職場での出社勤務は「自律型」です。社員はテレワークで働くこともできますが、出社した方が仕事に集中できたり家庭とのオン・オフを切り替えやすいなどの理由から、自らの意思で選んで出社勤務します。

 冒頭で触れたGMOインターネットグループの場合は、テレワーク環境はしっかりと整えられている一方で、グループ全体としての新たな方針へと転換しているので「他律型」の出社勤務に当てはまるかと思います。本音を表に出すかどうかは別として、テレワークを希望している社員は不満を抱く可能性はあります。

 ただ、だからといって仕事へのモチベーションが下がったり、即退職につながるような事態に発展するとは限りません。テレワークできるかどうかは、その会社で勤務する条件の一つに過ぎないからです。

 仕事にやりがいがある、一緒に働いている仲間が好き、会社の理念に共感できる、社長を尊敬している、多くの成長機会がある……など、会社で働いている理由はいくつもあります。

 原則出社を推奨する方針へとかじを切ったGMOでは、AI時代を勝ち抜くためのインフラ整備に力を入れたり、平均年収日本一(2100万円)を目指す取り組み、無料の食事・ドリンクを24時間提供するカフェ、社内託児所、仮眠リラクゼーションスペースの設置など社員が出社したくなるような職場環境整備にも取り組んでいるようです。

 つまり、会社が社員から選ばれ続けるだけの魅力を備えたり、待遇を提示するといった手をしっかりと打っているという自負に裏打ちされた出社回帰とも言えます。もし「GMOが出社回帰したなら、テレワーク環境など整備する必要はない」などと安易に受け止めてしまうと、重大な誤認につながる可能性があります。

 中には、出社回帰へと方針転換することで、テレワーク希望者や長距離通勤者、育児・介護中の社員、地方在住者などが自ら退職していくことを期待する「静かなリストラ」を進めようとしているのではないかと疑念を持たれる場合もあります。

 テレワーク環境が整っているにもかかわらず出社回帰するという経営判断はデリケートで、ネガティブなメッセージとして社員に伝わってしまうリスクも伴うということです。

出社か在宅かの二択を超え、自社に最適な働き方を探る

 また、出社してリアルに顔を突き合わせた方が創造的な議論が生まれ、学び合う時間の価値が高まるかどうかも一概には言えません。

 熊谷氏はPCタイピング数だけで生産性を測ったかのような発信で誤解を招きましたが、仕事の成果はさまざまな捉え方があり、必ずしも数字で表される範囲だけで単純比較できるものではないはずです。

 例えば人事が行う採用なども、目標の採用人数を達成できたかどうかは、あくまで成果の一部です。

 目標数には足りなかったとしても、採用した人材の中からスーパースター社員が生まれたり、未来の社長が現れたりするかもしれません。その場合、成果が出るまでに数年から数十年の月日がかかることになります。逆に目標人数は達成しても、残念ながら活躍する社員が出てこないといったこともあり得ます。

 今回の熊谷氏の判断は、いま集められるすべての知見を注ぎ込んだ上での選択であり、結果が出るのは何年も後のことです。会社の命運をかけた経営トップの決断の是非を軽々しく論じることなどできません。目先の情報だけで評価を下すことの危うさを、改めて考えさせられます。

 大切なのは、出社回帰が良いか悪いかでも、テレワークが良いか悪いかでもなく、その会社にとってベストな選択をしているかどうかです。

 働きやすさに着目すれば「自律型」の職場は望ましいかもしれませんが、マネジメントがうまく機能しなければ、会社の業績に大きなマイナスが生じるかもしれません。一方で、「他律型」の職場は対面の良さを生かしやすいかもしれませんが、テレワークであっても対面以上の相乗効果を生み出せる手法を生み出す機会を逃すかもしれません。

 出社推奨にもテレワーク推奨にも、それぞれにメリットとデメリットがあります。会社としてはそれらをすべて洗い出して整理した上で、出社かテレワークかという単純な二項対立ではなく、自社の成果を最大化させ、社員にとって最も働きやすい就業環境を総合的な視点から模索する必要があるのではないでしょうか。

筆者:川上 敬太郎